小池百合子知事、築地市場の移転延期を表明 「『既定路線でしょ』とはならない」

視察を重ねた上で安全性、巨額・不透明な費用、情報公開の不足を「3つの疑問点」として延期の理由に挙げた。
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11月7日に予定されていた東京・築地市場(中央区)の豊洲新市場(江東区)への移転について、8月31日、小池百合子都知事が記者会見を開いて移転を延期することを発表した。また、これに伴い築地市場の閉鎖・取り壊しも延期する。

小池氏は市場関係者や都議会が移転に賛成したことなどから「11月7日の移転には賛否両論ある」としながらも、自身の視察などの結果、「安全性」「巨額・不透明な費用」「情報公開の不足」という「3つの疑問点」があり、まだ解消されていないとして、延期の理由とした。

また、「かねてより都民ファーストと述べさせていただいた。都民・市場で働く人にとって納得いくものか?と考え、納得いくものであるべきだと思った」として、「小池都政では『既定路線でしょ』『一度作ってしまったのだから何も考えなくてよい』という考え方はとりません。情報公開をして都民の利益を第一に、特には政策の変更もして都政運営をする」とも話した。

また、「市場問題プロジェクトチーム」を立ち上げて、建築、土壌、公営企業の専門家が調査をすると発表した。プロジェクトチームでは、土壌汚染の確認や新施設の改良、市場関係者への支援措置などを検討するという。調査結果の時期について質疑応答で小池氏は「速やかに」とだけ回答したが、少なくとも土壌汚染調査の結果が公表される1月以降になるという。

小池氏が挙げた3つの疑問点の概要は以下の通り。

安全性:849億円かけて土壌汚染対策を実施してきた。しかし、安全性を確認するための2年間の地下水モニタリングの最後(第9回)の採水・結果公表が完了する前に移転が予定されている。法律上の問題はないが、「食の安全」については生活者の目線を大切にしなければいけない。2年間のモニタリング結果を見届けるのは安全性の確認・説得力において譲ることができない。

費用の増大:豊洲新市場の費用は2015年3月時点で、全体で5884億円。建物の建設費だけで2752億円。これだけの費用に驚いてしまう。全体予算は、2011年は3926億円だったが4年間で5884億円に膨らんでいる。建設費だけが急に膨らんでいる。昨今の建設コスト高騰は承知しているが、建設費の3倍近い増大は疑問。精査して都民に説明する必要がある。坪単価は220万円になっている。同様の建物の相場は50〜60万円。なぜ大きくなったのか知りたい。

情報公開不足:明日から改革本部がスタートする。豊洲新市場がそこでこんなにお金をかけていながら業者から不満が多く出てくること、安全性への疑問が拭えないのは、ちゃんと情報が伝わっていなかったことが問題。都民の普通の疑問に真摯に向き合わなければいけない。

■これまでの経緯

小池氏は、豊洲市場の地下水のモニタリング調査が移転前に終わっていないことを疑問視。豊洲市場の土壌の安全性確認などが不十分だと判断した。8月30日午前、小池氏は報道陣の取材に対し「近々会見など開き、その場ではっきり話をする」と述べた。

26日の記者会見で小池氏は「検査結果が出る前の開場に大変、大きな疑問を持っている。日程的にお構いなしに決める当局の対応はいかがなものか」と移転延期の可能性を示唆。その上で、「決まった日程でそのまま進めていいのかを含め、私に責任があるので総合的に判断する」と、近く最終判断する意向を示していた

小池氏は7月の都知事選で、移転について「一歩立ち止まって考えなければならない」と発言。知事就任後は移転賛成派と反対派の双方と面談し、8月16日には両市場を視察した

また小池氏は、当初は4316億円だった豊洲市場の総事業費が5884億円に膨らんだことを問題視。加えて、間口の広さなどの「使い勝手」の点で業者らから不満の声が上がっていることも課題に挙げ、改善点を調べる考えを示している

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東京都中央卸売市場の公式サイト。移転までのカウントダウンが掲載されている

豊洲市場への移転をめぐっては、都と市場の業界団体が14年末に移転時期を決定。都は土壌汚染対策のため、地盤を掘り下げて土を入れ替える工事を実施。地下水を監視するシステムも導入するなど土壌汚染対策に約850億円を費やしている。

これまで、豊洲で過去7回実施された地下水のモニタリング調査では、その全てが環境基準値以下だった。最終調査は11月18日に始まり、2017年1月中旬ごろに結果が判明する。

朝日新聞デジタルによると、業界団体で作る築地市場協会の伊藤裕康会長は「開場を延期すると、年末年始を含む繁忙期に計画の練り直しを強いられ、経済的な負担が生じる」として、予定通りの開場を求めている。

築地市場の跡地には、2020年東京五輪・パラリンピックの幹線道路となる「環状2号線」が建設予定で、移転が延期されれば工事が遅れる可能性がある。また、共同通信は「移転準備を進めていた業者への補償問題も浮上しそうだ」と指摘している。