中国で行方不明になった北海道教育大・袁克勤教授はスパイ容疑で起訴に向け捜査段階。「有罪は免れない」家族が心境明かす

「ただただ早く家に帰ってきて欲しい。もしまた会うことができたら、“本当にお疲れ様でした”と声をかけてあげたいです」(長女の袁螢さん)

2019年5月に中国・長春で連絡が取れなくなった北海道教育大学の袁克勤(えん・こくきん)教授は、スパイ容疑で現地の検察当局から取り調べを受けていることが、中国外交部の発表でわかった。

外交部の耿爽(こう・そう)報道官は「本人も認めていて証拠は確かだ」と話している。

一方で、長女の袁螢(えん・けい)さんは「父はスパイなどではなく無実です。無実の人が多くこのような目に遭っていることを知って欲しい」と訴えている。

■失踪までの経緯

北海道教育大学の袁克勤教授(64)は戦後の東アジア政治史が専門。母親の葬儀に出席するため、2019年5月に妻とともに中国東北部・長春を訪れたが、その後連絡が取れなくなった。家族によると、参列した翌日に路上で公安部とみられる人たちに攫われたという。

妻はのちに解放されたが、このことについて口外することを禁止されていたといい、止むを得ず大学側には「高血圧の治療のため戻ることができない」と伝えていたという。

しかし、後になって妻が袁教授の妹に拘束について打ち明けたことから事態が発覚。これまで、北海道大学の岩下明裕教授ら有志グループが、中国側に情報を開示するよう呼びかけている。

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袁克勤教授(左)と妻(中央)。右は息子
袁螢さん提供

■海外メディアも注目

中国外交部が定例の記者会見で袁教授について言及したのは3月26日。耿爽報道官はスパイ容疑だと明らかにしたうえで「本人も認めていて証拠は確かだ。今は検察が起訴に向けて取り調べを進めていて、関係機関は十分に袁克勤の権利を保障している」と話した。

このニュースは多くの海外メディアも報道している。

アメリカのワシントンポストは「自白をして有罪判決を受けた人の多くが、のちになって拷問や脅迫を受けて自白したと話している」と指摘した。

香港紙のサウス・チャイナ・モーニング・ポストは、去年北海道大学の日本人教授が一時拘束されたことなどに触れ、「中国では習近平政権になってから、安全保障の名目で外国の組織や個人への調査を強めてきた。日本人だけでなく多くの外国人が拘束されている」とした。

■長女が取材応じる

袁教授の長女の袁螢さんがHuffPostの電話取材に応じた。

袁螢さんは袁教授の容疑については「本当にスパイなどではありません。いくら調べても証拠など出るはずもありません。絶対に無実です」と訴えた。

また袁教授はこれまでに何度も中国へ戻っていたが「これまで問題になったことはありませんでした。父が発表したものが問題視されたという情報もありますが、具体的なことはわかりません」としている。

袁螢さんによると、袁教授にはこれまでも捜査が入っていたが、証拠不十分で2度、起訴が見送りになっていたという。捜査が一気に進展したことについては「第三者が介入しないうちに早く判決を下して、この事件を終わらせたいということではないでしょうか」とし、裁判の行方については「今は本当に、すごく厳しい状況です。こうなったら有罪判決はもう免れません。そこは覚悟しています。量刑は分かりません。少しでも軽いものになることを望むだけです」と話した。

袁教授が行方不明になって以降 、袁螢さんは具体的な様子を知ることができないままでいる。「もうずっと父の顔を見ていませんし、声も聞いていない。健康状態もわからないんです。ただただ早く家に帰ってきて欲しい。もしまた会うことができたら、“本当にお疲れ様でした”と声をかけてあげたいです」

袁螢さんは海外の人権団体などと連携して、解放に向けた世論の形成に向けて動いている。そこには、袁教授は中国籍のため日本政府が動きにくいという事情もある。岩下教授らの作る有志グループでは教壇復帰を願い、署名を募っている

袁さんは取材の最後に、「今は助けを求めることしかできません。全く無実の人間がある日突然拘束され、家族も何の説明も受けられない。弁護士の入れないまま長期の拘束が続く。今回はたまたま父が拘束されましたが、これは多くある例の一つ。たくさんの人がこういう目に遭っているので、ひとごとではないことを分かって欲しいです」と訴えた。 

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袁教授の教壇復帰に向けた署名サイト
署名サイトより