「『変わった』という前例が生まれてほしい」 出口治明さん×原田曜平さん、参院選前に若者に向け対談 #YoungVoice

7月10日投開票の参院選を前に、若者を取り囲む状況などについて、ライフネット生命保険会長の出口治明さんと、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんが対談した。

7月10日投開票の参院選は、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられて初めての国政選挙となる。若者を取り囲む状況や投票行動の重要性などについて、ライフネット生命保険会長の出口治明さんと、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平さんがこのほど対談した。

ともに近著で政治や選挙、若者についてなど論じている2人。出口さんは「選挙は少しでも良いリーダーを選ぶことのできるまたとないチャンス」と話し、一方の原田さんは「若い人が支持した候補者が当選するとか、何かひとつでも『変わった』という前例が生まれてほしい」と語った。

出口治明 (でぐち・はるあき) 1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、72年に日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長や国際業務部長などを経て同社を退職。2008年にライフネット生命保険を開業し、13年6月より現職。主な著書に「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「生命保険とのつき合い方」(岩波新書)など多数。

原田曜平(はらだ・ようへい) 1977年東京都生まれ。慶応大学を卒業後、博報堂入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て現職。多摩大学非常勤講師。著書に『さとり世代』(角川oneテーマ21)、『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)、『パリピ経済』(新潮新書)など多数。

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原田曜平さん(左)と出口治明さん=東京都千代田区

誰に投票したらいいかわからないという不安

原田曜平さん(以下、原田):僕は若者研究をしていて、拙著『18歳選挙世代は日本を変えるか』のなかで世代論的な分析とともに、選挙と政治に関して18歳・19歳の若者たちとの対談を行っています。彼らの多くは「選挙権があるのはうれしい」としながらも、「政治のことをよく分かっていない私たちが投票していいのだろうか」と言っていました。

出口治明さん(以下、出口):実は、選挙の仕組みはものすごく簡単です。拙著『働く君に伝えたい「お金」の教養』でも書いたのですが、選挙のときは、メディアの世論調査で「Aさんが優勢だ」などと予測が出ます。もしその人でいいと思ったら、有権者には3つの方法があります。その人に投票する、棄権する、白票を投じる。全部が同じ結果になります。しかし、もし「Aさんは嫌だ」と思ったら場合、方法は一つしかありません。投票所に行って、Aさん以外の人の名前を書く。これ以外に意思表示の方法はありません。単純ですが、これが選挙というものです。ヨーロッパ、特に北欧では当たり前のこととして家庭や学校でこのように教えられているのですが、日本ではそのような教育はなされていません。

原田:僕は今年に入ってパリとロンドンで若者たちにインタビューしてきました。確かに親子でも友人同士でも政治や選挙について日本よりもよく議論し合っているし、そういう基本的なことを教える場が整っていると感じました。もちろん、どこの国にも政治に興味がなく、何を聞いても「わからない」と答える若者は多いので、日本の若者だけ政治意識が低いとは言えないのですが。

出口:どこでもそうですね。ただ、事実として数字で見るとヨーロッパのほうが日本より投票率が10ポイント以上高いし、若者の投票率も高い。その違いは何かといえば、今お話ししたように、大人が若者に最低限のリテラシーを伝えているかどうかなのです。

原田:そうですね。また、今の日本は全体的にいびつな人口構成で、若者の母数が非常に少ない。高齢者の意見が過剰に政治に反映される「シルバーデモクラシー」になっています。だからこそ、若者は少しでも政治に関心を持って、自分たちの未来を託せる人は誰なのかを見つけてほしい。母数は小さいですが、意思表明していくことで世の中が少しずつ変わっていくというのはあるわけですから。

出口:先ほどの例で言えば、「Aさん以外の人の選び方」ですね。原田さんがおっしゃったように、まず、誰が若者の役に立つかという視点がひとつ。もしそれが誰なのかが分からないのであれば女性に投票していいと僕は思います。日本は、他の先進国と比べて圧倒的に女性の政治家が少ないですから。また、日本は若者の政治家も少ないので、年の若い順に入れていくのも手です。

原田:とてもシンプルです。「政治のことが分からないから」なんて躊躇する必要はないのですね。

出口:そもそも若者の政治意識が低いのは、大人の意識が低いからです。日本では、「選びたい人がいなかったら白票を出せばいい」とか「棄権も政治不信の立派な意思表示」などと、ヨーロッパの高校生や中学生以下の発言を堂々とする評論家がいたりします。その結果、G7(アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、日本の七つの先進国)の投票率では日本が最下位となっているのです。

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出口治明さん

若者こそが社会の未来

出口:原田さんの著書の中に、今の若者は親と仲がいいとありました。「親といっしょに投票に行こう」とか、そういう今どきの若者ならではの考え方はとてもおもしろいと思います。

原田:弊社の意識調査などを見ても、親子仲はこの10年くらいで非常に良くなっていて、ケンカして家出するようなケースも少なくなっています。親子の仲が近すぎることに賛否両論あるものの、基本的に若者たちは経済的に困窮しているので、親にパラサイトせざるを得ません。それなら手を組んだほうがいいと、子供たちも合理的に考えているのです。

出口:背景にあるのは少子化と低成長ですね。パラサイトというよりも、機能的にはルームシェアに近いのだと思います。戦後の冷戦構造の中での人口増加、高度成長という幸運な時期を過ぎて、今の日本は大きな外的枠組みが全部変わりました。その変化に伴って、親子関係も変わってきている感じがします。

原田:僕としては若者を応援したいし、世代が若くなるほど人間は有望になると信じているところがあります。出口さんも本の中で、「若者は金の卵である」と書かれていましたね。

出口:生物学的にみれば、生き物はすべて次の世代を残すために生きています。それは明白な事実ですから、必然的に僕たちにとって若者こそが未来なのです。だから、大人が自分の未来である若者に対して「だらしない」などと悪口を言い、不満を並べても全く意味はありません。僕たち大人は若者に希望を持って、自分が経験したことや逆にできなかったことを伝えていくしかない。これが、僕の基本的な立場です。

原田:出口さんのような方が大勢いたらうれしいのですが、現状では、次世代よりも自分のことしか考えられない大人が増えているように思えます。たとえば、この4月から支給されている3万円の高齢者一時給付金でも、「代わりに若者の奨学金を増やしてくれ」とか「保育園をつくれ」とか言い出す人が、少しぐらいいてもいいと思うのです。

出口:まったくそう思います。

原田:もっとも、「下流老人」という言葉があるように困窮する高齢者も増えていて、背に腹は変えられないのかもしれません。でも僕は、このシルバーデモクラシーの状況をなんとか引き戻すためにも若者にもっと自己主張をしてほしい。

出口:「貧すれば鈍す」という言葉がありますが、年齢に関わらず、人は普通にご飯が食べられなかったらお腹がすいてイライラします。だからこそ、貧困に対するセーフティネットが必須ですし、健全な社会の大前提です。でも、思うのですが、問題提起さえ明確にすれば高齢者は正しい選択ができると思うのです。たとえば一時給付金だって、「あなたが3万円受け取るか、お孫さんの教育のために使うか」と、つまり「自分とお孫さん、どちらが大切なのか」と問い直せば、彼らは正しい選択をすると思うのです。世論というのは、問いの立て方によって変わるものですから。

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原田曜平さん

インターネット投票が政界を変える

原田:なるほど。世代間の問題ではないですが、東京と地方との1票の格差も大きな問題ですよね。そもそも東京などはレジャーが多いので、投票率が上がらないということもあります。パリなどはレジャーもないから、選挙自体が一大イベントだったりするのですが。

出口:投票の機会コストの問題ですね。僕は、インターネット投票を実施すればいいと思います。そうしたら、ディズニーランドでデートしながら投票できますからね。

原田:ネット投票、もっと言えばスマホ投票ですね。団塊ジュニア以降の世代は完全にスマホを使いこなしているので、スマホを使う層が選挙に絡んでくると、40歳くらいを境目に若者世代と中高年世代で拮抗できそうです。本当の意味で社会のバランスが取れる気がしますね。インターネット投票にはリスクがあるとかシステム的に脆弱とか言われていますが、僕はやりながら是正していけばいいと思っています。

出口:今は、株主総会における株主の議決権行使だってインターネットで簡単にできます。企業統治でさえインターネット投票を採用しているのだから、同じ仕組みで国会議員を選べないわけがない。技術的には十分解決できる問題だと思います。

原田:なぜ広まらないのかというと、しっかりした支持母体のある政治家たちが、自分の基盤が覆されるのを怖れている、という可能性もありそうですね。

出口:昔、ある政治家が選挙のときに「選挙に興味がない人は家で寝ていてくれ」と発言して大問題になりましたが、あれは本質をついていたのです。もし、浮動票や無党派層が動いて投票率が10ポイント以上がったら、後援会などの地盤が役に立たなくなってしまうわけですから。

原田:スマホ投票ではないけれど、世界では若い世代がSNSなどで連携し、新しい党首や代表をつくろうという動きも出てきていますよね。(アメリカ大統領選の民主党指名争いに立候補した)サンダースは落ちてしまったけど、イギリスの(労働党党首)コービンも、オバマを支持したのも、比較的若い世代でした。スマホ投票が実現したら若い人たちの声はより届きやすくなると思います。

出口:重要なのは、いまの日本でよく見られる「政府は市民の対立物」という考え方を変えることです。もし「政府はけしからん」と思うなら、次の選挙で今の政治家を落として政府を作り変えればいい。もともと「政府は市民がつくるもの」なのです。

原田:政府を作るのは自分たち、ということをちゃんと教えるだけでも、自然と投票率は上がるでしょうね。

出口:はい。先に述べた選挙とは何かということや、投票率が10ポイント上がれば当選者の顔ぶれは変わるといったグローバルな「常識」をきちんと学ぶべきですね。

原田:今の18~20歳くらいの若者たちはずっとデフレ経済の中で生きてきました。首相はころころ変わるし、実感なき景気回復とか言われて、何か政治によって物事がドラスティックに変わったという経験をしていない。将来の不安とともに、何も変わらないんじゃないかという意識がずっとあるんだと思います。だから今回、これだけ18歳に注目が集まっているわけだから、若い人が支持した候補者が当選するとか、何かひとつでも「変わった」という前例が生まれてほしい。それが彼らにとっての自信になると思うから。

出口:はい。世界的には当たり前のことですが、日本の18歳に選挙権が与えられたのは、画期的なことです。選挙は市民にとって少しでも良い政府や良いリーダーを選ぶことのできるまたとないチャンスでもあるので、特に初めての選挙に臨む若い皆さんに、みんなでよく議論して投票に行ってもらいたいと思います。

(構成・南雲つぐみ)

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原田曜平さん(左)と出口治明さん

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