昨夏、初めての18歳選挙権適用となる参院選が行われたが、若者のさらなる政治参加の機会として、被選挙権年齢の引き下げが検討されている。
そうした中、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では、3月7日に主要政党の政治家を呼び被選挙権年齢・供託金の引き下げに向けたシンポジウムを開催するが(※)、有識者は若者の政治参加の現状、特に被選挙権年齢・供託金に関してどう思っているのか。
社会学者の西田亮介氏に話を聞いた。
中長期には20代の投票率と同じ位に収斂していく
――以前に書かれた記事(ネット選挙の「理念なき解禁」と同じ轍を踏まない18歳選挙権の導入と実践を)では18歳選挙権に対して過度な期待を持つべきではないといった趣旨の記事を書かれていましたが、昨年の参院選で実際に18歳選挙権が実現して、どのように評価していますか?
西田:19歳の投票率が低くて、18歳が高かったように、メディアが選挙年齢について頻繁に報道していたので、アナウンスメント効果はあったと思います。ただ、それ以外に顕著な動機づけを見つけにくいので、中長期で見た時におそらくは20代の投票率と同程度に収斂していくのではないかと考えています。
――この前の参院選では、待機児童問題の盛り上がりもあり、給付型奨学金や待機児童問題といった現役世代向けの政策が強く打ち出されていましたが、それも一時的な効果になるとお考えでしょうか?
西田:いわゆる「政策の窓」が開くという考え方がありますが(筆者注:問題の流れ、政策の流れ、政治の流れ、この3つの流れが揃うことで政策変更が現実のものになる、という考え方)、いろいろな文脈が重なって良いタイミングではあったと思います。
しかし、ネット選挙もそうですが、制度を変えた一回目はメディアにも注目されたとしても、二回目以降はそうはいかず、だんだん収束していきます。18歳選挙権も同様ではないでしょうか。
同世代に立候補者がいないのに投票を強制されている
――そうなると、今後も継続的に政治家が若者に目を向けるようにするためには、どういった方法があるとお考えですか?
西田:被選挙権年齢と供託金の引き下げ、両方実施すべきと考えています。被選挙権年齢と選挙権年齢の間に差をつけておく合理的な理由はほとんどない日本ではほとんど見いだせないからです。世界的に見ても、近づけるか、同じ国がほとんどです。
また、ちょうど成人年齢を引き下げて18歳にするという議論もあるので、被選挙権も18歳にするのがわかりやすくてよいのではないでしょうか。
今の投票年齢引き下げの議論で抜けていると感じるのは、同世代に立候補者がいないのに投票を強制されていることだと思います。これはもっと強く主張してもよいのではないでしょうか。
つまり、年長者の選択肢の中から若年世代が選ぶことを強制されている。新しい選択肢が増えるわけでもなく、新しく政治的なノイズが生じず、これは若年世代の支持率が高い与党にとっても実はとても有利な選択のかたちです。
元々、選挙権と被選挙権に差がついているのはより成熟した年齢で立候補すべきという考えにもとづいてですが、政治的な知識に関して言えば、たとえば18歳と30歳を比較してもほとんど変わらないのではないでしょうか。中等教育を経て政治について勉強している人はごく一部の人に限られる現状があるからです。
したがって被選挙権年齢と選挙権年齢に差をつけておく合理的理由がないから下げればいいと思いますし、若年世代の選択のしやすさという点でも同世代の立候補者がいる方がいいでしょう。
供託金については、供託金制度があるから候補者の乱立が防げているとも言われます。そもそも政治離れが深刻で、候補者が立てられずに無投票で終わっているところもあるほどです。
そのような現状では候補者乱立はむしろ贅沢な悩みというわけで、立候補者を増やす施策の方が優先して検討されるべきだと思います。供託金については、比較的資産形成が進みにくい若年世代は考慮されてもいいのではないかと考えています。
――海外では主要国でも10万円や廃止にしている国も多くあります。廃止でもいいと思いますか?
西田:廃止がいいですね。分かりやすいですし。
政局を理解するための道具立てとフレームワークを身につける機会が必要
――そもそもの話ですが、どのような点で若者の政治参加が必要だと思いますか?
西田:投票率だけ見れば、世界の中で日本がそれほど低いというわけではありません。投票率の高い北欧などと比較されますが、むしろ特殊なのはそれらの国々です。
その意味では、政治参加についてそれほど心配する必要はないようにも思えますが、政治教育に目を向けてみると、政局を具体的に理解する知識や道具立てを習得する機会が乏しい点が気になります。戦後史も十分とはいえません。
例えば、政治経済で三権分立や衆議院の優越などは勉強しますが、今の政治に目を向けて、民進党が何票、何議席獲得すれば政権交代が起きて、民進党が第一党になった時にどのような政策がなされるかについて大人も含めてほとんど誰もよく分かっていないと思うのです。これは若年世代の問題というよりも、我々の社会の問題です。この点を強く危惧します。
その意味では、社会のなかに政局を理解するための道具立てとフレームワークを身につける機会が必要だと思います。しかし、学校教育の現場では、政治的中立の観点からしてこれは難しい。代わりにこの部分は各種メディアが担わなければならないと思います。
――18歳選挙権の際にメディアも特集を組んで報道していたと思いますがどのように評価されていますか?
西田:「新しい制度が始まります、歴史はこうです、若い人はこの機会をポジティブに活かそう」ばかりで、記事の型が決まったお子様ランチのようなものだと思いました。
模擬投票もお子様ランチのようなものが大半ですよね。ぼくの考えでは、模擬選挙と実際の選挙は全く違う。というのも、一部の優れたグッドプラクティスはありますが、多くの模擬選挙だと架空の候補者A・B・Cがいて、過去の選挙のケースを使いながら、自分だったらどこに投票しますか、というようなことをやっている。
しかし実際の選挙には、たとえば所属政党という変数がある。良い政策を言っているけど、政権をとる見込みがたたない、つまり実現される見込みの薄い政党から出ていたり、逆の見方もできるでしょう。そうしたさまざまな制約条件の中で選ばなければいけない。そのためには候補者の業績や来歴のみならず、政党や日本の政治環境についても知っていなければちゃんと選ぶことはできない。
もちろん、顔の好みで選ぶということでもよいですが、そういった適当な選択は、学校で行われる模擬投票ではどうもよくないことのように教えられがちです。もちろん18歳の投票率が明らかに19歳より高かった背景には、多くの18歳が学校で投票に行くように声掛けが行われたことによる影響は看過できないと思うので、その点ではまったく意味がないというわけでもないと思いますが。
いずれにせよ現状は、総じて若い人が投票に行くことそれ自体が偉いというようにおだてあげるような体をなしており、子ども騙し的だなと感じました。これは若年世代というより、そのようにしている年長者の問題ですが。
――(18歳選挙権関連イベントにおいて)私たち日本若者協議会が主催したイベントでは、実際に政策提言し、自民党だと青年局から党本部への政策提言に一部取り入れて頂いたのですが、そうしたイベントが一般的になる可能性はあると思いますか?
西田:(アイドルやモデルを呼んでイベントをやっていた)民進党はちょっとそういうことに関心があるのかよくわかりませんが、自民党は支持層や世論の動向に対しては敏感ですから、支持が多い若者世代に対して便宜を図るのは合理的なことで、その延長線上にある話だと思います。
ぼくが青年局の小林史明衆議院議員に行ったインタビューでも同様なことを仰っていましたし、BSフジのプライムニュースで牧原秀樹衆議院議員(当時の青年局長)と一緒に出たことがありますが、その時も同様に、若い世代も含めて潜在的な支持層を掘り起こして、獲得していきたいといった趣旨のことを仰っていました。
なので、若者向けの政策というのは今の自民党にとてもうまく合致しているのだと思います。 そのあたりも自民党党員100万人回復とも無関係ではないのでしょう。他の政党もいろいろ取り組んでいますが、自民党ほど硬軟使い分けられている政党はちょっとほかに見当たりません。
それにしても最近は政治家に抵抗感が少なく、ある意味では良くも悪くも無邪気な若い人たちの政治団体が増えているように見えます。「政治家も実際に付き合ってみればよい人だった」などという話を聞くこともありますが、彼らが「誰にとっても良い人である」プレゼンテーションをする強い動機づけをもった職業であるということを失念しているようにも見えます。「よい人」かどうかはあまり重要ではありません。
――今回のシンポジウムのテーマが「若手議員を増やす」なんですが、現在の政治家の年齢構成、高齢者に偏った年齢構成をどのように思っていますか?
西田:小選挙区制になって、小泉チルドレンが大量に当選し、第2次安倍内閣以後も成果を挙げているので、自民党には若手議員が多くいます。小選挙区制の下で戦うとやっぱり外見がよかったり、若い人の方が通りやすかったりするのではないでしょうか。
しかし、ある種経路依存性の問題で、地元で長年やってきた人たちが公募の人をはねのけてしまったり、若い人と昔からいる人、そういうのが混ざっているのが現状だと思います。だからそういう意味で言うと、もうしばらく時間が経つと、議員の構成も変わってくるのではないでしょうか。
自民党の場合、小泉純一郎総裁の時に定年制を導入しましたよね 。自民党は党の内規で衆議院が73歳未満、参議院が70歳未満と決めている。なぜ導入されたかと言うと、シニアがずっとのさばっているとそれぞれの選挙区で新しい候補者が育たず、いつまで経っても当選できないからです。
そういう制度もありますし、もうしばらく時間が経つと選挙対策的な側面も含めて全体的に多少世代交代が進むのではないかと見ています。
西田亮介(にしだ・りょうすけ)
東京工業大学准教授。社会学者。
博士(政策・メディア)。専門は公共政策の社会学。情報と政治(ネット選挙、政治の情報発信、行政の広報広聴、電子政府等)、民主主義の普及啓発、投票年齢の引き下げ、無業社会等を研究。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教(有期・研究奨励Ⅱ)、(独)中小機構リサーチャー、立命館大特別招聘准教授等を経て現職。『メディアと自民党』『マーケティング化する民主主義』『無業社会』等著書多数。その他、コメンテーターやラジオのパーソナリティなども務めている。
※被選挙権年齢・供託金引き下げシンポジウム
【開催概要】
日時:平成29年3月7日(火) 17:30~19:00
会場:衆議院第2議員会館 第1会議室(B1階)
主催:日本若者協議会
【パネリスト】
(1)国会議員
自由民主党 逢沢一郎 衆議院議員
民進党 奥野総一郎 衆議院議員
公明党 中野洋昌 衆議院議員
(2)若者
伊藤陽平 氏 新宿区議会議員
斎木陽平 氏 一般社団法人リビジョン 代表理事
嶋凌汰 氏 明治大学法学部
浜田愛音 氏 高校生内閣官房長官
大内尚樹 氏 高校生内閣副官房長官
東隼人 氏 日本若者協議会スタッフ(日本大学法学部)
(3)コーディネーター
日本若者協議会 代表理事 室橋祐貴
【コンテンツ】
17:30 開会挨拶
17:35 パネルディスカッション
18:30 フロア(参加者)を交えてのディスカッション
18:55 閉会挨拶
19:00 閉会
・日本若者協議会とは
「若者の意見を政策に反映させる団体」として各政党との政策協議、政策提言を行っている団体。具体的には、被選挙権の引き下げや供託金の引き下げ、審議会での若者比率の上昇、若者担当大臣/子ども・若者省の設置、給付型奨学金などを提言。参院選では、主要政党の公約に載せることに成功している。 http://youthconference.jp/
(2017年3月6日「Yahoo!ニュース個人」より転載)