「ドレスじゃなくてコスプレで」 異色のオーボエ奏者「よねち」さんが誕生するまで

短大卒業してフリーになったけど将来が不安。そこで相談した先は…
|
Open Image Modal
「ラブライブ!サンシャイン‼」のキャラクターに扮した「よねち」さん
Rio Hamada

オーボエと聞いて、どんな楽器だか瞬時に思い出せるだろうか?クラシックで使われる木管楽器で、リコーダーを大型にしたような外見だ。フルートやクラリネットなどに比べると、世間的な知名度は低い。

静岡県富士市の米山栞合(しおり)さんは短大卒業と同時に、フリーのオーボエ奏者として活動を始めた。音楽教室の講師などの仕事は確保したが、それだけでは不安。2016年4月、市内の産業支援センター「F-Biz」の門を叩いた。アドバイザーと雑談するうちに「中学生の頃から、趣味でコスプレをやっています」と明かしたところ、「コスプレでオーボエを吹いたら話題になるのでは?」と奨められた。

アニメキャラのコスプレをするオーボエ奏者「よねち」は、こうして誕生した。同年5月、Twitterに、動画を投稿すると反響が広がり、香港のイベント主催者の目にとまった。11月には香港のステージに招かれて現地のアイドルグループらと共演し、ちびまる子ちゃんの「おどるポンポコリン」などを演奏したという。国内でも新聞などが取り上げて、活躍の場がみるみる広がった。

敷居の高いクラシックの世界ではなく、サブカルチャーの世界にオーボエの魅力を伝えるという点で、見事にセルフプロデュースに成功したと言えるだろう。

よねちさんは9月上旬、ハフポスト日本版のオフィスを訪れた。静岡県沼津市が舞台の人気アニメ「ラブライブ!サンシャイン‼」のキャラクター渡辺曜(わたなべ・よう)のコスプレ姿で、流麗な演奏を披露した。よねちさんにコスプレのオーボエ奏者として活動するまでの経緯と、セルフプロデュースする際にどんな工夫をしたのかを聞いた。

Open Image Modal
よねちさん
Kenji Ando

--オーボエを始めたきっかけは?

中学校の吹奏楽部でオーボエを始めたんですが、本当はフルートをやりたかったんです。ただ、2つの小学校から中学校に上がるんですけど、私が通ってない方の小学校がブラスバンド部があって、フルートとかクラリネットとかメジャーな楽器はすでにやっている人がいて、その子たちが優先されましたね。

たまたま隣の席の子がオーボエと書いていたんです。私はオーボエを知らなくて、「その楽器何?」と聞いたら、「フルートの近くにいる楽器だよ」と言われて。「じゃあ書いとこう」みたいなノリで第三希望で書いたら、オーボエ希望者が私しかいなかったみたいで、担当になりました。

コンクールの曲だとオーボエってソロパートが多くて、プレッシャーがある楽器なんです。中学校2年生の時に、やっぱりもうちょっと上手になりたいなと思って、ネットで近くの音楽教室を探してそこで通うようになりました。今、そこの音楽教室で講師をやらせてもらっています。

--高校を経て短大で専門的にオーボエの演奏を学びましたが、オーケストラに加入する話などはなかったんですか?

プロのオーケストラには、なかなか入れないんですよ。定年を迎えて空きがあって初めて新人が加入という感じなので。短大の同級生たちもピアノ講師になる人以外は、一般の会社に就職することが多いですね。私と同じくフリーで活動している同級生もいます。

私も専攻科2年の時に、普通に就職して土日の休みを使って音楽活動をしていこうと思っていました。実際に就職活動して会社の内定までもらったんですが、地元の子供向けのオーケストラの先生と音楽教室から「講師をやらないか?」というお話があり、すごく悩んだ結果、内定を辞退してフリーで音楽をしていく道を選びました。

--思い切りましたね。富士市産業支援センターf-Bizに相談したのはいつ頃ですか?

短大を卒業したばかりの2016年4月、f-Bizに行って相談したんです。「地元では楽器を吹けるところが少ないので、どうしたら活動を広げられますかね」と。以前から趣味でコスプレをしていて、アニメソングも趣味で吹いていたんです。その話をしたところアドバイザーの方から「コスプレで演奏してみてはどうか」と助言をもらったんです。

それで5月ごろ、Twitterにコスプレしてオーボエを演奏する動画を上げてみたんですよ。そうしたら1カ月後に香港の方が見てくださって、「香港のライブ出ないか」というオファーをいただいて、エエッとびっくりしました。フリーで活動してすぐに動画を上げた後のお誘いだったので焦りましたね。

4月の段階では、7月に「コスプレしながらオーボエを吹いてみた」という自主ライブをしようという計画でした。その前にいきなりオファーが決まっちゃった。11月に香港で実際にライブをやりました。香港の方たち、めちゃめちゃ盛り上がってくださいまして。私の住んでいる静岡県が舞台のアニメ「ちびまる子ちゃん」の「おどるポンポコリン」を演奏したら一緒に歌ってくれました。同時期に地元の記者の方を集めて、富士山をバックに演奏する動画撮影の模様を公開したのですが、大きい舞台は香港が初めてでしたね。

--f-Bizに相談するまで、よねちさんの中ではコスプレ演奏というアイデアはあったんですか?

アイデアはあったんですけど、外に出していいものかは迷っていました。f-Bizに相談したことで、背中を押されたという感じですね。とはいえ、最初は勇気がいりましたね。ただ、演奏する場所がどうしても欲しかったんです。当初は、月に1回本番があるだけでありがたかったんですが、今は月に6、7回は出番があるようになりました。コスプレイヤーの「よねち」の名義で活動することが多いですが、そちらを知ってもらってから本名の米山栞合(しおり)でオファーしてくださる方もいるので、よかったなぁと思ってます。

Open Image Modal
よねちさん
Kenji Ando

--よねちさんがコスプレを始めたきっかけは何でしょう?

中学校3年生のときなんですけど、静岡市で開催されている静岡コミックライブという同人イベントに参加したのがきっかけですね。友達がコスプレをしていて、「一度着てみる?」みたいなノリで「ひぐらしのなく頃に」の竜宮レナのコスプレをしました。それが、今まで味わったことのない世界観だったんですよね。私、それまで表向きに出ることがあまり得意じゃなかったんですよ。でもコスプレをしたら、別の自分を味わえた感じがしたんです。

--他の人に見てもらうことが楽しかった?

それもあるんですが、好きな作品のコスプレをすることにしていたから、好きな作品の方が来てくださって、そこで交流できることが楽しかったんですね。

--コスプレ×オーボエも、いろんな人と交流できるという意味では似てるのでは?

そうですね。似てますね。私は短大までクラシックの演奏会しかオーボエを演奏したことがなかったんですけど、クラシックに興味のない同世代の人に興味を持ってもらうのは難しい。「演奏会に来て楽しかった」って言ってもらいたい気持ちが、ずっとあったんです。オーボエって楽器が敷居が高いと思われることが多いので、馴染みやすく思ってもらうためには「ドレスじゃなくてコスプレで」となったように思います。

--お客さんはクラシックに興味がある人とか、それともアニメ好きな人でしょうか?

幅広くいらっしゃるんですけど、この活動始めてアニメ関係が好きな方とか、逆にクラシック関係で仲良かった方から「よねちを知ってアニメを見るようになった」。逆にコスプレのイベントに行って「クラシックが気になる」ということで、クラシック関係の演奏会に来てくださった方もいました。アニメとクラシックの橋渡しをするみたいな感じになってます。

--コスプレ奏者としての活動を振り返ってみて、どうですか?

そうですね。活動をやってよかったなって思うのは、1年半前に比べて自分が、オーボエの演奏を発信できたのもそうなんですけど、たくさんの方に会えたなって思っています。すごくいい出会いがありました。

これまでクラシック界隈しか、知り合いがいなかったんですけど、最近はアニソンライブなどに出ると、アイドルの方だったりバンド関係者であったり、そのファンの方と繋がりが持てる。そういう方とも交流できるのって、クラシックの世界ではあり得ないことでしたね。そして、やはり自分が好きなことをやれているので、毎回の演奏会が楽しいなって思います。

--今は毎日が充実している感じですか?

そうですね。ただ、悩むことも結構ありまして。30分を一人でやるってなると、MCも演奏も全部自分でやらなきゃいけないので体力はすごい...。最近慣れてきたんですけど、最初の方は本当にしんどかったです。喋るのも得意じゃなかったんですが、最近では喋るのが逆に好きになって、30分でちゃんと間に合うかなってくらいになりました(笑)

--今の時代は、いかにセルフプロデュースするかが大事と言われています。よねちさんが気をつけたことは?

どの年代からも馴染みやすい感じにしたいので、制服姿が多いですね。あと気をつけるのは、Twitterでつぶやく内容は毎回2回は確認してます。「大丈夫これ?」って、うまく発信するように心がけてます。自分に関するツイートを検索する「エゴサーチ」は心が痛むので、なるべくしないようにしています。

--起業を志す人や、よねちさんのようにフリーで活動したいと思っている方へのアドバイスは?

何かをやりたいって思ったときに「頑張って動けば発信はできるんだよ」とは言いたいですね。そして、一人で進めないことが大事です。誰かに相談してから始めた方がいいですね。私もf-Bizさんに相談させていただいて、すごく助かりました。

まずアイデアを考えて誰かにアドバイスをいただいて、そこから発信していって、最初はうまくは行かないかもしれないけど「根気強く続ければ道は開くよ」と思います。

1994年3月30日生まれ。静岡県富士市出身。「コスプレしながらオーボエ吹いてみた」をキャッチコピーにライブ活動をしている。本名「米山栞合(よねやましおり)」では、かやはら音楽教室、富士ジュニアオーケストラの講師として活躍中。Twitterアカウントは、@cosuu30

■関連画像集(女性コスプレイヤー170選)

(スライドショーが見られない場合は、こちらへ)