円高の背景にFRBの「過熱」容認政策あり

為替を論じる際、問題にされるべきは、単なる二国間の金利差ではありません。

Running the economy hot.

最近、アメリカのメディアではこの言葉を良く耳にします。これはつまり「わざと経済を過熱気味に持って行く」という意味です。

先の連邦公開市場委員会(FOMC)ではFRBメンバーによる2016年末のフェデラルファンズ・レートの予想が12月の1.4%から一気に0.9%に下がりました。これは利上げ回数に換算するとこれまでの4回が2回に半減したことを意味します。

また声明文やイエレン議長の記者会見では、随所にハト派的なコメントが散りばめられていました。

記者団とのやり取りの中で、イエレン議長は「景気が過熱した場合は、いくらでも対処できる」という意味の発言をしました。それは、(わざとインフレ気味のコンディションを創り出すつもりだな)と市場関係者から解釈されました。

下は俗に「Five & five」と呼ばれる、5年先5年物期待インフレ率のチャートです。

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これはいまから5年後を起点として、そこからの中期的なインフレ期待がどうなっているか? を示したもので、算出方法としては米国財務省証券利回りからインフレ連動債利回りを引くことで求められます。

インフレ気味の国の通貨は、売られやすいです。

インフレとは、物価が騰がる現象ではなく、通貨の価値が、しゃばしゃばに薄まることを指します。通貨の価値が目減りするからこそ、同じモノを買う際に、昔より多くのおカネが必要になるのです。

このようにインフレの演出とは、すなわち通貨価値を毀損する行為に他ならないのだから、その国の為替は下落する……そういうロジックです。

アベノミクスが最初に打ち出され、最初の黒田バズーカがぶっ放された際、市場参加者が期待したことは、(これでインフレを上手く演出してくれるにちがいない)ということでした。

しかし今回、マイナス金利導入後、金融界から轟々の非難が出たことで、日銀の「手詰まり感」は覆い隠すことが出来なくなってしまったのです。

為替を論じる際、問題にされるべきは、単なる二国間の金利差ではありません。それぞれの国の経済の強さに照らして、現在の金利政策が適正かどうか? を論じないといけないのです。

FRBの場合、現在の米国経済の強さに対して、政策金利の水準は「ゆるふん」です。

逆に日銀の場合、経済の弱さ、依然としてデフレリスクが拭えないことに照らして、現在の金利政策は「固すぎる」のです。

これが円高の原因です。

(2016年4月8日「Market Hack」より転載)