世の中って冷たいと思ったから、「愛だろ、愛っ。」 佐倉さんの言葉は、どうやら女々しいらしい。

【佐倉康彦さんインタビュー #2】クリエイティブディレクター佐倉康彦さんが、自身の仕事を振り返る。
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クリエイティブディレクター・佐倉康彦さんは、これまでにたくさんのキャッチコピーを紡いできた。佐倉さんの言葉は、その当時の空気も感じるけれど、いま聞いてもハッとする。

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佐倉康彦(さくら・やすひこ)さん 株式会社ナカハタ クリエイティブディレクター。TCC最高賞、ACC賞など受賞多数。
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佐倉さんインタビュー2本目。佐倉さんに、自身の仕事を振り返ってもらった。

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「愛だろ、愛っ。」

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SUNTORY

1993年にサントリーから発売、大ヒット商品になった「ザ・カクテルバー」のキャッチコピー。テレビCMでは俳優・永瀬正敏さんがマドンナにフラれる、ちょっとカッコ悪い男を演じて話題になった。

この仕事で俺を語られるのが、10年くらい前までは、とても嫌だったんだよ。俺のことを紹介する枕詞が、誰も彼も「愛だろ、愛っ。の佐倉さんです」って。なんだか一発屋の演歌歌手みたいでさ。 もっといろいろオモロイことやってるのにって思ってた。

でも、数年前からは、「どんどん言って~」って感じに変わったりして。やっぱり自分の作り手としてのフォーミュラや行く先を決めた仕事だからかな。ま、開き直ったのね。

もともと、「世の中って冷たいな」という思いから出た言葉なんだよね。「愛だろ、愛っ。」という言葉に、世の中つめてえんじゃないの? というメッセージを込めた。

「ザ・カクテルバー」のターゲットは、都市で単身生活を送る男子だった。東京に出て間がない、永瀬正敏さん演じる若い男が、マドンナにいつもフラれるというストーリー。東京に来たのになかなかかっこよく決まらない自分。つめてぇなトーキョー。

俺自身も、トーキョーに出てきたあんちゃんの一人だったし。書いた頃は、その思いの残滓のようなものがあった。で、マドンナ的な女性がいた方が、うまくいかなさが際立つ。そんな冷たい目にあったら、カクテル飲んで、洗い流しちゃえという。そんなノリのメッセージ。

だいたい、掛け声みたいな言葉よりは、少し時間が経ってから効いてくるような言葉の方がいいのかなと思う。「愛だろ、愛っ。」は掛け声に近いんだけど、あの当時は、コンテンポラリーな掛け声だったかも。それに、何度か触れると少し気になり始める言葉かなと。時間が経ってから効いてきた言葉の方が、その後ずっと残りやすいのかな、という気がする。

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SUNTORY

——世の中って冷たいから「愛だろ、愛っ。」、そんなに簡単には笑えない世の中だから、「はたらいて、笑おう。」なんですね。

言葉って、ちょっとだけシフトさせると、化学反応が起きると思う。いつも聞いている言葉じゃないもの、マイナスをちょっと入れる。それを「ネガティブアプローチ」と言う人もいる。

綺麗事ばっかり言ってもみんな困っちゃうよね。自分の中で押さえ込まれている感情を発露したいからこそ、ネガティブな言葉が出てくる。ネガティブなことを言うことで、変な言い方だけど、ガスが抜けるから楽になるじゃない。だいたいみんなが頷いてくれるものって「あのバカ部長!」「だよね〜」じゃん。「あの部長サイコー!」「だよね〜」ってなかなかならないんだよね。

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大好きというのは、 差別かもしれない。

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Y'SACCS

バッグ・雑貨ブランドY'SACCS(イザック)のキャッチコピー。1994年。

何かを「大好き」というのは、他のどうでもいい物事と区別していることは間違いない。区別なんだけど、区別じゃちょっと弱い。

他のクラスメイトは友達だけど、大好きな友達への特別に思うあの感じ。差異をつけて、別にしていくわけだから、あえて差別という言葉を使うとどうなるか。少しだけ世の中を引っ掻くことができるんじゃないかと思った。

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卒業って、出会いだ。

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リクルート

自由って、不安だ。

だから、逃げてもいいと思う。

立ち止まってもいいと思う。

迷ってもいいと思う。

今のじぶんがいれば。

生きるって、出会うこと。

まだ、なにもはじまっていない。

まだ、なにも終わっていない。

新しい空の下にいる。

卒業おめでとう。

リクルートの仕事で書いたコピー。高校卒業って、 基本的には友だちや先生や、もしかすると生まれ 育った街ともサヨナラなんだけれど、卒業後はさ、進学先や就職先とか新しい出会いだらけ。だから、こんな言葉になっちゃった。

なんだか「卒おめ」ってキーワードが、甘酸っぱ くて、旅立つ17才たちへのエールになったらって。

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とてもこだわった成分なので、 寒いと少し濁ります。

とてもこだわった成分なので、 ちょっと高いです。

洗う、ということを 教えてくれました。

洗っているだけは、もう、終わりにします。

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Mellsavon
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Mellsavon
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Mellsavon

ボディソープ「メルサボン」のテレビCMのコピー。2013年。

最初にクライアントから「成分にこだわったから、寒いところに置くと、白く濁っちゃうんです」、「ちょっと価格も高いんです」という話があった。だったら、「頑張ったいい商品だから、濁っちゃうんです」、「ちょっと高いんです」。自信を持って自らそう言いましょうよ、ということになった。

やはり、そこにすごく反応があった。高いものは、リッチな雰囲気を出して納得感を持たせるもの。ハリウッド女優を使わないと、みたいな作り方がある。それよりは、ちょっとダメなシェアハウスの話にしちゃって、最後の最後に、寒いとちょっと濁ります、高いです、と言っちゃう方が伝わりやすいと思った。

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ゆりかごから墓場まで、あらゆる商品、サービス、企業のコピーをやってきた。化粧品など、意外と女性向けの商品が多い。俺が書いていると言うとみんなびっくりするんだよね。

メディアという容れ物はどんどん変わっていく。新聞やテレビから、ウェブという容れ物が相対的に大きくなって来ている。でも結局、器が変わっているだけだから、そこに放り込むコンテンツ自体は変わらない。そこで俺たちがちゃんとしなければいけないのは、器がどう言う仕組みで作用していくのか、しっかり理解しないといけないなと。作用機序をわかっていないと。その仕組みさえ把握していれば、長年、やっていることと同じ。器に入れるコンテンツは変わらない。

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こういう仕事って、世の中のコンディションや温度、人の目線や感情が時代によって変わるじゃない? それに対応していく一方で、一本筋の通った自分の矜持や方法論を持っていなきゃいけないんだろうけど、いつでも転向しちゃえばいい、そう思っていた方が面白いんじゃないかと思う。

でも、結局書いてみて、表現してみて、定着してみると、「なんか佐倉さんっぽいよね」と言われたりする。だから、俺自身はあんまり変わっていないんだろうね。

「佐倉さんっぽいね」って、自分なりの解釈では、「女々しい」というか、なんかこうちょっと「湿度が高い」という感じなのかな。基本的にはその時その時で自分は変節していいと思っているんだけどね。やっぱり虎の縞は洗っても落ちない。どんなにゴシゴシ洗っても消えないから。どっかに自分のガラが出てしまうんだろうね。

        

佐倉さんへのインタビューは明日3月9日が最終回です。個人的にどうしてもうかがいたかったことを、聞いてしまいました。

(PHOTO BY KAZUHIKO KUZE)

筆者の林は、ハフポスト日本版の広告事業を統括する立場ですが、このブログは担当業務から離れ、取材執筆したものです。