一挙手一投足から感情が溢れ出す映画『リズと青い鳥』山田尚子監督インタビュー

「言葉で彼女たちを決めつけたくなかった」
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(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

『けいおん!』や映画『聲の形』の京都アニメーションの最新作『リズと青い鳥』が4月21日から公開される。

 武田綾乃氏の原作小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』の映画化にあたる本作は、コンクールに向けた新しい自由曲「リズと青い鳥」のソロパート担当である鎧塚みぞれと傘木希美の2人に焦点をあてた作品だ。

 吹奏楽部の多様な面々の群像劇的な『響け!ユーフォニアム』シリーズの描き方とは打って変わって、本作で掘り下げるのはみぞれと希美の2人の世界だ。

 ささいな一挙手一投足から感情が溢れ出す、美しい青春映画であり、言葉ではすくい取れない「名前のない感情」を映像によってすくい取ろうという意欲的な作品となっている。

 彼女たちの思春期の瞬間を「まばたき一つも取りこぼすのが惜しいと思った」と語る京都アニメーションの山田尚子監督に本作について伺った。

言葉で彼女たちを決めつけたくなかった

――今回、キャラクターデザインをTVシリーズのときとは変更していますね。

山田尚子監督(以下山田):今回は一つの欠片をすくい取るみたいな作品で、まばたき一つ、吐息一つだったりというものにフォーカスしていく作品で、そういったもので微妙な揺れとかズレをちゃんと描きとれるものでありたいというお話をキャラクターデザインの西屋太志さんとしました。そうしたらその感じを西屋さんがすごく理解してくださって、じゃあこれくらい繊細な感じでいってみないかということで今回はこういう感じになったんです。

――かなり大胆に変更したなという印象でした。

山田:確かに肉感とかも抑え気味で、絵が語りすぎないようにしたという感じです。この作品は少しずつ、小さく小さく変化させて組み上げていく作品だと思ったんです。色んな要素で一つのものを語りたい作品で、(絵が)空気感のなかの一つというか、音符の中の一個というか、全部が合わさって一つの音楽になるみたいな感覚にしたかったんです。

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(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

――今回は山田監督が1人で全シーンの絵コンテを切ってますね。

山田:今回はコンテを書く人間が途中で変わっちゃまずいと思ったんです。みぞれと希美の2人の、(物語の)途中から途中までを切り取ったような作品なので、ほんの少しずつの変化を描いていくために、最後まで一人で切りたいと思いました。

――今回、原作にはないオリジナルのエピソードがたくさんありましたね。エピソードを加えるにあたってどんな点に気をつけましたか。

山田:そうですね。みぞれという女の子と希美という女の子の色味をちゃんと描きたかったですね。二人が身を置いている環境の違いとか。

――2人の世界の違いということですね。例えば希美の周囲には後輩たちがたくさんいておしゃべりしているけども、みぞれは生物学室でフグに餌をやってるような対比ですね。

山田:そうですね。みぞれが常にいる場所がほしいなという話をしていて、みぞれの感情の置きどころ、感情の向う先は人じゃなさそうだ、という感じだったと思いますね。あそこにいる時は練習もしていなくて、音楽から解き放たれてる瞬間なんだと思います。

――余白を重要視している作品だなと思いました。作中の滝先生の「譜面と譜面の間の感情をすくい取って演奏する」というような台詞がありましたけど、そうした行間にいっぱい感情があって、そこをちゃんと捉えようとしている映画ですね。

山田:一見静かなんだけど、そこにある感情はめくるめくものであるというのを目標にしていました。言葉だけで彼女たちを決めつける見せ方をしないように気を付けました。彼女たちから発せられた言葉であっても、それが彼女たちの本心だとは限らないと思うので...。他にいっぱい考えがあって想いがあって出てくる言葉だから、そういうの想いを尊重したかったんです。

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(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

まばたき一つも取りこぼすのが惜しい感情たち

――本音と実際の行動が違うという点で、今回のメインの2人は特にそれが顕著なキャラクターですよね。原作では2人の間を久美子が取り持って、本音が描かれるようなシーンがあります。でも今回の映画では、そういう構成にはしていませんね。

山田:やはりこれはみぞれも希美も、本人たちが向き合うべき問題かなと思ったんです。間にだれかが入ってやっと心情を吐露するみたいなのは、このお話では少し遠い気がしたというか。ダイレクトに話して、でもダイレクトに話してもなお伝わらないというのが今回大事な部分な気がしたので。

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(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

――芝居や映像の空気感で引き込む作りをしているなと思いました。言葉にならない、微妙な感情をていねいに追いかけているなあと。

山田:そうですね。この映画って途中から途中を切り取った映画だと思っていて、物語が始まって終わっていくというよりかは、思春期の女の子たちがこれからもいろいろあるだろうなってところでザクッと切って見せている感じなので、すごく一つの物事の解像度が高いといいますか。

おのずと彼女たちの思いから生まれてくる動きとかにフォーカスしていくというのが出てきたというか。一分一秒彼女たちは息をしていて、その度に彼女たちは何かを考えている、まばたき一つも取りこぼすのが惜しいなと思ったんです。

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(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

――例えば原作小説で武田先生も、「希美がみぞれに微笑のような何かを向けた」と書かれていたりします。微笑ではなく「微笑のような何か」のような割り切れない感情が見事に映像に定着していると思いました。しかし、商業アニメの世界では、こうした微妙な感情を描くのは、手間暇など色々なことを考えるととても難しいことだと思います。多くのスタッフとそれを共有するのもわかりにくい感情であればあるほど困難になると思うのですが。

山田:そういう観点でいくと、リミテッドアニメというのは、情報量を削ぎ落とすのがキーポイントというか、観ている人にシンプルに齟齬なく情報を伝える為にあまり情報を複雑化しないように気を付けます。すごく端的に言ってしまうと「楽しい」の表現方法は「笑顔を描く」ということで表現されることが多いかもしれません。

ただ今回は「今楽しいよと言っていても本当に心から楽しいって言ってるのかどうか?」、という作品なので、作品世界の純度を上げるために「微笑みのような何か」を定着できるような手法を探りました。京都アニメーションのスタッフはそういう機微に関してとても理解がありますし、ずっとそういうのを積み上げてきたスタッフですから。

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