“成分分析”と“証拠写真付きレビュー”...中国版インスタに生まれた厳格すぎる「タネ草」の世界

小紅書(RED)に生まれた独特な生態系に迫る「#中華アプリから覗く経済」第5回。

我々は、知らないうちに、ネットに欲望をコントロールされているのかもしれない。

衣服でも、小説でも、今日の晩御飯でもいい。ツイッターやフェイスブックを見ながら「あ、これいいな。買おう」と思ったことは誰しもあるはずだ。

中国ではこの現象に名前がついた。「タネ草(種草)」という。直訳すると『草を植える』で、由来は脳に欲望を植えつけるから...という説もある。

「中国版インスタグラム」の異名を持つ『小紅書(英語名:RED)』は、このタネ草現象をうまく活用して勢力を広げている。来日中の社員を取材したところ、タネ草にこだわり、進化を重ねた独特な生態系が見えてきた。

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小紅書トップ画面

■化粧品の成分分析も

「タネ草についてはよく聞かれるんです」と頭をかくのは、小紅書ブランド広告部のプランナーを務めるモニカ・ツァオさん。ネットで情報を知り、それが購買につながる、という現象がここ数年で加速しているという。

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取材に応じてくれた小紅書のモニカ・ツァオさん

「人に倣うというのは別に大昔からある話ですよね。ただSNS時代になり、それまでは小さなブームで終わったものが急速に広まるようになりました。(ニュースではなく)SNSで情報を収集する傾向が強まったのもあります」

小紅書はインスタグラムのような、写真や動画をメインとしたSNSだ。

モニカさんによると、ユーザーの80%が女性、70%が20代と、若い女性の間で支配的な地位を確立している。さらに全体の87%が「ショッピングの経験を他人とシェアしたい」と考えているといい、若年層の女性を中心にタネ草が巻き起こっていることが窺える。

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小紅書のユーザー属性

ネットの書き込みが、知らず知らずのうちに他人の購買欲を刺激する、というのはよくある話だ。だが小紅書では、書き込む内容に尋常ならざる「こだわり」が求められるという。

「『この製品良かったよ』では全然ダメです。写真が綺麗でもダメ。例えば化粧品なら、まずは自分で成分を分析する。そして使ってみて1時間後にはこうなったとか、詳細なレポートを書かなければ評価されません」

例えば顔に塗るクリームのレビューを見てみる。タイトルには「独自分析!」などのキーワードが並び「成分:ニコチンアミド」「グリセリン」などと分析結果が綴られる。

その上で「この成分が肌表面のpHバランスを整える」など長文の解説が続く。もちろん書いているのは一般ユーザーのため信ぴょう性には欠ける。だが手の込みようは凄まじい。

ほかにも、化粧品などを本当に使い終わったことを示す証拠として、空になったケースの写真を投稿しレビューを書く「空瓶日記」という形式の投稿も人気だ。

一般ユーザーの投稿に、なぜここまで求めるのか。「今や情報を得る方法が大量にありますから。誰も嘘を信じませんよ」とモニカさん。ユーザー約3億人の小紅書で抜きん出た存在になるためには、それ相応の努力が必要ということもあるだろう。

■“敏感肌”コミュニティに刺され

日本やアメリカと同じように、中国でもインフルエンサーの影響力は増大している。彼らの宣伝力に目をつけ、広告費を払って商品をPRさせる企業も出てきた。それは小紅書でも例外ではない。

「タネ草は自分がやりたいからやっているのです。ユーザーはシェアしたいという気持ちだけで、企業からお金を受け取らずにやっています。ただそこからインフルエンサーになって、企業案件を請け負うケースもある。タネ草と宣伝行為はニアリー・イコールと言えるかもしれません」

しかし、お金を払って有名人に宣伝させれば良い、という訳ではないらしい。中国のネットユーザーは“ステマ”に敏感だとモニカさんは話す。

「10人のインフルエンサーが良いと言っていても、100人の一般ユーザーが駄目だと言っていたら、それは却ってブランドイメージを傷つけます。大事なのはあくまで商品のクオリティであって、小紅書はあくまで拡散するコミュニケーションを助ける役割に過ぎません」

中国のSNSでは、若い女性に特化した影響力を持つ小紅書。中国で人気を集める日本の化粧品などであっても、話題になるには工夫が必要だという。

「ユーザーは新しく、珍しいものに惹かれます。差別化要素と話題性がやっぱり大事ですね。“敏感肌”や“徹夜組”とかそれぞれのコミュニティに刺さる商品であることが大事です。狙った対象に共鳴を起こさせて、口コミを蓄積させていくのです」

今までは都市部の若い女性がメインだった小紅書。今後は経済成長が見込まれる内陸部のユーザーも増えるとみられている。モニカさんたちは、より多くの日本ブランドに広告宣伝に活用してほしいと呼びかけていく方針だ。