干ばつ、豪雨、台風やハリケーンの大型化など、気候変動によると考えられる異常気象が世界各地で深刻な問題になっている中、産業界から地球温暖化の防止に向けた、積極的な動きが出始めています。2015年10月14日の「トヨタ環境フォーラム2015」ではトヨタ自動車が、2050年までの長期的な温暖化対策の目標を公開。温暖化の防止と新しいエネルギー社会の実現につながる、自動車業界からの意欲的な姿勢を明らかにしました。フォーラムに出席したWWFインターナショナル事務局長マルコ・ランベルティーニは、これを歓迎すると共に、その実現に期待するコメントを発表しました。
トヨタ自動車による2050年までの「環境チャレンジ」発表
2050年までに新車が排出する二酸化炭素(CO2)を90%削減し、同時に工場からの排出ゼロ(ゼロ・エミッション)を実現する。そのための革新的な省エネを徹底する――
これは、2015年10月14日に東京の六本木で開かれた「トヨタ環境フォーラム2015」において、トヨタ自動車が「環境チャレンジ2050」として発表した、長期的な環境配慮の企業目標の内容です。
現在、運輸にかかわる人間活動から排出されるCO2の排出量は、世界全体の排出量の、約4分の1を占めています。
この運輸からの排出を削減し、新しいエネルギー社会を実現してゆく上で、自動車業界は最も重要なカギを握る存在と言っても過言ではありません。
特に、こうした企業が持つ巨大なサプライチェーンは、関係するあらゆる産業部門や経済活動に影響力を持ち、それを変革する可能性を秘めています。
そうした中で発表されたトヨタ自動車による「環境チャレンジ2050」は、達成されれば非常に大きな意味を持つものといえます。
求められる実現に向けたマイルストーン
この日の「トヨタ環境フォーラム2015」には、WWFインターナショナル事務局長のマルコ・ランベルティーニもパネリストとして招聘され参加。
「環境チャレンジ2050」の目標を歓迎するコメントを発表すると共に、「地球1個分」の生産力を超えた消費が続いている世界の現状と、環境の深刻な危機を指摘し「地球1個分の暮らし」を目指すべきであると訴えました。
しかし同時に、今後これを実現してゆくためには、実施の過程における短期的な計画や、科学的な根拠に基づいたマイルストーンの設置、さらに排出削減の進捗状況に関する、厳格かつ正確な信頼のある報告が欠かせません。
ランベルティーニ事務局長からはトヨタ自動車に対し、これらの点について、確かな取り組みを行なうことを求めました。
何より、気候変動が世界の自然や各国社会に及ぼすと懸念される、さまざまかつ深刻な影響をくいとめるためには、早急な対策が必要とされています。
2015年末にフランスのパリで開かれる国連の気候変動会議(COP21)では、世界の新しい温暖化防止に向けた目標の合意が目指されていますが、今回のような産業界からのメッセージが、その後押しとなることも期待されます。
WWFはまた、他の団体と合同で、ビジネス界が「温暖化による気温上昇を2度未満に抑える」ことと整合的な目標を掲げることを促すイニシアチブ「Science Based Targets」を主導しており、トヨタに対しても、このイニシアチブへの参加を呼びかけました。
それに対し、トヨタ自動車からは、今後5年毎に目標達成状況の報告を行なうことや、WWFが推進する気候変動分野のイニシアティブへの参加を前向きに検討すること等が表明されました。
「持続可能な社会」という未来に向けて
なお、今回発表されたトヨタ自動車による「環境チャレンジ2050」は、温暖化防止のみならず、水環境へのインパクトや循環型社会の実現、さらに生物多様性の保全についても目標を明らかにしました。
たとえば、森林の保全活動は、自動車産業に欠かせないタイヤに使われる天然ゴムのような資源の「持続可能な利用」にもつながります。
これは、近年急激な劣化が進んでいる、熱帯の森林の生物多様性を守る取り組みそのものでもあります。
これに対し、トヨタ自動車からは、天然ゴムについても「大変深刻な問題」と認識しており、今後、タイヤメーカーとも議論を進め、自社としてもどう取り組んでいくか検討していくことが示されました。
再生可能エネルギーへの転換が進んだ、低炭素でクリーンなエネルギー社会、そして人と自然が共存した2050年の未来の実現。
そのためには、ビジネス界による適切な「より良い生産」と、社会による「賢い消費」、そして企業と市民による強力な協力が重要な要素となります。
トヨタ自動車が、社会のさまざまなステークホルダーと共に取り組むと表明した「環境チャレンジ」は、こうした協力を導く一つの試みとしても、高い期待が寄せられるものといえるでしょう。
世界の温暖化防止や森林保全に取り組んできたWWFも、そうした主体の一つとして、高い意識を持つ企業と協力しながら、地球環境の保全に取り組んでゆきます。
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