新型コロナウイルスが猛威を振るう湖北省武漢市で、外出が制限された住民の暮らしぶりを共産党幹部が視察に訪れたところ、支援が行き届いているような“演出”に住民らが大声で「嘘だ」と訴えかける場面があった。
この動画はネットで拡散され、中央政府も本格的な調査を開始するよう求めた。
■窓を開け口々に
環球時報など複数の中国メディアによると、視察が行われたのは3月5日。孫春蘭(そん・しゅんらん)副首相ら現地入りしている共産党幹部が武漢市の集合住宅を訪れ、感染コントロールの実施状況や、住民の生活保障などについて確認したという。
この時に、マンションの住人たちは外に出ることを許されなかったが、窓を開けて、視察する孫副首相らへ向かって「嘘だ、全部嘘だ!」と大声で訴えた。
報道によると、マンションの管理側は、視察前に敷地を綺麗に掃除したうえ、ボランティアによって肉や野菜が住民に届けられているように装っていたという。住民たちは「私たちは高い食料を買っているんだ」とも叫んでいた。
■「形式主義だ」批判
この動画は、中国のSNSで拡散され話題になり、中国政府も対応に追われている。
政府は記者会見で、今回の出来事に対し、地元政府に対し本格的な調査を始めるよう求めたことを明らかにした。丁向陽(てい・こうよう)国務院副秘書長も「形式主義と仕事が至らない部分があった」と指摘した。
視察した孫副首相も同様に「形式主義」を根絶するよう地元政府に伝えたという。
形式主義とは、実際の内容よりも見た目を整えることを重視する考えなどを指す。中国では、主に地方政府や役人などを対象に、形式主義を批判するキャンペーンを展開している。
今回の騒動もその一環として、地方の形式主義に対し、中央指導部がリーダーシップを発揮したという構図にする狙いがあるとみられる。
北京紙・新京報も評論を掲載し「形式主義には断固としてノーを突きつけ、民衆の実際の困難を解決することに力を注ぐべきだ」と批判した。