ドイツ代表の「ガウチョ・ダンス」について

"ドイツ代表が優勝セレモニーで人種差別をやらかした"と話題になっている件について、いろいろと誤解が多いようなので関連動画を中心にまとめてみます(うるさい動画が多いので再生するときはボリュームに注意してください)。中には「モンキー・チャントと同じ」と言ってる人もいますが、そもそもこれを「ガウチョ・ダンス」と呼ぶこと自体ミスリードというか"メディアの罠"だと思うんですよね。なぜならあの"中腰になって歩く"というアクションは"ガウチョ(南米人)を模したもの"ではないから。その証拠にドイツ国内のクラブ同士でも全く同じパフォーマンスが行われています。
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"ドイツ代表が優勝セレモニーで人種差別をやらかした"と話題になっている件について、いろいろと誤解が多いようなので関連動画を中心にまとめてみます(うるさい動画が多いので再生するときはボリュームに注意してください)。

中には「モンキー・チャントと同じ」と言ってる人もいますが、そもそもこれを「ガウチョ・ダンス」と呼ぶこと自体ミスリードというか"メディアの罠"だと思うんですよね。なぜならあの"中腰になって歩く"というアクションは"ガウチョ(南米人)を模したもの"ではないから。その証拠にドイツ国内のクラブ同士でも全く同じパフォーマンスが行われています。

サッカー以外でも・・・

(0:50くらいから)

これを見ればはっきりわかると思うんですが、問題となったあのアクションは"ガウチョの真似"ではなく"試合に負けて落ち込んでいる人の真似"です。要するに『試合に負けた(負ける)お前らはしょぼくれて歩くけど、試合に勝った(勝つ)俺たちは大喜びしながら歩くぜ!』っていう意味のパフォーマンスなんです。

なので、あそこでドイツの選手たちが歌っている

So gehn die Gauchos, die Gauchos gehen so,

So gehn die Deutschen , die Deutschen gehen so.

の"Gauchos"と"Deutschen"に別の国や人種を入れてもパフォーマンスとして成立します。もちろん上の動画のようにクラブや都市の名前を入れることもできます(多分そっちの方が元祖だと思います)。

実際にイングランドやスペインをネタに、ドイツサポーターが同じパフォーマンスをしている動画もあります。

(しかしベロベロだなこの二人...。)

なお、この件を報じているドイツのWelt紙は"2008年のEURO準々決勝でドイツ代表がポルトガル代表に3-2で勝利した際に、スタンドのサポーターとともに歌ったのが始まり"としているそうですが、それ以前からドイツのサポーターはこのパフォーマンスをしています(下の動画は全て2007年のもの)。

さっき貼ったイングランド相手のパフォーマンスも2007年8月に行われた親善試合(2-1でドイツの勝利)後の光景なので、2008年のEURO以前には既にこのパフォーマンスが定着していたと考えて間違いないです。はっきりしたことは言えませんが、恐らくどこかのクラブのファンがやっていたことをほかのクラブのファンが真似をし、さらに代表まで波及してきたタイミングで選手が乗った、というのが実際の経緯ではないかと思います。

実は今回のドイツ代表と同じようなパフォーマンスを、2006年のドイツW杯で優勝したイタリア代表がやっています。

ここでガットゥーゾは「跳ばない奴はフランス人だ!」と歌っているのですが、「跳ばない奴は●●(対戦相手やライバルチームのファン)だ!」というのはイタリアのサッカーファンの間で定番となっているチャントなんですね。

『跳ばない奴はユベンティーノ(ユベントスファン)だ!』

メロディ(元ネタはイタリア・パルチザンが歌っていた革命歌)なしのバージョンもあります。

長友もやってます。

『跳ばない奴は"赤黒(ACミランのファン)"だ!』

で、この時は決勝の相手がフランス(ジダンが頭突きした試合)だったから「跳ばない奴はフランス人」なんです。もちろん人種差別的な意味はありません。今回のドイツ代表のパフォーマンスはこれと全く同じ種類のものだと思います。

あとは「ガウチョ」についてですが、アルゼンチンではアメリカにおける「カウボーイ」と同じように"男らしい""英雄"という肯定的なイメージが付加されている言葉だそうです。日本でいうと「武士(もののふ)」が近いのかなと思います。

言葉のチョイスについての是非はもちろんあると思いますが、ブラジルのコリンチャンスかパルメイラスのサポーターが「行け!行け!ガウチョ!」というチャント歌ってる動画を見たこともありますし、少なくとも「ニガー」や「チンク」のような"使ったら一発でアウト"な言葉ではないのでしょう(もしそうならもっと叩かれているはずです)。

そうした部分も含めて、今回のパフォーマンスに人種差別的な意図を見出すのは難しいと思います。

もちろん人種差別でなかったとしても敗者を馬鹿にするパフォーマンスであることは間違いないので、その点の批判はあって良いと思います。ただこういう"煽り・煽られ"もサッカー文化の一部ですし、それは今回馬鹿にされたアルゼンチンのサポーターも良く分っているのではないでしょうか。ライバルであるブラジルの大敗をこんな風に煽ってるくらいなので。

ちなみにイングランドではこの手の煽りチャントとして「●●が嫌いなら●●しろ!」というものが定番になっています。

なのでイングランドのサポーターが突然立ち上がったり、

座ったり、

手を叩いたり、

靴を脱いだりしてても、

それは"そのチームが嫌いだから"で人種差別的な意図はないので誤解しないであげてくださいね。

(2014年7月18日「想像力はベッドルームと路上から」より転載)