■ワールドカップを控えたブラジル、抗議者と政府がにらみ合い
ワールドカップの開幕まで30日を切る中、ブラジルではワールドカップ反対運動が続いている。ブラジル国民の多くが試合を観戦すると予想される一方で、いくつかのグループがワールドカップへの抗議行動を行うことも予想されている。2013年6月のデモが繰り返される可能性もあることから、連邦政府は暴力行為の取り締まりに備えている。観光客や海外メディアを前にして、ブラジルのイメージが損なわれるのを防ぐための取り組みも行われている。
「デモが行われることは確実だが、それがどの程度の規模になるかは分からない」と、サンパウロの教育研究機関であるインスペール (Insper) の政治学者、カルロス・メロ氏は言う。彼は以下のように分析している。今日では、現状に不満を持つ人々が容易にソーシャルネットワークに繋がることができるようになり、その結果、「アラブの春」「ウォール街を占拠せよ」といった世界規模の運動や、ブラジルでの#Vem Pra Rua (通りにおいでよ) 運動などにも参加できるようになった。
現在、多くのグループが全国的な抗議行動を計画している。リオデジャネイロでは、独立人民戦線が5月16日に行われる文化交流フェスティバルの間、ワールドカップに対する「芸術的な叫び」と称する抗議行動を実施する。
サンパウロでは、5月15日にデモが行われる予定だ。このイベントは、サンパウロワールドカップ人民委員会 (omitê Popular da Copa SP) によって実施される。無党派であると自称するこのグループは、FIFAワールドカップに対する国際闘争 (internacional de lutas contra a copa da FIFA) の中心的存在だ。
20歳の学生、ファブリコ・メンデスは、サンパウロでの#NãoVaiTerCopa (ワールドカップはいらない) 運動の新しいイベントに参加する予定だ。この運動はワールドカップ期間中にも行われる。「全国民に住宅を」運動のメンバーとして、彼はワールドカップの開催に数十億もの予算を掛けることや、スタジアム建設のために住民の土地が差し押さえになっていることを非難する。
「今、ワールドカップなんて必要ないよ。ブラジルには他に優先すべきことがあるんだ。住宅問題とか医療の問題とかね」と、彼は語る。
しかし、抗議行動やFacebookを通じたイベントの参加者は去年のデモに比べて減少している。当記事の執筆時点で確認されたイベントの参加者数は、サンパウロにおいて3500人強、リオデジャネイロで1000人となっている。ブラジルポストによると、サンパウロでは過去6ヶ月間、平均して2000人がデモに参加したとされる。
サンパウロだけで約10万人が参加した去年6月の抗議運動に比べてかなり少ない人数だ。
■ 国際的な抗議運動
ワールドカップ人民委員会は、大会についての悲観的な意見を広めるために英文の報告書を用意した。報告書は、2014年ワールドカップは様々な問題を引き起こしていると主張する。労働者の死亡事故、子どもや十代の若者に対する性的虐待、ホームレスに対する暴力、そして、新たなスタジアム建設に伴う、住み慣れた土地からの住民25万人の排除等の問題である。
リオデジャネイロの黒十字アナーキスト (Cruz Negra Anarquista) という団体は、ワールドカップ反対のヨーロッパツアーを実施した。この団体はすでに、フランス、ドイツ、ベルギー、チェコ、ポーランドにおいて、海外メンバーの支援により、ワールドカップ開催に伴って起きている諸々の紛争について説明を行った。
5月12日、暴力的な抗議行動がベルリンで行われた。ドイツの首都にあるブラジル大使館が、覆面をした過激派左翼集団の標的となったのである。大使館は投石され、犯行グループはサイト上に、ワールドカップ開催による過度の出費を批判する内容の犯行声明を出した。
ブラジリア大学教授の政治学者ダヴィド・フライシャー氏は、ブラジルでのデモは今年、去年のコンフェデレーションズカップ期間中に比べて悪化するだろうと考えている。
「規模が大きく広範囲に渡り、暴力的でもある抗議行動を引き起こすものは何かということに、全世界が注目している」と、彼は語る。
■ デモ参加者を沈静化させる戦略
デモによって引き起こされる無秩序状態を回避するため、連邦政府は2つの対策を立てている。1つは、暴力行為を確実に鎮圧するための治安部隊の装備の充実。2つ目は、路上での抗議運動の解散である。
首都ブラジリア当局は、W杯に特有のお祭り気分を印象付けようとしている。反ワールドカップイベントが極力行われないようにするためである。
「サッカーはブラジルのナショナル・アイデンティティなのです」と、スポーツ省は5月12日にブラジルポストの記事内で語った。「代表チームが到着し、開幕が迫るにつれて、お祭り気分が支配的になり、暴力的な抗議行動の余地はなくなるでしょう。」
5月初め、スポーツ大臣のアルド・レベロ氏は、ワールドカップ期間中の抗議行動は縮小すると断言した。
「国民はワールドカップに抗議することよりも、お祭り騒ぎすることに集中するでしょう」と、BBCブラジルのインタビューで彼は語った。
挙国一致を声高に叫ぶ一方で、連邦政府および州政府は、抗議の機運をしぼませる他の方法も採用しようとしている。
「休日か半休が公布されるでしょう。休みを与えることで人々を外出させ、緊張感を和らげる狙いがあるのです。」と、カルロス・メロ氏は言う。
■ 暴力行為の鎮圧
政府は、ワールドカップ期間中の安全対策のために数十億の費用が必要になると見ている。スタジアムの警備、代表団や選手の警護に費用は用いられる。しかし、過激な抗議者の取り締まりもまた、費用の使い道として連邦政府によって考えられている。
「暴力や破壊行為、略奪行為は違法であり、許されるものではありません。」と、スポーツ省のスポークスマンはブラジルポストの記事内で語った。スポーツ省は、人々が平和的な方法によって活動する限りにおいて、デモの権利を尊重すると強調した。
ブラジルのニュースサイト「G1」によると、警察が保持する、ワールドカップのための非殺傷兵器の数が増加している。デモが起こった2013年6月から、今年の4月までの間に、27万以上の手投げ催涙弾と催涙ガス弾が購入された。
連邦政府は州の安全保障省と他の国々との間にパートナーシップ協定を結んだ。
「ブラジルは、この難題に立ち向かう体制が整っていることをすでに証明しています。実際に私たちは、コンフェデレーションズカップやワールドユースデーなどの大きなイベントを成功させたのですから」と、スポーツ省は言う。
[ブラジル]
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