メンタル・フィジカルの差を実感。韓国も数的優位の状況でベルギーに完敗。無勝で敗退

日韓は宿命のライバルでもあるが、お互いの状況を参考にしながら改善できるところは少なくない。今大会の惨敗という結果を踏まえ、それぞれのいい面、悪い面を今後の代表強化に活かしていくことが、アジアのレベルアップに繋がるのではないだろうか。
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SAO PAULO, BRAZIL - JUNE 26: South Korea players look dejected after a 0-1 defeat to Belgium in the 2014 FIFA World Cup Brazil Group H match between South Korea and Belgium at Arena de Sao Paulo on June 26, 2014 in Sao Paulo, Brazil. (Photo by Phil Walter/Getty Images)
Phil Walter via Getty Images

日本がコロンビアに1-4の惨敗を喫した後、灼熱の地・クイアバからサンパウロへ移動して26日(以下現地時間)の韓国対ベルギー戦をアレーナ・デ・サンパウロで取材した。すでにオーストラリア、日本、イランが1勝も挙げられずに最下位で1次リーグ敗退を余儀なくされており、韓国が最後の砦だった。

今大会の韓国は初戦・ロシア戦を1-1で引き分け、悪くないスタートを切ったが、第2戦・アルジェリア戦で守備が混乱し、前半のうちに3失点するという非常事態に陥った。後半に入ってソン・フンミン(レヴァークーゼン)とク・ジャチョル(マインツ)が2点を返したものの、最終的には2-4の完敗。勝ち点1・得失点差-2という厳しい状況でベルギー戦を迎えた。韓国がベスト16入りする条件は、彼らがベルギーに大量得点を取って勝ち、ロシアがアルジェリアに勝つこと。まさに日本がコロンビア戦に挑む前と全く同じといっていいような状況だったのだ。

洪明甫監督は守備のてこ入れを図るため、守護神のチョン・ソンリョン(水原三星)を下げて、キム・スンギュ(蔚山現代)を抜擢。動きの悪かったエース、パク・チュヨン(ワトフォード)に代えて長身FWキム・シンウク(蔚山現代)を先発に送り出した。ベルギーの方はE.アザール(チェルシー)ら主力を温存した1・5軍の布陣。それでもワールドカップ初出場のヤヌザイ(マンチェスターU)ら興味深い陣容が揃った。

後がない韓国は前半からソン・フンミン、イ・チョンヨン(ボルトン)の両ワイドを軸に積極的に攻めに行くが、思うようにゴールを奪えない。ボランチのキ・ソンヨン(サンダーランド)のミドルシュートも相手GKに防がれ、攻め手がなかなか見いだせない。そんな矢先の前半終了間際、相手MFドフール(ポルト)がキム・シンウクの足を削って一発退場。11対10の数的優位に。これで韓国は有利な状況になったと思われた。

洪明甫監督も後半頭からハン・グギョン(柏)を下げて、イ・グノ(尚武)を投入。2トップにして攻撃姿勢を鮮明にした。しかし彼らの猛攻をベルギーは強固な守備ブロックで跳ね返す。華麗な攻撃を売りにするベルギーも守るべき時は確実に自陣ゴール前を固められる。その守備意識の高さがあるから、大激戦の欧州予選を突破し、今大会の優勝候補の一角に挙げられたのだろう。その相手に韓国は攻めあぐね、ついにはカウンターからヴェルトンゲン(トッテナム)に決勝点を奪われてしまう。まるで日本対ギリシャ戦を見ているかのような展開で、指揮を執る洪明甫監督もショックを受けたことだろう。

この1点が最後まで重くのしかかり、韓国も最後まで白星を奪えなかった。結局、彼らは日本と同じ勝ち点1のグループ最下位。アジア勢は1勝もできずにブラジルを去ることになった。

「この試合はチームとしてフレッシュな状態で戦わないといけないと思ったけど、1人退場して逆に難しくなった。僕らはあらゆる面で学習能力が足りなかった。前回の南アフリカで日本と韓国が16強入りしていいパフォーマンスを見せたこともあって、今回のアジア勢は非常に難しい状況になってしまったと思う」とキャプテンマークを巻くク・ジャチョルは苦渋の表情でこう語ったが、確かにアジアに対する相手の研究・分析が進んだのは、今回の惨敗の一因だろう。日本にしても香川真司(マンチェスターU)や本田圭佑(ミラン)のような欧州ビッククラブでプレーする選手がいるし、韓国も今大会メンバーの10人が欧州組だった。UEFAチャンピオンズリーグで活躍しているソン・フンミンなどは、相手から徹底マークを受けるのは当たり前。そういう中で結果を出さないといけない。個の力をもう一段階、二段階引き上げないと厳しいのが現実だろう。

メンタル、フィジカル面の差があったのも見逃せない点。Jリーグでプレーするハン・グギョンもこう語っていた。

「今回の韓国はアルジェリア戦の失敗が一番大きく響いた。それもメンタル面が弱かったことが敗因だと思います。ベルギー戦は相手に守られて、相手とのフィジカルの差をすごく感じた。韓国の選手はアジアでは強い方と言われるけど、全然足りない。この経験を前向きに捉えて頑張っていくしかない」と。彼の発言は日本にも共通する問題点といえる。

さらに言うと、韓国は洪明甫監督が就任して1年しかなく、チームを完成させる時間が足りなかったのも確かだ。「洪監督は銅メダルを取ったロンドン五輪世代を中心にチームを作ろうとしたけど、エースとして期待したパク・チュヨンが全く駄目。チ・ドンウォン(アウグスブルク)やパク・チョンウ(広州富力)のようにクラブで試合に出てない選手を多く選びすぎた。洪監督は来年のアジアカップ(オーストラリア)までは指揮を執ると思うけど、欧州組がクラブで試合に出ないと劇的な変化は難しい」と韓国人記者も厳しい表情でコメントしていた。

この問題はやはり日本にも共通する部分。日韓は宿命のライバルでもあるが、お互いの状況を参考にしながら改善できるところは少なくない。今大会の惨敗という結果を踏まえ、それぞれのいい面、悪い面を今後の代表強化に活かしていくことが、アジアのレベルアップに繋がるのではないだろうか。

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

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(2014年6月30日「元川悦子コラム」より転載)