日本代表、格上と戦うオプションを持たなかった。自分たちのスタイルにこだわりながら、攻められずに初戦黒星

「前回(2010年南アフリカ大会)では自分らのサッカーをやったわけじゃなかったし、僕自身は結果が出なかったと思ってる。スッキリはしなかった。去年のコンフェデレーションズカップの時にうまくいかなくて、本当にこれまでやってきたサッカーでよかったのかと考えさせられる部分はあったけど、自分には南アフリカ大会の悔しさがあったから、このサッカーを絶対に貫かなきゃいけないっていう強い気持ちがあった。自分たちのサッカーで世界に勝負していく、世界に渡り合っていくことを強く決めましたね」

「前回(2010年南アフリカ大会)では自分らのサッカーをやったわけじゃなかったし、僕自身は結果が出なかったと思ってる。スッキリはしなかった。去年のコンフェデレーションズカップの時にうまくいかなくて、本当にこれまでやってきたサッカーでよかったのかと考えさせられる部分はあったけど、自分には南アフリカ大会の悔しさがあったから、このサッカーを絶対に貫かなきゃいけないっていう強い気持ちがあった。自分たちのサッカーで世界に勝負していく、世界に渡り合っていくことを強く決めましたね」

2014年ブラジルワールドカップ初戦・コートジボワール戦(レシフェ)を迎える前日、長友佑都(インテル)は改めて4年間積み上げてきた攻撃的スタイルで勝ちに行く意思を表明した。その言葉は本田圭佑(ミラン)、香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)ら日本の選手たちに共通する思いだった。

だが、実際の本番は理想とは程遠い結果となった。日本は相手の激しいプレスに直面し、思うようにボールをつなげず、守勢に回る展開を余儀なくされる。それでも前半16分、何度も練習していた素早いスローインから長友→香川→長友→本田とつながり、エースの左足がネットに突き刺さる。大会前から不調を懸念されていた本田のここ一番の勝負強さがいかんなく発揮された先制点だった。

この1点が入ったことで、精神的に優位に立ったはずだった。だが、ザッケローニ監督が「前半の最後の20分もそうだが、我々は相手に対して充分に攻撃することができなかった」と物足りなさを口にした通り、簡単に中盤でボールを失う日本は相手の鋭いカウンターに相次いでさらされる。それを山口蛍(C大阪)と森重真人(FC東京)の間一髪の読みで何とかしのいだが、彼らが台頭しなければ、もっと早い段階でやられていたことだろう。

後半に入ると、コートジボワールはより攻勢に出る。そのスイッチが入ったのが、後半17分に温存されていたエースのドログバ(ガラタサライ)が投入された時間帯だった。サブリ・ラムーシ監督はドログバとボニー(スウォンジー)を2トップにし、サイドからクロスを蹴りこむ形を多用。これが見事に的中する。ドログバが入って4分後には、右サイドバックのオーリエ(トゥールーズ)からのボールをボニーが頭で流し込み、この2分後には同じような形からジェルビーニョ(ローマ)が逆転弾をゲット。自陣に押し込まれた日本守備陣になすすべはなかった。

そこからのザッケローニ監督の采配も明確な意図が感じられなかった。大迫勇也(FCケルン)に代わった大久保嘉人(川崎フロンターレ)は最初、1トップに入ったのだが、指揮官の指示を受けて左サイドへ。本田が1トップ、香川がトップ下へ移動。それでも流れが変わらなかったことから、終盤には柿谷曜一朗(C大阪)が香川と交代して入り、1トップへ。本田が再びトップ下に戻った。しかしこんな目まぐるしいポジション移動はテストマッチはもちろん、練習でもやったことがない。指揮官は「私の試みは失敗に終わったということだ」と敗戦の責任を口にしていたが、彼自身も初めてのワールドカップの大舞台で混乱していたに違いない。

こうして1試合を通してみると、序盤からボールは支配されていたものの、前半の粘り強い守備は悪くなかった。ザンビア戦(タンパ)の反省を踏まえ、組織的な守備ブロックを敷いて、ギリギリのところで相手を跳ね返していた。ザックジャパンもこういう戦いができるのだと再認識したくらいだ。しかし、それが90分間とは続かなかった。以前から分かっていたことだが、このチームは守り倒すような守備の文化がやはり欠けていた。

コートジボワールのように個の力に勝る相手と対峙すれば、どうしてもボール支配率で上回るのは難しくなる。この日はあまりにもパスミスや不用意にボールを失う場面が多すぎたがゆえに、支配率は57%対43%になってしまったが、精々いっても五分五分だろう。そういう時に必要なのは、がっちり守る守備的オプションだったのではないか。長友ら選手たちは「前回の南アフリカ大会のような戦い方は二度としたくない」と口癖のように言っていたが、ワールドカップは勝たなければ意味がないし、最終的には結果しか残らない。攻め倒す戦い方しか持たないザックジャパンには、限界があったのかもしれない。

しかしながら、この期に及んで選手や陣容を変えられるわけではない。攻撃的に勝つと決めた以上、この試合でも2点取られたのなら3点取って勝つ勇敢な戦いをすべきだった。それを具現化していたのは、先制点を奪った本田1人だけだったかもしれない。頼みの香川も長友も岡崎慎司(マインツ)も封じられ良さを出せないのでは、日本が勝つのは難しい。だからこそ、現地時間6月19日のギリシャ戦(ナタル)では勇気を振り絞って点を取りに行ってほしい。シュート数7本という数字はやはり物足りなさすぎる。悔いを残さないためにも、ギリシャ戦では納得できるゲームをぜひとも見せてほしい。

元川 悦子

もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。

(2014年6月16日「元川悦子コラム」より転載)