ワールドカップ日本代表は「万全ではないと良い試合ができない」程度の実力

前半の終了間際に「ギリシャが先制」というニュースが流れ、その直後に本田のクロスを岡崎が頭で合わせて同点ゴール。一瞬、夢を見させてくれた瞬間だった。もちろん、後半に入ってハメス・ロドリゲスを入れてきたコロンビアに押し込まれ、個人技術の差を見せつけられて失点。点を取りに行った終盤には、カウンターから2点を追加され、結果的には大敗......
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CUIABA, BRAZIL - JUNE 24: A dejected Manabu Saito and Yoichiro Kakitani of Japan after defeat in the 2014 FIFA World Cup Brazil Group C match between Japan and Colombia at Arena Pantanal on June 24, 2014 in Cuiaba, Brazil. (Photo by Gabriel Rossi/Getty Images)
Gabriel Rossi via Getty Images

前半の終了間際に「ギリシャが先制」というニュースが流れ、その直後に本田のクロスを岡崎が頭で合わせて同点ゴール。一瞬、夢を見させてくれた瞬間だった。もちろん、後半に入ってハメス・ロドリゲスを入れてきたコロンビアに押し込まれ、個人技術の差を見せつけられて失点。点を取りに行った終盤には、カウンターから2点を追加され、結果的には大敗......2006年ドイツ大会のブラジル戦と同じスコアでの大敗となったものの、コートジボワール戦、ギリシャ戦と比べれば、納得のできる敗戦だった。これまでの2試合との最大の違いは何だったのか。それは、大久保がトップで起用されたことだった。

これまでは、2試合とも大迫が先発。ザッケローニ監督は次々とワントップを交代させてきたが、大久保がトップを務めたのはコートジボワール戦のごく短い時間だけだった。ワントップの役割というのは、もちろん点を取ることだが、ゴールだけを狙っていればいいわけではない(1試合に必ず1ゴールを決める力のある選手なら話は別だが......)。前線でボールを収め、味方の攻撃の時間を作ること。それによって、2列目以降の攻撃参加の時間を作ることもできるし、攻めの時間を長くすることが守備の安定にもつながる。

つまり、単純にしかけていって、すぐにボールを奪われてしまうようなプレーではトップの役割は務まらないのである。そして、ワールドカップに入ってから起用された大迫や柿谷は、「ボールを収める」という能力でかなり物足りなかった。その点、大久保はフィジカル的にもメンタル的にも日本人らしからぬ強さのある選手だし、ワールドカップの大舞台の経験もある。僕は、今シーズンのJリーグの大久保のプレーを見て、ワントップは大久保で行くべきではないかと確信を深めていた。

そして、5月のメンバー発表の席で、ザッケローニ監督も大久保をサプライズ招集。大久保が、どのように起用されるかを注目していた。だが、ザッケローニ監督は大久保をサイドで起用し続け、ワントップはあくまでもこれまで使ってきた大迫と柿谷優先だった。だが、2試合にわたって試行錯誤を繰り返した後、ザッケローニ監督はついに「大久保のトップ」という決断を下した。そして、その決断が正しかったことが証明された。

日本は、前半は大善戦だったが、キックオフ直後はコロンビアの個人技に苦しみ、押し込まれる展開が続いていた。その流れを変えたのが、大久保のプレーだった。9分、長谷部からのロングボールをうまくペナルティーエリアに入り込んで受けた大久保が、反転してシュートに持ち込んだ。あのプレーだ。そして、その後もトップへの楔のパスをワンタッチで香川に落としてチャンスを作ったり、ワントップとして求められる仕事をしっかりとこなした大久保の存在が日本の攻撃を活性化させた。

大久保の前線での豊富な動きと、ゴール前に走り込む岡崎には、コロンビアの守備陣も大いに手を焼いていた。それに刺激を受けたかのように、他の攻撃陣も呼応した。本田は、大久保の後ろのバイタルエリアで大奮闘。コロンビアの守備陣と互角の戦いをして、ボールをしっかりとキープして攻撃の時間を作った。日本の同点ゴールも、その本田からのクロスを大久保がDFの前に体を入れて、岡崎ヘディングで決めたもの。さらに、その大久保の右(本田に近いサイド)に香川も走り込んでおり、その香川にバランタが引っ張られたため、中央で岡崎はバルデスと1対1になることができたのだ。

本田は、国内からフロリダでの準備試合の段階では、ミランでの不調を引きずったようなプレーでコンディションも悪そうだったが、他のヨーロッパ組がコンディショニングで苦しんでいる中で、本大会にしっかり間に合わせ、しっかり気を吐いていた。ザッケローニ監督が、口癖のように言う言葉に「コンディションさえ良ければ、良い内容のサッカーができる」というのがある。当たり前ではあるが、確かな真実でもある。

だが、逆に言えば、「コンディションが万全ではないと良い試合ができない」のである。クラブチームでも、代表チームでも同じだと思うが、すべての試合で絶好のコンディションで最高のプレーができるわけではない。本当に強いチームというのは、調子が悪い時でも、内容の乏しい試合をしてしまった時でも、それなりに結果をつなげることのできるチームのことだ。

日本代表は、アジアではまさにそういう存在である。だが、世界が舞台では、最高のコンディションでないと戦えない。コンディション、メンタル面、そして監督の采配。さまざまな要素が絡まって、2014年ワールドカップは日本にとって失意の大会となった(それは、選手のコンディションが上がらなかったスペインやイタリアなども同様だが)。日本は、いつの大会でも必ず決勝トーナメントに進めるほど強くはない。しっかりと戦えて、いくつかの幸運が重なればベスト8(または、さらに幸運が重なればベスト4)も夢ではないくらいの力はある。だが、それは「ちょっと悪いことが重なればグループリーグ敗退を余儀なくされる」程度の実力でしかないという意味でもある。「優勝」の二文字を口にするのは、まだまだ遠い将来のことなのであろう。

(2014年6月25日「後藤健生コラム」より転載)