ワールドカップに厳然としている本当の強豪とその他の実力差

大会前、「優勝はブラジル、アルゼンチン、ドイツのどこかかな」と思っていたが、その3カ国が全てベスト4に勝ち残った。きわめて順当な結果と言っていい。「それ以外があるとすれば、スペインくらい」と思っていたのだが、スペインは早々とグループリーグで敗退してしまったのだから、僕の予言はたいして当たるものではないのだが……。残る1つは、そのスペインを初戦で粉砕したオランダになりそうである(この原稿は、アルゼンチンがベルギーを下した直後に書いている)。

大会前、「優勝はブラジル、アルゼンチン、ドイツのどこかかな」と思っていたが、その3カ国が全てベスト4に勝ち残った。きわめて順当な結果と言っていい。「それ以外があるとすれば、スペインくらい」と思っていたのだが、スペインは早々とグループリーグで敗退してしまったのだから、僕の予言はたいして当たるものではないのだが……。残る1つは、そのスペインを初戦で粉砕したオランダになりそうである(この原稿は、アルゼンチンがベルギーを下した直後に書いている)。ラウンド16(決勝トーナメント1回戦)で接戦が多く、8試合のうち5試合が延長戦にもつれこんだため、「昔に比べて各国の力が拮抗してきている」という論調をあちこちで見かけたが、強豪が順当に勝っち上がってきている結果を考えると、僕は相変わらず序列ははっきりしているという印象の方が強い。

確かにラウンド16では接戦が多かったが、試合内容は「拮抗している」というよりも「弱者の抵抗が強かった」ということだったのではないか。例えば、ベルギーがアメリカを下した試合。ベルギーはなんと38本ものシュートを打っている。アメリカ合衆国の名GKハワードの再三の好守もあって、アメリカが耐えに耐えた試合である。その他の試合を見ても、ナイジェリア、アルジェリアがそれぞれフランス、ドイツに抵抗した試合も、内容はフランス、ドイツが完全にコントロールしていた。「拮抗していた」と言えるのは、最後の最後までメキシコがリードしていたのに、残り2分からオランダが逆転した試合。そして、コスタリカとギリシャという「冗談のようなカード」の2試合くらいなのではないか。

そして、迎えた準々決勝。これまでに終わった3試合は、いずれも1点差のやはり接戦だった。だが、準々決勝とは思えないほど「格上対格下」の構図がはっきりしていた。そして、面白いことに、3試合とも「格上」が開始早々にセットプレーなどからあっさりと先制。その後、格下が追い上げて最後は格上が守りに入って逃げきるという展開だったこと。準々決勝最初のカード、ヨーロッパの強豪同士のドイツ対フランスも、明らかに試合はドイツがコントロールしていた。そして、FKからフンメルスが頭に当てたボールがゴールに飛びこみ、ドイツはその1点を守り切った。フランスはベンゼマが前線で孤立してしまい、ドイツのDFにとっては守りやすくしてしまったのが痛かった。

ブラジルも、CKからチアゴ・シウヴァが先制し、後半にダヴィド・ルイスのFKで追加点。楽勝かと思われたが、その後コロンビアが猛攻をしかけてPKで1点を返した。しかし、コロンビアのパス回しに対するブラジル守備陣のプレッシャーの早さ、ダヴィド・ルイスの守り方の幅を見せつけられた。リードされている側が最後の時間帯に猛攻をかけ、リードしている側が守りに入るのはいつも見られる光景でしかない。一見、ブラジルが辛くも逃げ切ったように見えるが、内容的にはブラジルの完勝だったと言っていいだろう(警告の累積でチアゴ・シウヴァ、そして負傷によってネイマールを欠くことになるという大きな代償を支払うことになったが……)。

そして、最後のアルゼンチン。こちらも、ディマリアが右サイドを駆け上がるサバレタを狙ったパスがベルギーの選手に当たってイグアインの前に転がるというラッキーなゴールで8分に先制。ベルギーの猛追をかわしての準決勝進出を決めた。メッシ頼りの感が強いアルゼンチンだが、次第にメッシにボールが入った時に周囲の選手が動き出すようになってきている。気候の良いベロオリゾンテでキャンプを張り、涼しい都市で試合を重ねる中で大会の経過とともにチーム作りが進んでいるように感じた。

過去19回のワールドカップで、優勝経験のある国は8カ国だけである。そのうち、優勝1回というイングランド、フランス、スペイン(前の2か国は、しかも地元優勝のみ)。また、最後の優勝からすでに半世紀以上が経過しているウルグアイを除外すると、本当の強国というのは4カ国だけということになる。今大会は、そのうち優勝4回のイタリアが早々と姿を消しているが、残りの3カ国全てが勝ち残っている。ブラジルは優勝5回。ドイツが3回。そして、アルゼンチンが2回。この3カ国だけで過去のワールドカップの半数以上を制しているのである。また、オランダは優勝経験こそないが、過去3回決勝戦で敗れた経験を持つ。

コスタリカのような頑張りと幸運によって勝ち残る国はあるが、準決勝そして決勝というのは、やはり本当の強国でないと勝ち残れないものなのだ。そして、ベスト4の顔ぶれを見ると、その傾向は今大会でも全く変わらないのだということを痛感せざるを得ない。

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

(2014年7月7日「後藤健生コラム」より転載)