サイボウズ式:「会社は個人の働き方に合わせるしかない」「一律のルールで管理するのはもう無理」──金丸恭文×青野慶久

政府は10月19日、その一環として「『副業・兼業』の解禁に関する研究会」や、「雇用関係によらない『フリーランス』の働き方を議論する研究会」を新設する方針を発表しました。
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安倍内閣が掲げる「働き方改革」。政府は10月19日、その一環として「『副業・兼業』の解禁に関する研究会」や、「雇用関係によらない『フリーランス』の働き方を議論する研究会」を新設する方針を発表しました。

議論が盛り上がる中で、サイボウズ社長 青野慶久との対談に応じていただいたのは、フューチャー株式会社会長で、内閣官房働き方改革実現会議議員の金丸恭文さん。2人はともに厚生労働省の懇談会の報告書『働き方の未来2035』の作成に携わりました。

そんな金丸さんといっしょに、会社と社員の関係やAIによる労働時間の変化などについて話しながら、「働き方改革」を阻む、日本社会のいくつかの前提について考えます。

「1つの会社に朝○時に来て、○時に帰る」という前提を疑おう

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金丸 恭文(かねまる やすふみ)さん。1954年生まれ。神戸大学工学部卒。1989年、フューチャーシステムコンサルティング株式会社を創業、フューチャーアーキテクト株式会社(現フューチャー株式会社)への社名変更を経て、現在同社代表取締役会長兼社長。内閣府規制改革推進会議議長代理、内閣官房働き方改革実現会議議員、内閣官房未来投資会議構成員などを務める。

青野:金丸さんは内閣官房の働き方改革実現会議議員として、日本の「働き方」にかかわる仕事をたくさんしていますよね。

金丸:していますね。大変です(笑)。

青野:やはり、大変ですか。

金丸:はい。例えば副業・兼業は青野さんも熱心に取り組んでいるテーマですけど、これは「自由な働き方をしよう」という前提があるから成り立つ概念です。その前提がないまま議論してもしょうがないですよね。

青野:今の日本には、まだその前提がない、と?

金丸:というのも、労働基準法では労働時間が1日8時間・週40時間までと定められています。

青野:時間外の労働時間についても、上限規制の動きがありますね。

金丸:はい、でもこれは逆の不安もあって。もし副業をしている人が、1社1日5時間ずつ、3社で働きたいとして、労働基準法や上限規制があると......。

青野:その働き方ができません。

金丸:自分でそれを望んでいるのに、です。今の労働基準法も、上限規制の動きも、「1つの会社に朝○時に来て、○時に帰る」という前提に基づいているんです。

青野:本人が望んで副業しているのですから、労働時間の合計に上限を付けるのは難しいですね。

会社が、社員の「未来」を「現在」の延長線上に考えてはいけない

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青野 慶久(あおの よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進める。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。

金丸:副業・兼業はほかにも、利益相反や競業禁止が問題になるじゃないですか。これもね、前提が違う。

青野:どう違いますか?

金丸:「ずっと同じ会社に居続ける」ことを前提にしちゃっているんですよ。だから「現在も未来もこの会社に奉仕してください」「貢献してください」という発想になって、副業・兼業によって労働力が2等分、3等分になると思い込んでしまう。

青野:経営者としてはイヤですね。

金丸:でも、実際にはもうその前提じゃないよね。会社が「現在」の延長線上に、社員の「未来」があると考えちゃいけないんです。

青野:どういうことですか?

金丸:要するに、会社にいると、自分に与えられているミッションがあるじゃないですか。売り上げを上げるとか、プロジェクト成功させるとか。でも、それを達成したら、それ以外はオプションのはずなんですよ。

青野:必ずしもその範囲を超えてコミットしなくてもよい、というわけですね。

金丸:そもそも、僕なんかも、仕事が終わってから青野さんとかと交流しているのだって、別に今年の営業成績にもつながらないし(笑)、来年もつながらないだろうけど、それが目的じゃないでしょう。

青野:そうですね(笑)。いつか何かの役に立つかもしれないから。

金丸:同じなんですよ。「現在」会社に対して果たすべき責任をしっかり果たしてさえいればよくて、「未来」はパラレルに存在するものだから。

青野:3年後に会社にいる未来もあるし、いない未来もある、ということですね。

金丸:そう。コミット外の活動は、未来の自分に対してするものなんですよ。結果的に、3年後にその社員が会社に残っていれば、高めたバリューは会社のためになるし、そうじゃなくても、自分のためにはなる。

青野:みんなが自分のバリューを高めていけば、結果的に会社に貢献する度合いも増えるということですね。

労働時間が8分の3になると、あなたの給料も8分の3になる?

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金丸:今後、AI(人工知能)やロボットが実用化されたときに、どうするかという問題もあります。今の政府には、労働時間を気にしている人が多いんだけど、時間だけにこだわっていると、逆のレトリックにはまるというか。

「あなたが8時間かかっていた仕事がAIやロボットによって3時間でできるようになりました。かかる時間は8分の3になったので、あなたの給料も8分の3になります」という話にされちゃう。

青野:成果は変わっていないのに。時間で測る怖さですね。

金丸:逆に成果で見れば、「AIやロボットがあるから、勤務は3時間でいいので、浮いた5時間分はどうぞ、副業でも兼業でもやってください」と言える。そもそも、浮いた5時間分の仕事を会社が用意できるかと言えば、できないですよね。

何が言いたいかというと、働き方の未来を考えるにあたっては、一律のルールで管理するのはもう無理です、と。これからの働き方は多様なので、いろんなケースがある。

青野:もっとアバウトに運用していくべき、ということですか?

金丸:そう。ミッションがあって、達成までのアプローチ方法はゆるやかでいい。そこはまあ、もっと自由な発想で、知的に仕事をしましょうよ、と。

新入社員が来ると、会社は当然のように机とイスを買うじゃないですか。でも、その机の上に乗せるパソコンは「本当に必要かどうか検討しなきゃ」なんて言い出す。でも、机とイスの費用対効果は誰も気にしないんですよ。

青野:(笑)。本当に、それはそうですね。

金丸:今時、机とイスはカフェにアウトソースできますよね。逆にパソコンを支給したら、机とイス代のコストを削れると、なんで考えないのかな、って。せっかくテレワークが取り沙汰されているのに。

青野:一回、ゼロベースで考えようということですね。今前提とされていることをこうやって引っくり返していかないといけないのは、たしかに大変ですね。

今の法律のベースは明治・大正時代の「工場法」

金丸:しかも、何十年後かには自分のような人間が、「こんなルール誰が作ったんだ」と言いながら、また改革しているかもしれないですからね(笑)。

青野:歴史は繰り返すと言いますか(笑)。法律が時代の変化に対応できていないのでしょうね。

金丸:労働基準法のベースは、明治・大正時代の工場法だからね。「弱い労働者を守る」のが法律の目的で、そもそも現状とは大きなギャップが生まれてしまっている。いやいや、もうそんな会社、あんまりないです、って。

青野:経営者って今、弱いじゃないですか(笑)。辞められたら、会社を縮小しなきゃいけない。

金丸:今はもう、自由に転職できるからね。うちの会社もそうだけど、みんな転職サイトに登録しているし、そこから毎日のようにメールが来るわけだ。「あなたの正当な給与は」「待遇は」って。

青野:「サイボウズ 評判」で調べれば、ネット上には口コミがたくさんあるわけですからね(笑)。

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金丸:とある社員口コミサイトには官公庁の口コミも掲載されているんだけど、そこでは厚生労働省の評価が、一部で労働条件が過酷と言われている量販店チェーンと同じでしたからね。

青野:その厚労省が、われわれに働き方を改革せよと言ってくると思うと......。

金丸:でも、そういう口コミを見ていると、早く帰って残業時間も短い人の満足度が、特に高くないことにも気がつくんですよ。

青野:え、そうなんですか? 残業時間と満足度は反比例しそうですが......。

金丸:ボストンコンサルティングとかマッキンゼーとかの社員は、めちゃくちゃ働いていますよね。残業時間が長いけれど、満足度が高い。

青野:社員のニーズと実際の働き方にギャップがないんでしょうね。

金丸:そういうところは、労働時間の上限規制があったらやっていけないですよね。とはいえ、国が会社によってこっちはいいけどこっちはダメ、みたいには定められないから。

青野:難しいですね、どうすればいいのでしょうか。

金丸:まあ、これについては要するに、早く帰ればいいだけの話なんですよ。

青野:あれ? どういうことですか?

金丸:効率化ですよね。みんなで早く帰るための努力をする。それは場合によってはAIやロボットの導入かもしれないけれど。そうやってできた余剰時間で、したい人は副業・兼業をすればいい。

青野:ただし、社会全体としては「早く帰りましょう」ってする、と。

金丸:そうですね。場所や時間に縛られない働き方を実現しなければいけない。工場法なんて古いルールをもとに話し合っている、このナンセンスな状況を何とかするのが本丸ですね。

本来、社会の主役は「会社」ではなく「個人」である

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青野:金丸さんが座長を務める『働き方の未来2035』報告書の中で、未来の企業を「プロジェクト」という言葉を使って表していたのが印象的でした。「会社というのは、ビジョンがあるプロジェクトの塊みたいなもんだ」と。

金丸:ありがとうございます。

青野:今は「個人が会社に属する」っていう考え方ですが、プロジェクト単位になった瞬間に、もっと個人にフォーカスしなければいけなくなる。税や社会保障の制度をすべて作り直さなければいけない。

金丸:本来は、個人が社会の主役なわけですよね。その個人が、例えばわたしが経営しているフューチャーアーキテクトという会社に集まった、と。フューチャーはそうやって成り立っている。

ある仕事のタスクがあって、「そのタスクに対して最適なチームを作る」という理念の会社ですね。こういう考え方をすると、プロジェクトになるんですよ。

青野:個人にとっては、プロジェクトも会社も1つの属性に過ぎないということですね。

金丸:オープンイノベーション(※)だったら外部とも仕事をするし、会社への帰属意識がなくてもいいと思うんですよ。極端な話をすると、1時間だけ、1円単位で働いたっていいわけですから。

ITが発達した今は、プロジェクト単位で稼働時間やその報酬を管理しやすくなっているんですよね。昔だったら、固定的な組織をベースに考えたほうが行政は管理しやすかったわけですが。

※自社に限らず、他社や大学、地方自治体、社会起業家などがもつ技術やアイデア、サービスなどを組み合わせて、革新的なビジネスモデルや研究成果、製品開発、サービス開発につなげる方法。

青野:現行の制度では、副業・兼業やフリーランスのような、多様な働き方をサポートしきれていませんね。

金丸:うん。会社に属している人のことを「労働者」と定義しているから、属していない人は「あなたは労働者じゃない」と言われてしまって、保護の対象外になる。これって先進的じゃない。

だったら、ITを駆使して、気の利いたスマートな国を目指そう、と。「日本企業ってさすがのハイテクカンパニーだよね」と言われるくらいになれば、日本はもっと、生き生きとしたカッコいい国になれる。

青野:日本はフランスや北欧の制度を真似るというか、取り入れたりしていますが......せっかく後出しジャンケンするなら、勝たないといけませんね(笑)。

個人のワークスタイルに、会社が合わせるしかない

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金丸:フューチャーでも、わりと仕事ができるというか、技術のある人材が「起業します」って言ってきたんですよ。だから、辞めるのかなと思ったら、起業はしたいんだけど、起業して自分が成功するかはまだ自信がない、と言う。

青野:正直ですね(笑)。

金丸:よって、フューチャーの会社にいながら起業を研究したい。週に3日は起業のネタを探しにいろんな人に会いに行く。給料は2日分でいいので、とかなんとか。それって兼業かつ起業だから、いずれにせよ、ウチを出て行く企画をしているわけです(笑)。

青野:そうなりますね(笑)。どうしたんですか?

金丸:僕は「フューチャーを出て行くときは、起業しろ」と、そういう集まりにしたいと常々言ってきたから、それに反しているわけじゃないんだけど......。

起業のプランを聞いたんですよ。で、いろいろ詳しく聞いていると、どうも成功しそうにない。「成功するかはまだ自信がない」と自分で言うとおりだと(笑)。だから、したいようにさせています。

青野:(笑)。何でもありですね。

金丸さん:そう、何でもありなんですよ。会社は個人のワークスタイルというか、個人に合わせるしかないんです。子どもが生まれて夜泣きをする。そしたら、夜泣きに会社が合わせるしかない。

青野:昨日僕も泣かれましたよ。夜中の2時半くらいに。

金丸:大変でしょう。それはもう、仕方のないことだから。だから、むしろ自由に、最高のパフォーマンスを発揮できる働き方を考えて選んでください。

それはなぜなら、会社にとっても都合がいいから。それがあなたにとっても都合がいいなら、お互いWin-Winである、と。

「行き場がない」国では、もっと種目を増やす必要がある

青野:「ルールを守らせる」という発想じゃないわけですね。副業・兼業も、したくない人はしたくないわけで。

金丸:『働き方の未来2035』は「自立」がテーマなんですよ。今って序列社会だから、フレキシビリティーがなくなって、変化に対応しづらくなる。そうすると当然、個人じゃなくて会社に依存してしまいます。

その序列を作るツールとして、例えば小学校では国語・算数・理科・社会というのを使っているわけですよね。1~5までの数字で評定をつけて。でも、評定で4教科全部に1がついたら、その子はもう行き場がないじゃないですか。

青野:グレるしかないですね。

金丸:4種類しかないんだから、当然ですよね。だからもっと、社会は選択肢を豊富にしなければいけないんですよ。

オリンピックにも、普段は注目されない種目があるじゃないですか。でも、4年に1回はそういうマイナーな種目にも焦点が当たって、頑張っている人たちがいて、そこに感動がある。

青野:そう考えると、もっと種目を増やしたほうがいいですよね。たくさん種目があれば、みんながそれぞれの道のスペシャリストを目指すことができる。

金丸:この国には行き場がないんですよね。人間も多品種少量生産じゃないですけど、バリエーションを増やさないと。同じような人をたくさん作ってもしょうがないんですよ。もっとおもしろい人を作らないと。

「横糸」だけでなく、「縦糸」で人生を紡ぐ

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青野:でも、それってどうすればいいんでしょうか。会社に依存せず、自由な働き方をする、というのは。

金丸:僕はそのマインドを形成するためには、アフター5がすごく重要だと思っているんです。アフター5で誰と食事をして、誰とお酒を飲むのか。僕は同期会には行かない男なんですよ。

青野:えっ、どうしてですか? 同期と愚痴を言ったりしないんですか?

金丸:だって、同期と話をしたって、ほとんどガセネタですよ。「らしいよ」「らしいよ」ばっかりで。

青野:たしかにそうですね(笑)。

金丸:そこで僕は、こんな会なら行くの止めようと思って。「じゃあ誰と......」って考えたときに、先輩と行くとお金を払ってもらえるじゃないですか(笑)。

青野:たしかにそうですね(笑)。

金丸:先輩も可処分所得によっては、奥さんにお小遣いもらえてないと、お金を使えない(笑)。そこで、独身で、お酒が好きで、仕事もできる人を探して、その人に「お話を聞きたいです!」って言うと、「おお、そうか」って。

青野:「ここは俺が払うから」と(笑)。

金丸:あとは、僕は「事務局イニシアティブ」というのも重要だと思っています。事務局をやった方がいいですよ。だって、懇親会とかすると、社長以下全員の連絡先が手に入るから。

青野:すごいテクニックですね!(笑) 事務局イニシアティブ!

金丸:ただし、このときは自分が最年少の立場であるのも重要です。そうじゃないと、「出し抜こうとしている」と警戒されてしまうこともあるので。若い人ほど、こういう面倒な仕事を率先してすると、かわいがってもらえるでしょ?

青野:自分の財布では行けない店にも行けますね(笑)。

金丸:僕の手の内をサイボウズにさらしちゃったけど(笑)。

青野:若いうちから、事務局を活用して学びの機会を得るっていうのはいいですね。

金丸:同期とかの横糸もいいけど、やっぱり上司とか先輩とかの縦糸が重要ですよ。織物ですから人生は。

青野:ありがとうございます。

文・朽木誠一郎(ノオト)/撮影・すしぱく(PAKUTASO)