私たちは、いつか必ず死にます。
そう分かっていても、体も心も元気なときは生きるのに精一杯で、「死」と向き合うことは難しいものです。
怖くて、考えたくもない...。
そんな風にタブー視されることの多い「死」。しかし、家族や友人などの病気や死に直面すると、それまで遠かったはずの「死」が身近なものとして迫ってきます。
「孤独死はしたくない」、「苦しまずに死にたい」、「家族に看取られたい」、「死ぬ前に、大好きだったあの人に会いたい」。
「最期を迎えるそのとき、私は誰と一緒にいたくて、何をしたいと思うのだろう? そして、何を考えているのだろう?」
頭と心の片隅にある、死に対する思い。皆さんの中にも、きっとあるでしょう。
「死の体験旅行」で、自分と深く向き合う
「小さなお寺 なごみ庵」(横浜市神奈川区)住職、浦上哲也さんが講師をつとめる「死の体験旅行」は、自分が病にかかり、病気が進行し、やがて命を終えていく物語を疑似体験するワークショップです。
死を目前にした人が直面する苦しみ、悲しみ、喪失感などを通して自分にとっての「生と死」を考え、本当に大切なものは何かを再確認していきます。自分と深く向き合うことができるこのプログラムは、これまでに1500人以上の方が受講され、「向源」でも毎年開催されています。
「死の体験旅行」は、もともと欧米で考案されたと言われています。ホスピスなど死に関わる仕事をしている方に、死にゆく方の気持ちを少しでも理解してもらうのが、もともとの目的だったようです。
これから参加される方のために詳しいことは伏せておきますが、「死の体験旅行」では物語の進行とともに自分が大切だと思うものを1つずつ手放していきます。そして最後に参加者全員で顔を合わせ、自分の大切なものについて語り、思いをシェアしていくのです。
大切なものを、たったひとつだけ
このワークショップに昨年、私も参加しました。疑似体験とはいえ大切なものをひとつひとつ手放していくのは罪悪感や喪失感がともない、非常につらいものでした。実際、物語が進むにつれ、会場の至るところからすすり泣く声が聞こえたほどです。
参加したある方は「物はすぐに手放すことができましたが、人を手放すのはつらかったです。自分が病気になったときに助けてくれた親友と母親とで悩みましたが、最終的に母親を選びました。自分の気持ちを見つめ直すことができ、参加して良かったです」とお話されました。
また別の方は、「東日本大震災を体験したのであまりにも"死"がリアルすぎて今まで参加できませんでした。でも、やっと気持ちに整理がついたので参加を決めました。震災で持っていたものが全部流されてしまったので物には執着がありません。私が最後に残したのは、今お付き合いしている恋人です」とお話されました。
自分が気付かなかった自分に出会う
最期の瞬間を迎える時に気付く、本当に大切な人、物、事。その基準は、人それぞれ違います。そして、思いもしなかった感情がわき上がり、自分でも気付かなかった自分に出会うことができます。
例えばある方は、「私が死ぬ姿を大切な人には見せたくないです。きっとその人がひどく悲しむから。だから、この人なら私の死を悲しみながらも乗り越えてくれるかもしれないと思う人を最後に残しました」と言い、別のある方は「自分がラクでいられる人と最期を迎えたい」と言いました。
そして私は、母親を残しました。今までさんざん心配をかけてきたから、もう安心させたいと思っているにも関わらず。
また「死の体験旅行」は、亡くなった方を思うきっかけにもなるようです。
「厳しかった祖母はどんなことを思いながら死んでいったのかな」
「若くして亡くなった親友のお母様は、最期に誰と会いたかったのかな」
「心残りはなかったのかな」
そんな気持ちが、不思議と湧き上がってきたのです。それは今まで経験したことがないような感覚でした。
死の疑似体験を通して、自分と深く向き合うことができる「死の体験旅行」。
最期を迎えるそのときに、たったひとつだけ。
大切なものを残すとしたら、あなたは何を選ぶでしょうか?
(ライター、薫物屋香楽認定・香司 岡本英子)
【向源からのお知らせ】
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寺社フェス「向源」とは、宗派や宗教を超えて、神道や仏教などを含めたさまざまな日本の伝統文化を体験できるイベントです。6回目となる今年は、「ニッポンを遊べ。」をテーマに、日本橋を中心に100コマ以上(予定)の体験型ワークショップや公演などを実施します。ゴールデンウィークの連休はぜひ「向源」にご来場ください。
ホームページでは随時講座情報や最新情報を更新します。チケット発売開始までしばらくお待ちください。
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向源は企業が主催し、イベント会社が運営する一般的なフェスとは違い、ボランティアで運営されているフェスです。普段なかなか触れる事の無い伝統文化を学びたい、体験したい、感じたいと思ってきてくださる来場者様と、伝えたい思いと伝統を携えたお坊さん、日本文化の伝統の後継者を繋げるのが私たち含めボランティアスタッフの仕事です。
そんな【向源】を成功させるため、一緒にお手伝いをしてくれるボランティアスタッフの募集にあたり、説明会を開催します。
1日でも2日でも、もちろん7日フルでも、事前準備だけでも大歓迎です。向源のボランティアには百人百様、様々なカタチがあります!
◆日時:4月2日(土)16:00~
4月9日(土)16:00~(いずれかの日にご参加ください)
◆場所:浅草神社
◇詳細はこちら!http://kohgen.org/staff
説明会参加できないという方、大丈夫です!その旨お知らせいただければ、個別でご相談させていただきます。ぜひご一報を!
本コラムは、日本最大級の寺社フェス!「向源」のスタッフより執筆されています。