女性CEOの企業は利益率が高い? フィンランドは、どうやって"女性の活躍"を進めたのか

男女平等の先進国、フィンランド。フィンランド人男性と結婚後、現地に移住し2人の子供を育てるフリーライター・靴家さちこさんが紐解く、「女性の活躍」100年の歩みと現実とは?
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男女平等の先進国、フィンランド。フィンランド人男性と結婚後、現地に移住し2人の子供を育てるフリーライター・靴家さちこさんが紐解く、フィンランドの“女性の活躍”100年の歩みと現実とは?

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安倍政権が目指す「女性が輝く日本」。先の国会における「女性活躍推進法」の廃案以来、本テーマはやや置き去りにされてはいないだろうか。先の安部内閣の女性閣僚2人の慌ただしい辞任は、目をくらませてしまったのではないか。

今回は「女性の活躍推進」について、世界経済フォーラム(WEF)による男女平等の度合いを表す「ジェンダー・ギャップ指数」ランキングで世界2位を誇る、フィンランドでの取り組みを紹介しよう。

■「女性の活躍」歴100年の国

フィンランドは、1906年に世界で初めて男性と同時に女性にも普通選挙権を与えた「男女平等」先進国だ。日本と同様、資源が少なく、男女共に農業に励んだ歴史もあり、スウェーデン統治下時代と、その後統治されたロシアからの独立戦争、さらに第2次世界大戦でも男が戦場に駆り出された時期が長かったため、女性達は「何かあれば一人でも働く」意識を持ち続けてきた。

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家庭の主婦に「寝てないで投票しなさい!」と呼びかけていた時代も

同国が就業人口における女性の立場を改善し始めたのは、1958年のこと。男女平等を守る法律には、「フィンランド憲法」「男女平等法」「国家公務員法」と「地方議会法」の他に、2001年に制定され、雇用者が従業員を差別することを禁止した「雇用契約法」などがある。男女平等に関しては社会保健庁の管轄下、「男女平等ユニット」「平等オンブズマン」「平等委員会」「平等評議会」などが監視の目を光らせており、「フィンランド国立女性団体評議会」には60近くもの団体が所属している。

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2011年に創立100周年を迎えたフィンランド国立女性団体評議会の活動歴をつたえる小冊子

このように整った体制の下、25~54歳までのフィンランド人女性の就業率は80%で、15~64歳までの就業率は68.2%とEU27カ国平均の58.6%を上回り、70.5%の男性との差はEU27カ国で最少だ。女性の高学歴取得者の割合は38.3%と、EU27カ国平均の25.8%を大きく上回っており、男性の27.4%よりも高い(Eurostat 2013)。

■ノルウェーの「クオータ制」、フィンランドの「ガバナンス・コード」

さて就業率も学歴も高いフィンランド人女性だが、民間企業の管理職となると男性が36%のところに女性は7%しかいない。重役職に女性が占める割合のトップは中国、2位がポーランド、3位にラトヴィアと続く中、フィンランドは27位と芳しくない。

しかし女性役員の割合では、1位がノルウェーの36.1%、2位がスウェーデンの27%、3位にフィンランドの26.8%と他の北欧国同様、目覚ましい数字を誇っている。

また、女性の活躍推進にかけては、2008年に「会社法」を改正し、世界に先駆けて公営と上場企業の取締役会に男女どちらも40%を満たすことを義務付けたノルウェーの「クオータ制」が有名だ。

フィンランドではそれより若干早く、2003年に「コーポレートガバナンス・コード」(上場企業の企業統治の指針)に、世界で初めて「取締役会に男女両方の性別があること」が盛り込まれた。2008年に更新され、取締役会に男女両方の役員がそろわない企業には、その理由を自社サイトや年刊レポートなどで公に説明する義務が課せられた。

フィンランドでもクオータ制の議論は活発で、政府機関でも導入が求められているが、民間企業では企業成長の妨げになると敬遠されている。またフィンランド上場企業の女性役員の割合はここ10年間伸び続けているので、コーポレートガバナンス・コードだけで十分という見方が強い。

■「女性の活躍」、近隣国の制度に目を光らせるフィンランド

フィンランド商工会議所の調査によると、ノルウェーでは半数近くの公営企業がクオータ制の義務から逃れるために私企業化し、ノルウェーの女性CEOはわずか3%、経営陣でも15%と、クオータ制の無いフィンランドとスウェーデンに劣り、「ゴールデンスカート」という、数字稼ぎのために一人の女性がいくつもの取締役職を兼任する現象がある。取締役に選ばれた一人の女性が“取締役業”ばかりに追われ、企業内における出世街道からは外れる危険性がある。

クオータ制かコーポレートガバナンスか。いずれにせよ、男女バランスよく構成された取締役会がある企業では、男性だけが占める企業と比べて56%も利益率が高いという調査結果がある(マッキンゼー “Women Matter 2010”)。このような客観的なデータを元に、政府が企業に3年や5年という具体的な目標設置を課すと、取締役候補の女性めがけてヘッドハンターがどっと押し寄せる現象が、ノルウェーでは現実に起きた。

このように近隣国の異なる手法にも目を光らせ、自国に取り入れるべきかじっくり吟味する姿勢はいかにもフィンランドらしい。

■フィンランドを納得させた、女性CEOの関する調査結果

同じような現象が近未来の日本でも起こらないとも限らない。いきなり抜擢してみても良い人材が集まらないのでは? という漠然とした不安もある。それに対しては「フィンランド国立女性団体評議会」のテルヒ・ヘイニラ事務局長(画像)が請け負ってくれた。前述の同評議会は、フィンランド国内の女性団体を束ねており、ヘイニラさんは国会でも発言している。

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「フィンランドでも初めはそうでしたよ。初期では能力的にふさわしい女性が集まらず、周りからの批判も集中しましたが、時間が経つにつれ優秀な人材が見つかり、状況は落ち着きました」

その根拠は2007年に行われたフィンランドのシンクタンクEVAの調査結果にある(Finnish Business and Policy Forum EVA)。フィンランドの1万4020企業を調査したところ、女性CEOがリードする企業の方が男性CEOの企業より10%も利益率が高かったのだ。それ以来、フィンランドでは「女性のトップマネージメントへの起用が企業をダメにする」という議論は成り立たなくなった。

■「男性が育児参加しやすくなるしくみ」も追求

政府主導の「女性の活躍」だと、ともすると“全ての”女性が輝くためにバリバリのリーダーや管理職にならなくてはならないように感じられる。フィンランドでは個々人で考えや見方が異なる「ワークライフバランス」はどのように考えられてきたのか。この問いに対するヘイニラさんの答えは意外とシンプルだった。

「だからこそ、フィンランドでは“最長”3年間の育児休暇をそれぞれの希望に合わせて自由に設計できるようになっているのです」

前述の高い就業率からして、“女性が働いていること”が前提の回答ではあったが、確かにこれだけでも夫婦のキャリアプランや家族計画のバリエーションは広がる。しかし、例えば子供が病気になった場合に休みを取るのが母親では、女性のキャリア形成は依然として難しいのではないだろうか?

これに対してヘイニラさんは、「フィンランドにも母親の伝統的な役割はまだ残っていますが、夫婦で話し合いそれぞれの雇用先から協力を得れば、夫婦交替で休むということも不可能ではありません。私も夫とそうしてきましたが、父親の看病も子供は喜んで受け入れますよ」とほほ笑んだ。

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アフター4に体を動かしてリフレッシュするワーキングウーマン

■育児参加は男性の権利、両親の育休を促す「6+6+6プラン」

フィンランドでも、やはり女性の活躍推進には男性との協力体制が不可欠だ。現状ではフィンランドは、出産時に取れる約2週間の「父親休暇」の取得率は80%以上、消化率は70%と北欧の中でも高いが、両親のどちらかが取れる「育児休暇」の父親の取得率となると5%以下と北欧一低い(2007年KELA社会福祉庁)。

この解決策として、フィンランド国立女性団体評議会では「6+6+6プラン」を提唱している。子供の出産時にまず両親のどちらもが6カ月(6+6)「両親休暇」を取得し、その後の6カ月(+6)は父母どちらかが育児休暇を取得できるというものだ。

「子供との関わりは、男性にとっても大変貴重な体験ですから、男女平等に与えられるべきだと考えます」とうなずくヘイニラさん。フィンランドでは、育児参加を男性の権利や機会としてとらえられている。「男女平等も良いけれど、子供達は?」という問いに対しては、「多くのフィンランド人は、一人で帰宅し、宿題をして、おやつも食べられるようになることは、“子供の自立を促す”と前向きにとらえている」と答えた。

最後に、「仕事で何度か日本に行ったことがありますが、高学歴で賢い日本人女性の専門家の方達のほとんどが独身だったことが、強く印象に残っています」と語ったヘイニラさん。評議会の事務局長として、「男女平等の実現のためには、不平等を裏づける、実に多くの数字やデータを取ること、取り続けることが重要です」という貴重なアドバイスもいただいた。この“実に多くの”数字やデータを取り続けてきた女性達の国からの心強いメッセージを、しかと受け止めて参考にしたい。

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