2016年8月10日に実施されたイベント「OUR VISION CAMPUS ハタチまでに学びたい未来のつくり方」で、「私たちの時代の新しい『お金』との付き合い方」をテーマに登壇いただいたのは、鎌倉投信 取締役 資産運用部長の新井和宏さん。
2008年に仲間4人で鎌倉投信株式会社を創業し、これからの社会にほんとうに必要とされる会社に投資をしています。たくさんのお金にかかわってきた新井さんが考える「会社と個人のよりよいお金の使い方」「お金との向き合い方」とは? 前編では、サイボウズ社長 青野慶久といっしょに「会社のお金の使い方」について話します。(後編「お金や利益が目的になってしまった会社は、基本的にダメになります」)に続きます。
貯め込んでいた数十億円を、日本の働き方を良くするために使いたい
青野:今年からお世話になっている鎌倉投信さんですが、そもそも、どうしてサイボウズに投資をしてくださることになったんでしょう?
新井:大前提として、鎌倉投信は「本業で社会貢献をすること」が、本来あるべき企業の姿だと考えています。
青野:確かに。CSR(企業の社会的責任)の概念もありますが、「CSRの取り組みが素晴らしい=企業価値が高い」ということにはならないんですね。
新井:その責任を果たした上で、何をやっていくかが、今の企業に問われています。サイボウズさんは進むべき方向が明確に見えている会社。少し先の未来が見えづらい社会や環境であっても、目的地へまっすぐ進もうとしている。
現在されていることの延長線上に、サイボウズさんのあるべき姿が存在している、とぼくらは確信したんです。だから投資先に選ばせていただきました。
青野:今のサイボウズは、社会に求められていることをしている、という実感があります。
19年連続で黒字経営を続けているんですが、18年目のとき、ふと疑問に思ったんです。このけっこうな額の利益を貯めておくのは、社会の役に立っているといえるんだろうか、と。その後、(自分の欲を超えて、社会のためにどうしたらいいかを考えるために)「神さまならどうする?」と脳内で問いかけました。
新井:神の声はどんなものでしたか?
青野:「日本の働き方を変えないといけない」と聞こえてきました。
「日本の働き方を変えないといけない」と神の声が聞こえた
新井:時期としてはいつごろ?
青野:ちょうど今の本社オフィス(東京日本橋タワー)に移転する前、どこを借りようか検討していたころです。ここ、家賃がすごく高いんです。候補としてあがっていた別の割安な物件を選ぶのが妥当だったでしょう。
それでも今回は神の声を忠実に聞こうと思ったんです。国内外からいろいろな人が集まってきて、新しい働き方を考えられる場所を作り、世界を変えていきたいという思いから、ここに決めました。
新井:まず、場所に投資をしたわけですね。今年も利益が出ていると思うのですが、それはどこに投資をするおつもりですか?
新井和宏(あらい・かずひろ)さん。1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。1992年、住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)に入社。2000年には、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)に入社。企業年金・公的年金などを中心に、株式、為替、資産配分等、多岐にわたる運用業務に従事し、ファンドマネージャーとして数兆円を動かした実績がある。2008年11月、志を同じくする仲間4人で、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い 2101」の運用責任者として活躍している。
青野:さらに働き方改革に投資したいですね。まだまだ自分たちのノウハウを社会に還元できます。そうするうちに、長時間労働をやめたときに何が必要とされるか、少子化問題を解決するために何かできないかなど、働き方改革を進めた先に次のテーマも見えてくるでしょうね。
新井:早くも次の投資先が見えているんですね。日本の働き方改革担当相みたい(笑)。
青野:ぼくらがこうしたほうが社会にとっていいんじゃないかと思って、勝手にミッションを背負ってるんですよ(笑)。サイボウズが貯めてきた数十億円のお金なんて、日本というひとつの国にとっては端金(はしたがね)に過ぎませんが、それを生かしたいですよね。
新井:そういうスタンスをとられているところに、今の社会におけるサイボウズさんの存在意義を強く感じます。
実は超合理的な「きれいごと」に見える投資スタイル
青野:鎌倉投信さんの投資信託「結い 2101(ゆい にぃいちぜろいち)」は「これからの日本にほんとうに必要とされる『いい会社』」に投資する金融商品ですよね。
言葉は悪いかもしれませんが、一見"きれいごと"に感じられる世界じゃないですか。その中で投資し、リターンを返さなければならない。これってとても難易度の高いことじゃないかと、ぼくは見ていたんです。
新井:こちらとしては狙った上で、きれいごとをしています(笑)。理由の1つは、ぼくらが持っているスキルを自分の年収を上げるために使うか、社会のために使うか考えたとき、今のぼくは後者を選びたい。
難しい挑戦かもしれませんが、これまで培ってきたスキルを使うとどうなるのか試してみたいんですね。
青野:なるほど。
青野 慶久(あおの よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。2011年から事業のクラウド化を進めた。総務省ワークスタイル変革プロジェクトの外部アドバイザーや一般社団法人コンピュータソフトウェア協会の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)がある。
新井:もう1つは今の日本にはたくさんの社会課題があり、マーケットは低成長期に入っています。多くの人は、日本株に投資したところで高度成長は期待できない、と予想するわけです。
だからこそ、社会課題解決に向き合う会社に投資すれば、会社もさらに成長するし、当社のお客さまの最終リターンにも反映される、とぼくは考えました。非合理的に見えるかもしれないですが、本当のところはそうではないんですよ。
青野:従来とはまったく視点を変えた投資方法なんですね。確かに合理的!
新井:日本は課題先進国ですから、ぼくたちの投資がうまくいけば、日本には世界最先端の取り組みをやっている会社がたくさん成長する可能性もあるわけです。
青野:なるほどなぁ。不安はありませんか?
新井:ないですね。ある程度、時間はかかると思いますが。ゴールにたどり着くまで、スキルをうまく使い、常に改善し続けて、きれいごとをきれいごとだと言われないようにしたいです。
「雰囲気」がよくない会社には投資しない
青野:投資先はどうやって決めているんですか?
新井:実際に投資候補先の会社に足を運んで雰囲気を味わったり、人の出入りを見たり、社員に話を聞いたりするのは大事にしていますね。サイボウズさんに投資を決めるときもそうでしたよ。
青野:雰囲気の良し悪しってやっぱりあるんですか?
新井:あります。いろいろな会社を訪問しますが、会社によって雰囲気は全然違いますね。「なんだか空気感が悪いな」と感じる会社は、業績を含めてよくなった試しがありません。
雰囲気は数値化できるものではないですし、その会社へ行かなければわからない。だから必ず現場に足を運ぶんです。
青野:雰囲気は嘘をつかない、と。理にかなっていますね。
新井:何回か行くうちに、徐々にその会社の将来までもが見えてくるんです。小さい会社であればあるほど、人がひとり加わるだけで雰囲気がガラリと変わりますから、訪問頻度は高いです。一方で、大きい会社であればあるほど、あまり行かないですね。
青野:社員とはどんな話をしていますか?
新井:重要視しているのは精神面にかかわる話でしょうか。働くことへの価値観や会社に感じていること、会社への愛、情熱など、いろいろな角度から聞いています。
青野:確かに、仕事をするうえで、精神的な充実を得られているかどうかは、はずせないところですよね。
新井:ええ。ぼくたちが、会社の雰囲気だとか社員のマインドだとか、お金以外のものさしを大事にして投資先を決めるのには理由があります。
後編に続きます。
構成:池田園子/写真家:尾木 司
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本記事は、2016年10月5日のサイボウズ式掲載記事貯め込んだ数十億円の利益で、日本の働き方をよくしたい。僕は勝手にミッションを背負う──鎌倉投信 新井和宏 × 青野慶久より転載しました。