連合「なんでも労働相談ダイヤル」の現場より

1人で抱え込まないで相談してほしい。相談することで、問題を整理し、客観的に見ることができる。
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連合は、なんでも労働相談ダイヤルに取り組んでおり、昨年は約1万5000件の相談が寄せられた。月刊連合3月号で、NPO法人ほっとプラスの藤田孝典代表理事から「連合にどんな相談がきてどう解決したのか、そのことを発信し、労働組合の姿を『見える化』すべきだ」との提言を受けた。

しかし、具体的な解決事例については相談者のプライバシーに配慮し、これまであまり見える化してこなかった。今、どんな相談が寄せられ、どう解決しているのか。労働相談の現場で日々奮闘する、連合ユニオン東京の今野衛書記長を訪ねた。

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連合「なんでも労働相談ダイヤル」

1. 労働相談のトレンド

パワハラや長時間労働をめぐる相談が急増

連合なんでも労働相談ダイヤルは、全国どこからでも0120-154-052【いこうよ れんごうに】にかけると、最寄りの地方連合会の相談窓口につながる仕組み。まず、その集計結果を見ておこう。

2016年の1年間の相談件数は1万5113件。特に全国一斉キャンペーンを実施した2月、5月、12月は件数が多い。相談内容は、賃金関係16.3%、差別等14.5%、雇用関係13.5%、労働契約関係12.9%、労働時間関係11.6%、退職関係8.8%と続く。

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連合「なんでも労働相談ダイヤル」集計結果(2016年)

集計期間:2016年1月1日〜12月31日

集計対象:47地方連合会、連合本部

相談件数:1万5113件

これをどう見ればいいのか。今野書記長は「私が労働相談を担当するようになった20数年前は、賃金関係と解雇(雇用関係)、不利益変更(労働契約関係)の3つで相談内容のほぼ9割を占めていた。いずれも、法律などに照らして解決の見通しがつくケースだ。

ところが、この10年でその構図が大きく変わった。差別、労働時間関係、退職関係、つまりパワハラやマタハラ、長時間労働、高齢者雇用に関する相談が急増している。データは全国平均だが、特に東京などの大都市圏では、パワハラの相談が圧倒的に増えている」と指摘。そして、こうした相談内容の変化によって、対応も大きく変わってきているという。

これまで相談の大半を占めた賃金、解雇、不利益変更については、その解決のためのシステムがかなり整っている。例えば、賃金未払いなどの労働基準法違反のケースは、証拠を集めて労働基準監督署に申告すれば解決できる。解雇や不利益変更については、判例が積み重ねられており、弁護士の助力を得て解決が可能だ。労働相談の役割も、話を聞いて問題点を整理し、解決方法を提示すれば事足りた。

ところが、今増えているパワハラは、従来の解決システムでは対応しきれないケースがほとんどだ。それが指導的教育なのか、違法行為なのかの判断は非常に難しく、労使の交渉で解決するしかない。長時間労働も、根本的な解決のためには労使で職場全体の改善を進めていく必要がある。つまり「最近の傾向として、労働組合に加入して、あるいは労働組合を結成し、団体交渉を通じて問題解決をはかるという対応が非常に重要になってきている」と今野書記長は言う。

労働組合を結成するのは「女性」と「若者」

相談者のプロフィールをみると、性別割合は、男性52.2%、女性47.8%。年代別割合は、40代が31.2%と最も多く、50代22.7%、30代20.5%、20代13.0%の順。注目点は、「相談から労働組合を結成し団体交渉に入っていくのは、『女性』と『若者』のグループが非常に多いということだ。

『男性』と『中高年』のグループが労働組合結成に踏み切れないのとは対照的だ。既存組合では女性と若者の労働組合離れということが言われてきたが、労働組合のない労働現場では、女性と若者こそ、最も労働組合を必要としている実態がある」と今野書記長は言う。

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2. 労働相談の解決事例

連合なんでも労働相談の動向をもう一度整理しておくと、最近増えているのは、パワハラや長時間労働に関する相談であり、女性や若者からの相談。では、具体的にどんな相談があり、どう解決しているのか、見ていこう。

CASE 1 長時間労働×若者

IT企業のエンジニア (26歳)からの相談。入社以来、「最低残業時間は月60時間以上」と言われてきた。終業から残業時間に入る間に1時間の休憩時間が強制的に入れられているが、休憩に入れる雰囲気はなく、そのため休んでいる人は皆無で、この時間もサービス残業(+20時間/月)となっていた。

まさに違法企業だが、さらに残業申請を行う社内のシステムに不正プログラムが仕込まれていたことが発覚。残業代は、自動計算されるから間違いないと思われていたが、何かおかしいと感じた社員が解析すると、申請通りに残業代が支払われない仕組みになっていた。社員たちは、会社の不正に対する怒りだけでなく、常態化した超長時間労働を何とかしたいと連合なんでも相談ダイヤルにアクセス。相談者が同僚に声をかけて労働組合を結成し、団体交渉を通じて働き方の改善に取り組んでいる。

●対応の視点

最近、長時間過重労働による過労死が社会問題になっているが、若くて体力に自信があったとしても、月60時間を超える残業が続くと疲労困憊し、「自分はいったい何をやっているんだろ、こんな働き方おかしい」と今の働き方に疑問を持ち、相談にくるケースが増えている。

未払い残業代の請求だけが目的なら、労働基準監督署に申告すればいいが、相談のいちばんの目的は、「働き方を変えたい」ということ。となると、会社側と話し合って改善していくしかない。そのためには、同じ思いでいる仲間をできるだけたくさん集める必要があるが、これは若者の場合、けっして難しいことではない。新入社員十数人で労働組合を結成し、職場改善に取り組んでいるケースもある。

CASE 2 パワハラ×女性

外資系大手企業のマーケティング部長である48歳の女性から、最近配属された外国人上司に「無能だ」と言われ退職を迫られているとの相談。彼女は、米国の有名大学を卒業し、誰もが知る大企業のマーケティング担当として活躍してきたという経歴の持ち主。その会社からぜひにと請われて入ったのに、酷いパワハラで深刻な精神的ダメージを受けていた。

ユニオンに加入し、団体交渉で事実関係を明らかにすることから始めたが、なかなか話がかみ合わない。そこで証拠を集めて裁判に訴えることにした。弁護士と訴訟の準備をしていると、会社側もやっと問題を理解し和解を申し入れてきたので、和解を了承。彼女には和解から3カ月も経たないうちに、外資系アパレルメーカーからマーケティングの責任者として声がかかり、今は元気に働いている。

●対応の視点

話を聞いて、「それは完全にパワハラですよ。組合に入ればちゃんと交渉しますから」と言うと、泣き崩れる相談者は多い。パワハラにあって「無能」のレッテルを貼られても、絶望しないでほしい。1人で抱え込まないで相談してほしい。相談することで、問題を整理し、客観的に見ることができる。

CASE 3 ハラスメント×労働組合

外資系メーカーの日本支社で「自宅待機」を命じられた女性(43歳)からの相談。理由を聞くと「あなたには働く職場がない」の一点張りで、待機中は平均賃金の6割を支払うと言われた。彼女は納得できず、同僚の男性2人と一緒に相談に訪れた。

話を聞くと、自宅待機は退職に追い込むための嫌がらせである上に、100%賃金を支払わなければならないケース。職場には、他にもハラスメントがたくさん起きていて、自宅待機の問題を個別的に解決してもすぐにまた誰かが標的になる可能性が高い。

そこで、今回の自宅待機問題を職場全体の問題として考えて、労働組合を結成して職場を良くしていくほうがよいとアドバイス。3日後、相談者たちは労働組合をつくることを決めた。職場で声をかけると十数人の賛同者が集まり、すぐに団体交渉へ。自宅待機の期限を確認し、その100%の賃金保障を約束させた後、現在、具体的な職場改善について交渉を重ねている。

●対応の視点

外資系企業で問題になっているのは、ヘッドハンティングなどで経営を任された人たち。現場の仕事も日本の労働法や会社の仕組みも知らないのに、次のステップのために短期間で業績を伸ばしたいとの思いが強く、職場を混乱させるケースがあり、集団的に対応することが重要だ。

3. 労働相談対応のスタンスと今後の課題

未来をつくる労働組合

労働相談の解決には大きく3つの方法がある。1つは裁判所や労働審判などの紛争解決システム、2つめは労働基準監督署などの行政による指導・あっせん、3つめが労働組合による労使交渉だ。もちろん労働組合を結成して交渉しつつ、必要に応じて裁判や行政指導を使う場合もある。

従来の賃金未払いや解雇の相談では、弁護士を紹介したり、労基署への申告をアドバイスして終了するケースも少なくなかった。ただ、この方法では、過去の問題の清算しかできない。これから先の職場の労働環境を良くしたいのなら、労働組合しかない。過去の債権を交渉材料にしながら、自分たちの未来をつくる。それができるのは労働組合だけだ。

特に長時間労働の是正やパワハラは、基本的に労働組合として交渉していくしか解決方法はない。相談者にも、未払い残業代の請求を急ぐより、長い目で安心して働ける職場にするために、賃金・処遇制度を労使で整備していったほうがいいとアドバイスしている。

相談を受ける担い手の育成が急務

相談内容が変化し、労働組合でしか解決できない問題の相談が増えている。若者、女性を中心に労働組合を必要とする人たちが増えている。喫緊の課題は、相談を受けて労働組合結成、団体交渉を担える、若手人材の育成だ。

人材育成に求められるステップは、①労働相談にのれる(争点整理)、②団体交渉ができる(個別労使紛争)、③労働組合をつくることができる、④団体交渉ができる(集団的労使紛争)、⑤労働委員会の救済申し立てができる、⑥労使自治を構築できる(産別移行・労働協約締結)の6つ。これを体系的なプログラムで訓練し、具体的な実践を積んでもらう必要がある。

今こそ労働組合が必要とされている。特に女性や若者は、その必要性を理解すれば、一歩を踏み出す動きは速い。それに応えられる体制を早急に整備する必要がある。

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連合東京ユニオン書記長 今野 衛

連合ユニオン東京とは

組合員数約4000人、単位組合100組合、個人加盟110人。組合費は1人月額1000円。連合なんでも労働相談ダイヤルからの相談を受け、労働組合の結成や個人加入をサポートし、団体交渉を通じて問題の解決、職場環境の改善に取り組んでいる。

仕事での不安や悩みは、職場の労働組合に相談しましょう。職場に労働組合がない場合は、「連合 なんでも労働相談ダイヤル(0120-154-052〔フリーダイヤル〕)」にご相談ください。

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2017年6月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。