サイボウズ式:「30代半ばからは、家庭より仕事にのめり込んだほうが、ぶっちゃけ楽なんですよ」──田端信太郎×青野慶久

家族の対話は解決策を求めているわけじゃない
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サイボウズ式

「なんとなく空気を読んで残業してない?」

「会社と個人は対等な関係。その気構えを持たないとダメ」

「年収の差より、決裁権の大きさで比較すべし」

「仕事に何を求めているのか、改めてリストアップしてみる」

公開取材イベントとして開催された、スタートトゥデイ・田端さんとサイボウズ社長・青野の対談。第1回では、会社と個人のあるべき関係性について議論が深まりました。

実は、田端さんと青野には共通点があります。それは、どちらも3人の子どもを育てるイクメンということ。

第2回では「子育てより仕事のほうが楽。逃げているだけなんですよ」「塾に通わせるのは、親のエゴなのか?」など、田端さんの意外な"子育て論"も飛びだしました。

仕事と家庭、どうすればうまく両立させることができるのか。田端さんが著書『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言 』で主張する「正直者であれ」という言葉には、どういう意図が含まれているのか。正解のない問いについて考えます。

「仕事があるから」は逃げ口上

青野:田端さんは育児にも力を入れているんですよね? うちの社員から聞きましたよ。豊洲のショッピングモールで見た、と。

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田端:ららぽーとでベビーカー押していただけです。それくらいはやりますよ。でも僕が育児を語ると、嫁が激怒するかも(笑)。

以前、岡田斗司夫さん(オタク文化に精通するプロデューサー、評論家)が「30代半ばからは、家庭より仕事にのめり込むほうが現実逃避だ」と言っていて。なるほど、確かにそうだなと思います。

ちょっと語弊はあるけど、ぶっちゃけ仕事をしているほうが、よっぽど楽なんですよ。わかります?

青野:気持ちはわかります。

田端:会社の雇用関係より結婚のほうがはるかに重いし、親は子どもに対して無限責任を負っているので、やっぱり大変ですよ。

男は「仕事してるから」って言い訳をしがちだけど、そんなの子育てより仕事のほうが楽だから、逃げているだけ。弱虫の逃げ口上ですよ

青野:面白い考え方ですね。

田端:子どもは空気読まないし、こっちがどんだけがんばろうが泣くときは泣くし。ご飯をつくっているときに、食べたものを口から吐いたり、戻したり粗相をしたりするわけじゃないですか。

それに比べたら上司やお客さんのクレームなんて、ぬるいもんですよ

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田端信太郎(たばた・しんたろう)さん。1975年生まれ。NTTデータを経てリクルート、ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN Japan(現LINE)で活躍。今年2月末にLINEを退職し、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」やPB「ZOZO」を展開する株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室 室長に就任。7月には著書『ブランド人になれ! 会社の奴隷解放宣言』(幻冬舎)を上梓した。

家族の対話は解決策を求めているわけじゃない

青野:以前、NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんとサイボウズ式の企画で、奥さんとの対話に関する話をしました。

田端:夫婦間のコミュニケーションの問題ですよね。僕もすぐ「ベビーシッター呼べばいいじゃん」って言うけど、「いや、そういう問題じゃないから」と(笑)。

青野:夫婦って雇用関係じゃないし、どっちが上でもないから難しいですよね。そういう意味では、会社のほうが極めてシンプル。

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青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない」(PHP研究所)など。

青野:会社だったら「ベビーカーが発売されました。買いたいです」「はい、承認します」で済むので、すごく簡単なんです。

これが夫婦になると、空気の読み合いが発生してしまう。買うか買わないか、の合理的な話じゃないから、難易度が高いですよね。

田端:ソリューションを求めてないとよく聞きますよね。

奥さんに「週末に寝てばっかりいないで、少しは皿洗いくらい手伝ってよ」って言われたから、家を飛び出して家電量販店へ行って、食器洗い機を買ってきたら、「違う!」と言われた話とか。

青野:ははは(笑)。

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田端:これは男女のすれ違いを描いている、極めてよくある話で。「俺は洗いたくない。だから機械を買ってきた」というのは、ソリューションですよね。

青野:なるほど、確かに(笑)。

アンコントロールなものと向き合おう

田端:家族って目的がないんですよ。KPIも定義できないし、マネジメントも不可能だし。

青野:確かにそうですね。

田端:子どもの成績が上がったから順調だとか、そのほうがよっぽど表面的な理解。そういうアンコントロールなもの、なにが成功かとかよくわからないもの、と向き合っていることを受け入れる必要があリますよね。

どんなに一所懸命になって子育てしたって、事故で死ぬ可能性もあるし、難病で生まれてくる子どももいる。

誰が悪いわけでもない。世の中って理不尽なものなんだな、ってことが身に染みてわかりますよ。

青野:田端さんは、お子さんの成績とか気にされるんですか?

田端:この前、小学3年生の子どもが初めて四谷大塚の全国統一テストを受けました。その結果、偏差値40だったんです。

うーん、どうでもいいやと思いながらも、やっぱり気になる。でも偏差値が高かったら良いということでもないでしょう?

青野:そうですね。

田端:そこで考えるわけですよ。「塾に行かせたほうがいいのか?」「でも何のために行かせるんだ?」「親の自己満足じゃないのか」と。

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青野:それは「答えのない問い」ですね。

田端:そう。東大を卒業して、丸紅や三菱商事に入ってくれれば親として安泰かと言われると、そんな甘いもんでもないですよ。子どもの教育って、どうなったら成功なのか、親が勝手に定義できない

いま成功していても後になって転落するかもしれないし、カーネル・サンダースみたいに60歳過ぎてから大成功するかもしれない。

青野:親が死んだ後、子どもがどうなるかはわからないですからね。

3人目が生まれてマンツーマンディフェンスを越えた

田端:とにかく僕が思うのは、会社の愚痴と同じで、「子どもがいるせいで自分のやりたいことができない」っていうのは、とってもダサいと思うんです。「本当は嫌だったけど、親の商売を継がされた」とかも。

青野:言い訳をし始めると幸せにはなれないですよね。ツラい状況からいっとき逃げられるだけ。

置かれた状況で何ができるかを考える瞬間のほうが、はるかに幸せです。

田端:他人のせいにするのは、人生において一番不幸ですよ。子どもも、妻も、最も近い他人です。

青野:そういう僕も、1人目が生まれたときは言い訳のかたまりでした。

なんとかして、妻に育児を押し付けようとしていた。仕事を理由にして遅く帰ろうかな、とか。

田端:そうだったんですか。

青野:でも2人目、3人目が生まれて、「ああ、これは逃げられない。だったら楽しんだほうが得だな」と思うようになりましたね。

田端:「完璧な子育て」なんてありえないですからね。

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青野:田端さんも、お子さんが3人いらっしゃるんですよね? 大変ですか?

田端:3人目が生まれて、マンツーマンディフェンスを越えたな、と(笑)。

青野:相手が3人いますからね(笑)。

田端:だからもう適当でいいやと。それぐらいのほうが子どもも気楽でいいんじゃないかと思っていて。

青野:子ども側もマンツーマンディフェンスされるより、気楽かもしれませんね。

腹を決めて言い訳せず、今を楽しむ姿勢のほうが、幸福感を得られる気がします。

Twitterの顔出し&実名は最高のリスクヘッジ

青野:田端さんの本に「正直者であれ」という言葉が出て来ますよね。私もよく「アホはいいけど、ウソはだめ」と社員に言っています。

田端:糸井重里さんが「正直でいることが最高の戦略だ」と言っているのは、本当にその通りだな、と。

僕が言う「正直者であれ」っていうのは、道徳とかモラルではなく、正直な方が得だという話なんです。

青野:なるほど。

田端:間違えることもないし、ウソの矛盾を考える必要もないし、八方美人を使いわけてボロが出ることもない。

どうしてみんな正直に言わないんだろう、といつも思っているんです。

青野:「寝坊しました」って言ったら叱責されるかもしれない。だから「お腹が痛いことにしておこうかな」と。この小さな逃げが、大きなコストになってしまうんですよね。

田端さんはTwitterでも自分の意見をストレートに発信していますよね。

田端:はい。よくリスクが高いと言われるんですが、Twitterの顔出し・実名は、僕にとって最大の保険なんです。リスクじゃなくてリスクヘッジ

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田端:これ、いつも伝わらない気がしているんですが。

青野:田端さんがいろいろ批判を受けるような発言をしているにもかかわらず、支援者が確実に増え続けているのは、やっぱり実名で正直に出しているからだと思いますね。

「ここは妥協します」とはっきり言えればそれも正直者

田端:よくTwitterやFacebookで、「○○さんが本を出しました。大変勉強になる内容です」って書いている人がいますけど、本当にそう思ってるのかあやしいことありません? 社交辞令ってすぐわかりますよね。

青野:知り合いや関係者から送られてくる本に対して、「とりあえず褒めておこう」というやつですね。

田端:僕は知人の本をけなすことはしません。でもパラっとめくって、面白くなかったら読まない。逆に面白かったら、ちゃんと読んで褒める。

それって最低限のマナーですよね。

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青野:まさに正直者ですね。

田端:「この本の著者は取引先の偉いおじさんだから、読んでもないけど、表面的に薄くTwitterでホメておこうか」という気持ちは、読み手には絶対に伝わってしまうんですよ。

「この人、自分の社会的生活、世間体のためにオーディエンスを犠牲にしているな」って。

青野:「うわべだけの社交辞令を言うやつだな」という認識になってしまいますからね。難しいのは、集団の意見と所属している個人の意見は違うということ。

例えば、経団連からの政策提言は全体の意見だから、個人の考えとはちょっと違う形になったりする。100%僕の思っている形では出ない。

自分も団体の一部だから、ウソをついている感覚になってしまっても、「それ、思ってないから」と言いにくくなっちゃうんですよね。

田端:なるほど。

青野:僕は集団でまとまった風に見せるのが嫌で。自分の意見を言いたいし、聞いてほしいんです。

田端:自分の言いたいことの純度と、持たせてもらっているメガホンで増幅される範囲の掛け算で決まる、面積最大化問題みたいなところですよね。

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田端:もし最低限通したい筋があれば「これだけ通ればいい、他は目をつぶる」っていう妥協もあるし。

青野:そうですね、確かに。

田端:妥協していることが不正直だとは思わなくて。

「この瞬間、僕はこれを最優先して、他のことには目をつぶりました」と言えればOKだと思う。

青野:「ここは妥協します」とはっきり言えれば、それも正直者ですもんね。

(第3回へつづく)

文:村中貴士/編集:松尾奈々絵(ノオト)/撮影:栃久保誠/企画:小原弓佳

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」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年8月14日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。