サイボウズ式:社員に求めるのは「会社に◯時間いるか」よりも「Twitterのフォロワー数」──コルク佐渡島庸平さんに聞く、会社に依存せずに生きる自立心の作り方

「仕事=あなたにぜひやってほしい、と舞い込んでくる楽しいもの」になれば、仕事がいわゆる「仕事」ではなくなるのかもしれません。

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「仕事=会社から与えられ、気分がのらなくても取り組まなくてはならないもの」──。そうではなく、「仕事=あなたにぜひやってほしい、と舞い込んでくる楽しいもの」になれば、仕事がいわゆる「仕事」ではなくなるのかもしれません。

会社とそこに関する個人が「雇用している・されている」といった上下関係ではなく、よりよい関係を結んでいくにはどうしたらいいのでしょうか?

「自分をメディア化し、ブランド化することは、自分の人生を自分の手もとに取り戻す行為だ」(コルクラボHPより引用)。漫画家・小説家・エンジニアなどクリエイターのエージェント業をおこなう株式会社コルクが、自社サイトで興味深い意見を展開しています。

自分の人生を取り戻すために「自分自身のメディア化、ブランド化」を唱えるコルク代表の佐渡島庸平さんに、サイボウズ式編集部の藤村と明石が話を伺いました。

Twitterという自分メディアで、会社に依存しない生き方を手に入れてほしい

藤村:さっそく、個人と会社の関係について佐渡島さんに取材させていただきます。よろしくお願いします。

佐渡島:最初に、ぼくから1つ質問させてください。

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藤村・明石:えっ......。

佐渡島:たとえば、会社でダラダラ過ごした後、みんなで夜飲みにいって、それだけで終わった1日があるとします。

明石さんだったら「ラッキーな1日だったな」って思いますか?

明石:うーん......。1日を無駄にしてしまった気がして、ラッキーとは思わないです。

佐渡島:会社に寄りかかって生きている人なら、そうやって働かずにすむ時間を過ごせると、会社から"自分の時間"を取り戻した感があって、「遊べてラッキーだったな」くらいに思うかもしれないですよね。生産的じゃないですけど。

明石:たしかに「会社に時間を奪われている」と思いながら働いている人は、そう思うのかもしれません。

佐渡島:会社は社員から時間を提供してもらっている──経営陣はその発想を忘れちゃいけないし、社員から時間を奪うようじゃダメだと思うんです。

歴史を振り返ってみると、これまでは労働時間の長さが評価されてきた時代でした。

でも、単純作業のみならず、知的作業すらも人力から機械へ置き換わりつつある今、高い価値をもつようになっているのは「アイデア」です。Aさんの1ヶ月かけて考えた質の低いアイデアと、Bさんの10分で考えた質の高いアイデアがあるとしましょう。どちらが評価されるでしょうか?

明石:Bさんの、質が高いアイデアです。

佐渡島:そう。つまり、かけた時間(労働時間)は関係ない。だから、時代を切りひらいていく会社は、社員に「毎日◯時間労働してね」みたいなことは、求めていないと思います。それよりもシンプルに「成果を出してね」と。

明石:労働時間で判断されるほうが楽だと感じる人もいそうですね。

佐渡島:成果をあげなくても、会社にいさえすれば「仕事をしている」と認められるわけですからね。でも、労働時間が評価基準ではなくなると、結果を出さない限り、認められなくなります。

そうなると自立心のない人は、成長できなくなるんじゃないか、とぼくは考えていて。

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株式会社コルク 代表取締役社長 佐渡島庸平(さどしま・ようへい)さん。2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、クリエイターのエージェント会社、コルクを設立。現在、漫画作品では『オチビサン』『鼻下長紳士回顧録』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『テンプリズム』(曽田正人)、『インベスターZ』(三田紀房)、『昼間のパパは光ってる』(羽賀翔一)、小説作品では『マチネの終わりに』(平野啓一郎)の編集に携わっている。twitter@sadycork

明石:結果を出すために努力できるかどうか。1人ひとりの自立心の有無や度合いで、ずいぶん差が開いてしまいそうです。

佐渡島:うちの社員には自立心を備えてほしい、と会社として願っています。だから、いろいろなところで、「コルクではTwitterを重要視している」と話してきました。

Twitterという自分のメディアを活用しながら、会社に頼らない生き方や地位を身につけてほしいんです。

明石:サイボウズでも自立心はとても大事にしています。人生を自分で選択しながら生きていくためにも「企業に頼りきらず個人でも生きていける力」が必要だと。

佐渡島:そうですよね。そのうえでアウトプットを出してくれると最高じゃないですか。

社員が自立すればするほど、経営側も彼らが楽しめるような目標を、次から次へと用意していく必要があり、双方の間でよい緊張感が生まれるんです。そう考えるとTwitterは、コルクにおいて"羅針盤"のようなものかもしれません。

他者は仲間だと信頼し、自分からさらけだすと、幸せな方向へ向かっていく

藤村:社員の自立心を育てるために、Twitterを活用されているんですね。

そういえば、某媒体で「社員評価ポイントはTwitterのフォロワー数のみ」とおっしゃっていました。

佐渡島:フォロワー数がすごく多いと、いつか転職するときも楽でしょう? フォロワーはいわば共感者。その人に共感する人の数は、その人の価値を図るひとつのものさしにもなります。

藤村:同感です。でも、どうしてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の中でも、Twitterなんでしょうか。

佐渡島:履歴書やFacebookの経歴とは違って、ツイートは"盛れない"から。どんな仕事にどれくらいかかわって、どんな実績を出したか──Twitterって限りなく真実に近いことしか、投稿できないメディアなんじゃないかと思っています。盛っていたら周辺(社内)からもツッコミがくるでしょうし。

藤村:たしかに、Facebookだと知り合いが中心のため、「いいね!」というポジティブなコメントしかこないかもしれません。

ちなみに、社員の方にはTwitterの具体的な活用法について、どう伝えていますか?

佐渡島:コルクで働いていることを生かし、自分が今コルクでどんな仕事をしているのか、noteやブログに記事を書いて拡散して、とにかく自分から発信しようと伝えています。ツイートを見てくれた人が、コルクの社員という肩書を超えて、「一個人としておもしろい人だな」と感じてくれると、「あなたと仕事がしたいです!」と連絡をくれるかもしれない。

Twitterってタイムラインを眺めるだけで、いろいろなことがわかるんですよ。「この人は約束の時間に来る人だな」とか(笑)。

藤村:そこまで見えちゃうんですね(笑)。

そういえば、明石さんは最近Twitterを始めたんですよね。

明石:そうなんです。以前から登録だけはしていたのですが、ほとんどつぶやいていなくて。2ヶ月前にようやく本格的に始めたものの......何をつぶやけばよいかわからずにいます。

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編集部の明石(@akyska)が自身のTwitter活用相談を始める

佐渡島:自分がどういう人生を生きる主人公なのか、まず考えてみましょうか。明石さんにとって今現在、サイボウズという会社は頭の何割くらいを占めていますか?

明石:うーん......。7〜8割くらいですね。

佐渡島:会社や仕事が、自分の人生と一体化している感じですね。

明石:いい意味でオン・オフの境界線がないんです。まだ入社2年目の新人ですし、当面は仕事を一生懸命やりたい、と思っています。

佐渡島:それならプロフィールは「サイボウズで働く社会人2年目。人生をかけて打ち込むものを探しています」みたいに書いて、会社のロゴ前に立った笑顔の写真を使うのはどうでしょうか。履歴書だとキャラは伝わってこないけど、こうやって考えて設定したTwitterのプロフィールなら、その人が何者なのかパッと伝わりますよね。

明石:ひと目でわかる気がします。

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佐渡島:ツイートに関しては、たとえば「サイボウズの社風や雰囲気は◯◯な感じ......だから仕事にのめり込むようになった」みたいに、仕事をおもしろいと感じるきっかけになった社内のしくみや制度を紹介してみると、たくさんリツイートされる可能性はあるでしょうね。

でも、歳を重ねていくにつれて、体調面で気になることが出てきたり、結婚や出産を意識したりするようになるかもしれません。そんなときは「私、仕事に打ち込むためだけに生きてるんだったっけ......?」みたいに、悩みを率直にさらけだしてみると、共感も増えていく。

明石:なるほど......!

藤村:ただ、さらけだすことでリスクはありませんか?

佐渡島:「他人にさらけだされる」のとは違い、「自分からさらけだす」のにはリスクはないと思うんです。何をどうさらけだしていくか、自分で範囲を決められますし、正しくさらけだす結果、幸せな方向に進んでいくんじゃないか、と思っていて。

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藤村:正しくさらけだす?

佐渡島:アドラー心理学で興味深いことが言われているんですよ。「他者は、仲間である」と認識するのが大事だと。人は他者に対し、基本的には悪意を持っていないし、こちらが悪意を持たなければ、仲間になれる可能性がある、というんですね。

このとき前提にあるのは「自分が変わらなければ相手も変わらない」という考え方。「相手は自分の仲間なんだ」と信頼して、自らを変えていくのが、自分からさらけだす行為です。ぼく自身、そういったスタンスでSNSを使っていますね。

起業するのは簡単だけど、リーダーになる覚悟をもつのは難しい

明石:その前提を聞いて腑に落ちました! ここからは、仲間やチームの話を伺っていきたく。

佐渡島:仲間やチームについて語るとき、よく出てくる言葉に「One for all, All for one」ってありますよね。最近までずっと「1人はみんなのために、みんなは1人のために」って意味だと思っていたんです。

明石:え、違うんですか?

佐渡島:はい。正しくは「1人はみんなのために、みんなはひとつの目標のために進む」だそう。

明石:知らなかった......!

佐渡島:話を戻すと、コルクでは「『クリエイターが生み出した作品を、世界に届け、後世に残す』ために、必要不可欠な会社になる」という目標を掲げています。言い方を変えると、クリエイターが創作活動だけで食べていけるビジネスモデル、世界を作るということ。

その目標を実現するために、社員全員に貢献してほしいし、貢献するうちに売り上げも自然とついてきて、持続可能なビジネスモデルができている──コルクのメンバーは全員、同じ"船"に乗っているわけですから、この理想的な状態に向かって船が快適に走行できるよう、力を出してほしい。

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藤村:"船員"たちのリーダーとしてメンバーを見て、感じることはありますか?

佐渡島:同じ船に乗る人間だからといって、必ずしもリーダーのビジョンを真に理解しているとは限らない、ということですね。とはいえ、編集者を10年、経営者を4年やっている人間が示すビジョンを、社会人になって間もない若い人が理解するって、相当難しいだろうなとわかってはいるんですけどね(笑)。

佐渡島:あの頃は、自分がリーダーとしてふるまうことを、心のどこかで恐れていました。ぼく自身も変わらずにいましたし。変化が起きたのは10月。取締役CTOの萬田大作が、正式にジョインしてくれてからです。

萬田は「佐渡島さんのビジョンをいっしょに叶えたい」と言って、ぼくのビジョンを実現するために入社してくれた人。彼がぼくをリーダーとして扱ってくれたおかげで、リーダーとしてふるまうきっかけをもらえましたし、リーダーとしてのふるまいに躊躇(ちゅうちょ)する気持ちもなくなりました。

藤村:自分から変わる勇気を持てたんですね。

佐渡島:出版社を退職して、コルクを起業して社長になる──ここまでは自分1人で完結することだから、決して難しくないんです。でも、チームを率いるリーダーになる覚悟をもつ、という状況は、萬田がいなければ無理だったと思います。

藤村:リーダーというと、マネジメントもリーダーシップも両方兼ね備えなければならないイメージがありますが、どうお考えですか?

佐渡島:ある方から「マネジメントとリーダーシップは別物」と言われたことがあります。簡単にいうと、マネジメントはやりくりすることで、リーダーシップはより明確なビジョンを示すこと。

うちだと、マネジメントは萬田に任せて、ぼくはリーダーシップを磨かなければ、と考えています。先ほどの話に戻りますが、クリエイターが生み出した作品を、世界に届け、後世に残すために、社員に対し「まずはTwitterを......」と指針を示すわけです。

Twitterに注力することが、本当にクリエイターのためになるのか、自分の能力が高まるのか、若干迷いを感じている社員がいたとしても、より鋭く明確なビジョンを掲げ、全員に邁進してもらう必要があります。

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藤村:迷いを感じる、というのは確固たる正解がないからでしょうか。

佐渡島:そう。たとえば、営業職だとこうすればうまくいく、みたいな正解がありますよね。でも、「Twitterに力を入れたら、将来的にクリエイターのためになる」という前例はまだない。ほかの誰もそんなことを言っていないし、やっていないから。

ぼくの言っていることが、正解なのか不正解なのか結論づけるまでには、もう少し時間がかかるんですよね。極端な言い方をすると、ぼくたちは真っ暗闇の中を進んでいるようなもの。だから、ぼくがサーチライト的な役目を果たしながら、みんなを引っ張っていかなくちゃいけない。

社員には「2年はついてきて」と伝えています。SNSそのものを完ぺきに理解するには、2年はかかるだろうと思っているので。現在のやり方でうまくいかないところがあれば、3ヶ月ごとに変更を加えていくつもりです。

会社と個人の関係がゆるやかに、自由になっていく未来

藤村:最後に1つ、お聞きしたいことが。会社と個人の関係性は、今後どうなっていくとお考えですか?

佐渡島:雇用している/されているといった上下関係のようなものではなく、どんどんゆるやかになり、アライアンス(提携、同盟などの意)的なものになっていくんじゃないでしょうか。

先ほどのアドラー心理学の話と同じく、リーダーが関係者をむやみに"拘束"するのではなく、心から信頼し「(副業など含めて)自由にして構わない。でも、会社の仕事には全力で取り組んでね」というスタンスで、みんなが楽しめる目標を示し続けるのが、互いにとってよい関係性を生み出すと思います。

藤村:会社と個人の関係性が変わっていく中で、会社のルールのあり方も変化しそうですね。今のコルクではルールや規則を設けていますか?

佐渡島:ほとんどないですね。社員が増えるにつれて「自分で意思決定する負担をかけたくないから、ルールを置いてほしい」と要望が出てくるかもしれませんが。でも、ルールがあると"やらされている感"が出てしまうため、できるだけなくしたいと考えています。

藤村:たしかに、ルールは自立心を阻害してしまいそうです。

佐渡島:堀江貴文さんが主宰する会員制コミュニケーションラウンジ「堀江貴文イノベーション大学校」を見ていると、すごくいいなと思うんです。超優秀な人たちが仕事を終えた後、自主的に集まって、本気で遊んでいるんですよ。

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藤村:優秀な人たちが本気で遊ぶ......。すごいコミュニティですね。

佐渡島:本気の人間だけを集めて遊び続けるほうが、給料を払って働いてもらうよりも、組織として強くなったり、良質なアウトプットを生み出せたりするんじゃないか、と見ているんです。作品を創るのも、完成した作品を広げるのも、すべてが本気の遊びという感覚。社員は0人で、ボランティアだけでコンテンツを作れないか、とも考えています。

藤村:こうした取り組みで、しっかり収益を出せるようになると、やはり会社と個人の関係性は変わっていきそうです。

佐渡島:収益が出るようになれば、儲けを別の作品創作に充てるなど、遊びの報酬が遊びになって、プロジェクトがどんどん拡大していく。最初は1〜2時間/日の遊びだったのが、24時間/日遊びにしたい、という人が出てくるかもしれない。

そうなると、その人をコミュニティプロデューサーにして、給料を払って......というように、最初からルールを設けるのではなく、臨機応変に回していくほうがおもしろいと思います。

藤村:すごくワクワクします。コミュニティプロデューサーを育成する実践型コミュニティ「コルクラボ」でも、そういった取り組みをおこなっていくんですよね。

佐渡島:Facebookグループを活用した既存のコミュニティ(オンラインサロンなど)とは異なる、コミュニティの濃度を濃くするUI/UXを独自開発したので、いろいろと試しながら運営を続けていくうちに、これまでにないコミュニティプロデュースの知見が蓄積していくはずです。そこで得た知見を、作家と作品創りをしていく場で、応用していきたいと思っています。

藤村:仕事が"本気の遊び"になり、企業と個人の関係性はゆるやかなアライアンス的なものになっていく。労働時間や働き方にとらわれない、「成果」を出すための仕組みがこれから必要になっていくのかもしれません。

今日はありがとうございました。

聞き手:藤村能光・明石悠佳/構成:池田園子/写真:橋本美花

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本記事は、2017年1月26日のサイボウズ式掲載記事 社員に求めるのは「会社に◯時間いるか」よりも「Twitterのフォロワー数」──コルク佐渡島庸平さんに聞く、会社に依存せずに生きる自立心の作り方 より転載しました。