こんにちは。キャリアカウンセラーの小橋友美です。
先日、キャリアについて悩むママと話をしていました。そのとき口にされていたのが、
「もっと好きな仕事なら辛くないんだろうけど」
という言葉です。
わかります! 私も何度も思ったことがあります。
「好きなことを仕事にしたい」
特に仕事に不満があるとき、誰でも思うことではないでしょうか。
今回は、「好きなことを仕事にする」について考えてみたいと思います。
好きなことを見つけて仕事にするべき?
私は今、自分と同じように小さな子どもを育てているママの話を聞くことが多いのですが、女性の20代後半から40代前半ぐらいの期間は本当に不安と迷いが多いと感じます。
仕事をしていれば活躍の場が広がる時期ですが、ただがむしゃらに働くことに限界を感じる頃でもあり、これからどう働けばいいのかわからなくなったという話もよく聞きます。
子どもがいれば、キャリアと子育てのバランスを模索し、「これでいいのか」と迷うことの連続です。かと言って仕事を辞めればすべてがうまくいくというわけでもなく、社会とのつながりが薄くなって自分の存在意義を見出せないという悩みを抱えることもあります。
ふと周りを見渡すといろいろなライフスタイルの女性がいて、こんな生き方もあるのかと羨ましいような焦るような気持ちになることも増える頃だと思います。
どんな生き方をしていても自分にとってちょうどいいバランスがわからず、つい人と比べてしまうのですよね。
そうしたいろんな不安や迷いが混ざり合って
「子どもを預けてまでやる仕事なのか」「もっと自分に合う仕事があるんじゃないか」
と考えてしまうことも一度や二度ではないですよね。
そんなときに、「好きなことを仕事にしよう!」と仕事を楽しんでいる人たちの姿を見ると、心がざわざわするのは当然のことです。
好きな仕事をして、やりがいを感じて、自分らしい人生を生きたい。
これは男女問わず、誰だって思うことだと思います。
私もこの仕事を始める前は、仕事がうまくいかないと
「好きなことを仕事にすれば、もっと成果も出せてやりがいもあるんじゃないか」
と思っていました。
でも次の瞬間、自分にはそこまで好きなことがない、という現実に気付くのです。
いつもどこかで
「仕事にできるような好きなことを見つけたい」
と思う自分がいました。
やはり、私たちは好きなことを見つけて、仕事にするべきなのでしょうか?
好きなこと自体が働くことを楽しくしてくれるのではない
「好きなことを仕事にする」の具体的なイメージは人によって違います。
好きなモノを扱う仕事や趣味を仕事にすること、憧れの仕事など、いろいろなのですよね。
海の近くで働くとか勤務時間を選べるとか、好きな条件で働くというイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。
だから、「好きなことを仕事にするべきかどうか」という議論自体が成り立たないと言えます。
ただひとつ、好きなことを仕事にしている人の共通点は、
「仕事が好き」
ということです。
言葉遊びのようですが、「仕事が好き」と思えるには、単純に好きな何かが見つかればいいというものではないことは、働いた経験がある人なら分かると思います。
好きなこと自体が仕事を楽しくしてくれるわけではありません。
あなたがこれまで「今の仕事、好きだな」と感じたのは、どんなときでしたか?
強みや自分らしさを発揮してうまくいった瞬間ではなかったでしょうか。
反対に好きだと思って始めた仕事でも嫌になることはあったと思います。
仕事そのものより、仕事の仕方に「好き」は隠れています。
仕事が辛いとき、もっと好きな仕事だったらと思うのは誰でも同じだと思います。
でも、「好きな仕事」よりも、「仕事を好きになれる仕方」を見つける方が、楽しく働ける近道です。
「仕事が好き」と思える仕事の仕方が誰にでもあります。
仕事の動機―内なる心のエンジン―を知る
「仕事が好き」と思える仕事の仕方について、キャリア論が専門の高橋俊介教授(慶應義塾大学)は、動機という概念を使って次のように説明しています。
「仕事における動機」を活かせる仕事の仕方を人は自分らしいと感じ、仕事が好きと思える基本になる
この「仕事における動機」は内なる心のエンジンとして、自覚していなくても自然に力を発揮させる原動力になります。
動機の分け方はいくつもあるのですが、高橋先生はご自身の調査をもとに3つのタイプを紹介しています。
- コミットメント系の動機:自ら決めた目標に強くコミットメントしたいという動機(例:達成動機、影響欲、賞賛欲、闘争心)
- リレーションシップ系の動機:他人とのつながりや影響を重視したいという動機(例:社交性、理解欲、伝達欲、感謝欲)
- エンゲージメント系の動機:あることに自然とのめりこんでしまうという動機(例:抽象概念指向、徹底性、自己管理欲)
動機はひとつとは限らず、多くの人が複数の動機を持っています。それぞれが同じグループに偏っていたり複数のグループにあったりとさまざまです。
動機に優劣はなく、大切なのはどう活かすかです。
例えば、達成動機が強くて徹底性が強い人は毎日コツコツ努力して成果を上げることが得意でしょうし、社交性が高く理解欲が強い人は相手の懐に飛び込むような営業が自然にできるでしょう。
動機、つまり心のエンジンに突き動かされて仕事をしているときは、ストレスも少なく自然と頑張れてしまうのです。結果的に成果も上がります。
ですから仕事が辛いときには、自分の動機を活かせていないのかなと考えてみるのもいいかもしれません。
仕事そのものよりも仕事の仕方が合っていないのかもしれませんね。
仕事の仕方はOJTで先輩のやり方を真似ることが多いと思いますが、それはその先輩の動機に基づいたやり方であって、自分に合うかどうかはわからないものです。
この仕事は合わないと決めつける前に、少しずつ自分の動機を活かせるように仕事を進めてみると楽しくなってくるかもしれません。
動機のタイプを知るには他にも専門的なテストなどがありますが、今すぐできる方法として以前このコラムで紹介した「ライフラインチャート」もあります。これは自分のこれまでを振り返って強みや価値観から動機を知るという方法です。
これまで自然とうまくできたことやわくわくしたことは、自分の動機を活かせた瞬間です。
「一番好きなこと」を探すよりも大切なこと
誰にでも仕事の動機は複数あります。大切なのは「一番」を見つけようとしないことです。
「一番好きなこと」「一番得意なこと」と一番にこだわっていると、ずっと探し続ける人生になってしまいます。
仕事が一気に楽しくなるほど一番〇〇なことを見つけたい、と願う気持ちはみんな持っていると思いますが、そう簡単に見つかるものではないようです。
それより大切なのは、いくつもの好きなことや得意なことを掛け合わせて、自分らしい仕事の仕方を試行錯誤していくこと、そして独自の付加価値が出せないか努力していくことです。
どんなに小さくても、好きなことや得意なことを今の仕事のプロセスに活かせないか試すことに意味があるのですよね。
その積み重ねでうまく成果が出て、周囲に認められ、動機を自覚してさらにいい仕事ができる...... というサイクルを自分で回す方が仕事を好きになる近道です。
この、いくつもの好きなことや得意なことを掛け合わせて独自の付加価値を生み出す、という柔軟な思考は時代が求める能力にもなってきています。
最近は社員に副業を認めたり社外との交流を勧めたりして新しいビジネスチャンスを見つけようとする会社もありますが、趣味やボランティア、子育てや介護など仕事以外の経験を通じて得られる知見もまた、貴重なものではないでしょうか。
生活領域では仕事と異なる価値観や気付かなかったニーズを知ることの連続です。
これまで見過ごしていた自分の興味や能力に気付くこともたくさんあると思います。
さらには変化が早く業界の垣根が低くなりつつある最近のビジネス環境では、仕事には役立たないと思っていたスキルが意外な形で自分の価値を高めてくれることもあるかもしれません。
仕事がうまくいかないとつい視野も狭くなってしまうものですが、普段の生活の中で身に着けた力が仕事を好きにさせてくれるかもしれませんね。
高橋先生の「好きな仕事の仕方を知っておく」という指摘は、私にとっては仕事の本質を見直すきっかけになりました。
今やっているキャリア支援の仕事は、会社員時代にたまたま担当することになり、環境に恵まれ自分らしい仕方で進められた仕事でした。だから好きになれたのだと思います。
仕事とは日々やることの積み重ねなのですよね。
仕事が辛いと感じているとき、私はその積み重ねをおろそかにして見直そうともしませんでした。
そしてどこかにもっといい仕事があるはずと思っていました。
でも本当は、どんな仕事に向かうときも「好きなことや得意なこと」を掛け合わせて仕事の仕方に活かせないか工夫したり、自分だけの付加価値を生み出せないかチャレンジしたりすることの方が、ずっと楽しくて自分を助けてくれる方法だということを知りました。
「好きな仕事に巡り合えない」「やりたい仕事がない」という言葉をよく聞きます。
仕事にするほど大好きなことが誰にでも見つかればいいのですが、なかなかそうはいかないのですよね。
そんなときは、一番好きなことを探し続けるより、まずは今自分が持っているあらゆる領域の好きなことや得意なことで仕事の仕方を自分らしく変えてみませんか。
これを習慣にしていると仕事への受容度が高くなり、仕事を変えることになったときにも選択肢が広がります。
大事なことは、好きなことを見つけること以上に、好きな人生を歩むことですよね。
自分らしいキャリアのために、私もチャレンジしたいと思います。
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キャリアカウンセラー小橋の「越えていこうよ、ワーママもやもや期」
小橋友美
米国CCE, Inc認定
GCDF-Japan
キャリアカウンセラー
1979年香川県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、信託銀行に10年勤務。
病気と結婚を機に退職し、キャリアカウンセラーとして活動を始める。
採用実務経験を活かした若年層向けの就職支援を行う一方で、ワーママ、プレワーママが抱える「働くことへの悩み」を共に解決したいと考え、
仕事も生活も楽しむためのキャリア支援活動を行っている。
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ワーママを、楽しく。LAXIC
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