フォーブス ジャパンで掲載された「米国の女性エリートが「家事代行」を使わない2つの理由」という記事が頭から離れない。
事業開発コンサルタントの秋山ゆかり氏は、米国中西部にいるハイキャリアで子供を持つ友人たちが家事代行サービスを使用しなくなったことを指摘し、エリートたちが、忙しいのに自分たちで家事をする理由を記事で説明している。
私は、この記事を読んで、驚いた。驚いたというよりは、憤った、の方が正しい。
なぜなら、この記事は「女性がエリートになり、成功するためには、家事も全て自分でやらなければいけない」と釘を刺しているように思えるからだ。
そんな風に自分を追い込まないために、この記事で書いてある「家事代行を使わない2つの理由」に対して、少し反論してみよう。
1つ目の理由:家事をアウトソースすると、子供の自立する力が育ちにくい
2つ目の理由:移民や若者、中流層以下を安く使うことはエシカル(=道徳的、倫理的)でない
1つ目の理由に対しては、子供に「自立する」ことを教えるのであれば、「人に頼る」ことも同時に教えることが大切なのではないだろうか。性別関係なく、人は一人では生きていけないのだから。
そもそも家事のアウトソースは、自立しない子になるのだろうか。それなら、アウトソースしている家事を一緒に手伝わせることもできそうだ。もちろん自分でできることは自分でやる必要があるかもしれないが、人に頼ることを知らなければ、自分ができることも限られてくる。
2つ目の「エシカル」という理由に対しては、もはや意味がわからない。
安く使っていることがエシカルでないのであれば、なぜ払えるだけの高い対価を払わないのだろう。これは、高い収入を稼ぎ、忙しくて時間のない女性なら実現できるはずだ。家事代行を「安く」使うという概念から「高く」使うという概念に変えればいい。エシカルに家事を代行することは不可能な話ではない。
エリート女性でも、家事をアウトソースしている人はたくさんいるし、家事をアウトソースしても、キャリア・育児はうまくいく。
これらの理由以外に最も違和感を覚えたのは、記事の中に、パートナーである男性が出てこないこと。「家事=女性の仕事」という前提のもとで、話が進んでいるのだ。
21世紀になった今、「家事をするのは女性」という考え方は古すぎる。残念ながら、ISSPの2012年の調査によると、男性の家事率は18.3%と、33ヶ国の中で最低だった。日本はまだまだ「家事=女性の仕事」の当たり前が成り立っている国なのだ。
男性が家事・育児に参加すると、子供に良い影響を与えることは、既に研究調査でわかっている。そこで、まずは男性が家事に参加することの重要性を示そう。
2000年の家事労働における研究(※1)によると、「父親が積極的に家事・育児に関わると、子供は精神的充足感・認知能力・教育水準・経済水準が高まり、思いやりがあって、社会的適性を身につけたことに育つ傾向がある」ということがわかっている。
子どもへの影響だけではない。夫婦間にもプラスの影響が出てくる。
2005年のミッソーリ大学の研究(※2)では、夫が家事に参加をすると、妻はより幸せになり、夫婦の絆がより強くなることがわかっている。また、結婚満足度が上がるだけではなく、セックスの回数も増えることが明らかになっている。もちろん、両親が幸せになれば、子どもへの影響がプラスであることは明らかだろう。
女性が家事をアウトソースすることを批判する前に、なぜ女性が家事をアウトソースしなければいけなくなったかを考えることが重要なのではないか。夫が手伝ってくれないのであれば、それは夫の責任でもある。長時間労働で、ワーキングマザーとして物理的に不可能であれば、それは会社や社会構造の責任だ。
私は日々Lean In Tokyoという団体で、「女性が勇気・自信を持って、自分のやりたいことに挑戦できる社会を作る」ということを理念に活動しているが、この活動を通じて感じる事は、女性は何をしていても、罪悪感を持つ、という事実だ。
働くことを優先し、子どもを産まないことを選んでも、ワーキングマザーとして働きながら育児をすることを選んでも、専業主婦になるということを選んでも、何を選んでも、日本の女性は罪悪感を持っている。
そんな中、働いている女性からは、こんな質問がよく出てくる。
「将来は、子どもを持ちたいと思っているけど、働きながら育児なんて、できると思えません。どうやってマネージされているのでしょうか?」
イベントに登壇していただいた方は、多くの場合、こう答える。
「育児も仕事も完璧にこなすことは、無理。そんなの、物理的に難しい。だから、全部完璧にやらなくてもいいんじゃないかな。」
「できない部分はできないから、プロに頼む。他の人ができる部分は、他の人に頼ることも大切。」
Facebook COO シェリル・サンドバーグもこういう。
"No one can have it all. That language is the worst thing that happened to the women's movement."
(誰も全てを手にいれることはできないわ。その「なんでも手に入れられる」という言葉が、女性活躍の流れで生まれた、最悪の言葉なのよ。)
女性は執拗に「なんでも完璧にこなさないといけない」「なんでもやらないといけない」と思ってしまう。まずは、この「当たり前」を変えていくことが大切だ。
最後に、罪悪感を持つワーキングマザーに素敵な研究結果を共有したい。
2015年のハーバード大学の研究によると、母親が外で働きながら育てられた女性は、自分で仕事を見つけ、その仕事に責任感を持ち、専業主婦の母親を持つ女性よりも高い給与を得ている事がわかった。また、男性の場合は、家事に貢献し、家族の時間を多く取って、育児に参加することもわかった。この研究結果は24の国で実証されており、日本も研究の対象だった。
ワーキングマザーとして子どもを育てることに罪悪感を持つ必要はない。女性が全てを完璧にやる必要もない。一旦、「女性が全てをやらなければいけない」という精神論を捨てて、その前に、一人ひとりが声をあげることによって、「当たり前」とされている概念を変えていくことが、非常に大切なことだ。
参考
(※1)Scott Coltrane, "Research on Household Labor: Modeling and Measuring Socail Embeddedness of Routine Family Work," Journal of Marriage and Famiy 62, no. 4 (2000): 1208-33.
Adam M. Galovan, Erin Kramer Holmes, David G. Schramm, Thomas R. Lee, ""Father Involvement, Father - Child Relationship Quality, and Satisfaction With Family Work", Journal of Family Issues 35, 1846-1867.