「家庭と仕事を両立しながら、これだけやりがいを感じられる仕事は他にはあり得ないと思う。」と言うのは医師事務作業補助者の33歳女性だ。
「日本は医師不足」と言われるが、医師が医師らしい仕事をするのは意外と難しい。事務作業などの雑務に忙殺されるからだ。
その事務作業を軽減するスタッフは医師事務作業補助者と呼ばれる。医師事務作業補助者の活躍は間接的に医師不足を解消し、病院経営に貢献する。
私は仙台市の基幹病院の一つである仙台厚生病院に勤務しているが、入職当初に驚いたのが「医師が医師にしかできない仕事に集中できる環境が整っていること」であった。医師の業務を代行する優秀なスタッフが多いためだ。看護師、薬剤師、放射線技師などのスタッフが優れているのに加えて、特に事務職の働きが際立っている。その中でも仙台厚生病院では「医療クラーク」と呼ばれる医師事務作業補助者が特徴的で、しかも皆優秀だ。医療クラークの働きにより医師の業務が大幅に軽減され、医師が医師らしい仕事に従事できている。
特筆すべきは、仕事の専門性が高いにもかかわらず、医療クラークには特定の資格が不要であることだ。医療クラークは能力や経験年数によって評価され、学歴で評価されることがない。専門学校卒、短大卒、大学、大学院卒と最終学歴は異なる。そもそも医療系の学歴を持っている必要がない。皆、様々なバックグラウンドを持っている。また、残業や休日出勤が少ないため、家庭と仕事を無理なく両立して働けることも特徴だ。
医療クラークの林斉子さん(33歳)は子育てしながら働いている。前職は和裁で着物の仕立てを行っていたが、業務量に波があって家庭との両立が難しいことから、病院事務に転職した。林さんは「患者さんのために働く医師が心から自分を頼りにしてくれることがやりがい。自分のような異なるバックグラウンドを持っている人も入職時はみんなゼロからのスタートであり、努力次第でレベルアップしていけることも魅力。家庭と両立しながらこれだけやりがいを感じられる仕事は他にはあり得ないと思う。」と話す。
主任の田中 奈津子さん(35歳)は病院事務歴10年のベテランだ。医療クラークの前身である一般クラーク導入初期から仙台厚生病院で勤務している。田中さんは医療クラークについてこう語る。「一般的な病院のクラークは"何でも屋さん"になりがちで、患者対応、医師の指示受け、電話応対など、業務内容も多岐にわたっていました。色々な仕事をしているというやりがいもありますが、何年続けてもステップアップしている実感を持てなかったことも事実です。しかし3年前に"医師の事務作業を補助する医療クラーク"と"受付や電話対応をする一般クラーク"に分業化され、状況が変わりました。今は医療クラークとして、身に付けた専門性を医師のために役立てることができています。勉強すればするほど現場でそれを活かせる達成感がありますし、モチベーションも向上します。」。
仙台厚生病院の患者数は多い。心臓カテーテル検査数、心筋梗塞患者数、胃・大腸癌の内視鏡治療数、肺癌手術数はいずれも東北一だ。しかし、実はこれを陰から支えているのは、医療クラークを含むコメディカルの働きによるところが大きい。実際に、日常臨床業務を医療クラークなしで行うことはほとんど不可能だ。優秀な医療クラークが増えることにより、地域の医師不足を解消する可能性があるが、実は病院経営の面からもメリットがある。確保困難な医師を増やすよりも、資格のいらない医療クラークを増やす方が容易だからだ。
医療クラークが資格不要な専門性の高い仕事で、かつ家庭との両立が可能であれば、それは女性にとっての新しいキャリアになるかもしれない。