新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために、世界各地で多くの人が在宅勤務や自宅待機をしている。
自宅にいる時間が長くなった今、家の中の片付けをする回数が増えたな、と感じている人もいるのではないだろうか。
その掃除、ただ単に家の中を清潔にするためだけのものではないかもしれない。
専門家たちは、掃除には心理的な効果をもたらす行為があると話す。具体的にどういった効果を発揮するのだろうか?
■状況にうまく対応できていると感じられる
急速に広がる新型コロナウイルスに脅威を感じ、不安が増している人もいるだろう。
「新型コロナウイルス感染の拡大に人々は圧倒され、無力さを感じています。今後の見通しがつかないことに耐えられなくなっています」と話すのは、ニューヨークを拠点にする心理療法士のマギー・ヴォーン氏だ。
フィラデルフィア州の認定臨床心理学者ジェイム・ザッカーマン氏は、人間は無力感を減らすためにいつもやっている行動をとる傾向がある、その行為の一つが「掃除だ」と、説明する。
「先行きがわからない状況で、私たちは自分がうまく行動できる環境や、よく知っている環境を望むものです」
「そして(そういった状況下で)私たちが無力感を減らそうとする時によくやる行為の一つが、掃除です」
普段から掃除がストレス解消になっている人は特に、今いつも以上に熱心に掃除をしているかもしれない。
「人間は普段やっていることをやりたがる傾向がありますが、特にストレスが多い時にはその傾向が強く現れます」とザッカーマン氏は述べる。
それは、そういった状況下で脳がエネルギーを節約しようとするからでもあると同氏は説明する。
新しいことをやる時には、考えたり、置かれている状況を一つ一つ見極めたりした上で様々な要素を考慮し、意識的に行動パターンを決めなければならない。
それよりも、今までと同じ行動パターンに従った方が脳にとって楽というわけだ。
さらに掃除や片付けは、たとえ「本を色分けする」といった小さな行為であっても、全体像をつかむ助けとなる。
そして全体像をつかむことで、私たちは状況に対してコントロールする力を持つことができる。
ヴォーン氏も「そうやって(不安な状況に対して力を持つことが)大きな安心感につながるのです」と話す。
■マインドフルネスや幸福感が感じられる
掃除はまた、定期的に行うものであり、予想できる行為だ。そのことも掃除をしたくなる気持ちに関係があるという。
「人間は物事が予想できることを好み、これから何が起きるかを知りたいと思うものです」とヴォーン氏は話す。
「生き残りの観点からも、予測は計画を可能にし、起こり得る危険から私たちを守るといえます」
それだけではない。掃除は、インフォーマルではあるがちょとしたマインドフルネスになるとヴォーン氏は説明する。
「マインドフルネスの状態にある時、私たちは自分が感じている心配や不安に、過度に反応せずに意識を向けられます」
「不安が高まる時に掃除をしたいと感じるのは、私たちが無意識のうちにマインドフルネスを求めているからかもしれません」
加えて、繰り返しこすったり掃除機を素早く動かしたりする行為は、ちょっとしたエクササイズにもなる。
エクササイズは、ストレスホルモンを減らすだけでなく、高揚感や幸福感を高め、痛みを和らげるホルモンであるエンドルフィンの放出を促す効果がある。
■ 達成感が、他のことにも影響する
掃除の課題、例えば「ぐちゃぐちゃのクローゼットを綺麗にする」といった問題に取り組むと、他の問題にも取り組める気持ちになる、と専門家は話す。
カリフォルニアの臨床心理学者、フォレスト・タリー氏は「大きな自信を得ることで、解決が困難だと考えていた他の問題にも対処できると感じられるようになります」と、説明する。
そのためには、掃除で得た達成感をその他の問題に意識的に使う必要がある、とタリー氏は言う。
「まずは、自分が不安な状況をきちんとコントロールし、そして適切な段階を踏んで問題に対処し、効果的な解決策をもたらしたことを思い出して下さい」
「そして『どうやって同じマインドセットやスキル(論理的な問題解決、計画、実行)を、他の問題に対しても使えるだろう?』と自分に尋ねてみてください」
■ 掃除が問題回避になると、さらにストレスを増やす可能性も
掃除が不安や悲しみなどの感情を和らげる手段になっている人もいるかもしれない。
しかし注意しなければいけないのは、不安や悲しみは掃除によって一次的にしか癒されないかもしれないということだ。
「掃除をやめたり、片付けた場所を散らかしてしまったりした途端に、再び不安を感じてしまうかもしれません」とザッカーマン氏は話す。
ザッカーマン氏はまた、新型コロナウイルス感染拡大で不安や悲しみを感じる時には特に、不安を避けるために掃除が増えてしまうかもしれないと指摘する。
そしてそれが問題の回避につながってしまう可能性もある。タリー氏は次のように説明する。
「気持ちをスッキリさせたり、全体像を掴んだり、心配な気持ちを和らげるために掃除を使うのは良い方法です」
「しかし問題を隠すために使うべきではありません」
もし、不安を感じる時に問題解決のための行動ではなく掃除ばかりしているようであれば、掃除が問題回避になっている可能性がある。
■ やりすぎないために
掃除が問題回避にならないようにするために、専門家たちが勧めるのが「やりすぎないこと」と「自分に正直になること」だ。
掃除をやりすぎないための方法として「午前中の早い時間」など、時間を決めるのもいい。
「朝の掃除は新しい1日の始まりとなり、健康的で安心した気持ちになれます」
「文字通り、身の回りに散らかっているものを綺麗にすることで、気持ちが落ち着き、他のタスクにより集中することができます」と、ヴォーン氏は語る。
もう一つ大切なのは時間を区切ること。あらかじめ決めた時間になったら、掃除をやめて別のことをしよう。
「掃除のせいで他のもっと大事なことがおろそかになっていたり、掃除をやり過ぎたりしているのであれば、掃除がメンタルヘルスに与える良い効果を十分に得ることができないでしょう」とヴォーン氏は説明する。
もし、時間を忘れて掃除に夢中になってしまうようなら、タイマーを設定してみてはどうだろう。より作業に集中できるだけでなく、効果的に掃除できるかもしれない。
また、もし掃除がもっと大事なこと(プロジェクトの締切とか)からの逃避になっているのであれば、自分から掃除をやめる意思も必要になる。
「そうなっていないかを確認するための簡単な方法は、掃除している時に、感じている不安のレベルを確かめてみることです」
「もし、掃除を始めた時から不安感が減っていないのであれば、一度自分に正直になってみる必要があるかもしれません。掃除の時間を減らして、他のやるべきことをやるようにしましょう」
■不安と向き合うために
不安のレベルを確かめる時に大切なのは、不安との向き合い方だ。
「自分の不安な気持ちに気づくのは大切です。しかし不安に支配されないようにしてください。また、不安がないかのように振る舞うこともやめましょう」とザッカーマン氏はいう。「不安は、いつかは無くなります」
不安がなくなるまでは、自分の呼吸に意識を向けたり、何かに触れて手触りをじっくり確かめるといった、不安を遠ざける方法を試してみるのもいいかもしれない。
もちろん、不安の連鎖を断ち切るだけで、物事が必ずしもうまくいくわけではない。時には専門家に相談することが助けになる。
「当然のことですが、新型コロナウイルス感染に対する不安は、強迫性障害のような行動を引き起こすことがあります」
「新型コロナウイルス感染拡大の先行きがわからないことは、私たちの多くに不安を増やします。それが病気につながる恐れもありますう」とヴォーン氏は述べる。
掃除に固執しすぎることの裏側には、不安障害が存在する可能性もある。
もし不安や心配が何日も続くようであれば、メンタルヘルスのプロに助けを求めたほうがいい、とヴォーン氏は勧める。
「カウンセリングを受けることで、どの行動が自分にとって健康的どの行動がそうでないかを見分ける助けを得られます」
「自分の行動をより理解することで、健康的な行動パターンに変えていけるでしょう」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。