MERYは、だから支持された 一流編集者が語る“しがらみなき”メディアの破壊力

軍地彩弓さんと振り返る、ネット著作権問題。
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©2017 MERY Co., Ltd.

女性向け情報サイト「MERY」が11月21日に再びオープンする。

かわいい情報を、ライトに、スマホ向けに。そんな情報発信が人気だったが、画像などの盗用や記事チェック体制に対する批判を受け、2016年12月、サービスを停止した。

「MERYのような、しがらみに捕らわれないメディアを世の中が求めていたのではないか」。人気ファッション誌「ViVi」や「VOGUE GIRL」の編集に関わってきた、Numéro Tokyoエディトリアルディレクターの軍地彩弓さんはそう話す。問題だらけのMERYだが、意義もあったのではないか。軍地さんに話を聞いた。

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軍地彩弓さん
Aya Ikuta / Huffpost Japan

——MERYが登場した時、どのような思いをお持ちでしたか。

ある意味、衝撃を受けました。その頃は、スマホが普及して、紙媒体からウェブに移行するという過渡期だったんです。

当時私が担当していた「VOGUE GIRL」でも日本の雑誌に先駆けて、雑誌のアプリの開発などを進めていましたが、著作権や肖像権がハードルでした。

著作権や肖像権のルールを守るということに関して、伝統的な日本のメディアは本当にしっかりしています。そこをクリアにしながら、どうすればコンテンツを紙からウェブに移行できるかという会話を、私自身が芸能界やモデル業界、フォトグラファーの関係者と続けていました。

そうしている間に、MERYは、どんどんコンテンツをアップする。「そこ、越えてしまうんだ」「『良し』としてしまうんだ」って。衝撃的でしたね。

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11月21日、新たに開設される「MERY」のイメージ画像。
©2017 MERY Co., Ltd.

——MERYは、SNSやECサイトなど、インターネット上に散らばっている情報を元に記事を作っていました。画像の盗用などが問題視(※)されましたが、多くの女子大生から支持を集めました。

MERYには、いい意味での"軽さ"があったと思います。

毎日いろいろな新しい情報を、女の子たちに向けてポップに届けていた。記事の文章も短くて、情報量は少ない。気楽にコンテンツが読めて、検索もできて、ショッピングにも繋げられるというのは、読者の立場からすると、便利。

スキマ時間にスマホをいじるようになり、ヘビーなものではなく、"軽さ"が受け入れられる時代になったことを表していました。

(※)当時MERYを単独運営していたDeNAの第三者委員会は、MERYに掲載されていた画像約51万枚に対し著作権侵害の疑いがあると指摘した。

——記事を書いていたライターは、読者と同世代の女子大生のインターンが中心でした

彼女たちは「ライター」ではなくて、「消費者」だったと思います。運営側によって多少のスキルが教え込まれた「消費者」が記事を作っていた。そこが新しいんです。

画像やテキストを無断転用しているのではないかとの指摘が相次ぎ、記事の量産体制も批判されましたが、敢えて何らかの価値を読み取るとすると、「消費者」が作るからこその「正直さ」や「伝わりやすさ」はあった。

メーカーが発信した情報や、ファッション業界のプロとしての見方を伝えるのではなく、「消費者」である彼女たちがコンテンツであり、発信者だった。そして、彼女たちには、"しがらみ"がなかった。

——しがらみとは?

雑誌など既存のファッションメディアは、広告主との関係が深いために、プロの編集者やライターの中には、自由にモノを言わなくてはいけない立場であるにも関わらず、 気を遣ってしまう人も少なからずいます。

広告主であるブランドに対して「こんなこと書いたらいけない」とか、「このブランドを取り上げたらあのブランドも取り上げないといけない」とか。もちろん何か目に見える強制力があるわけではないのですが、一種の空気や慣習でしょうか。

"しがらみ"を何も持っていない子たちが、MERYのようなメディアでバンバン記事を書いてくる。忖度をしてしまうプロは負けてしまう。もちろん著作権侵害や不正確な記事は厳しく批判されてしかるべきですが、素人ならでは正直さ、という面に目を向ける必要もあります。

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Aya Ikuta / HuffPost Japan

————旧MERYで執筆していた女子大生ライターによると、記事執筆にあたって「90分に1本」などのノルマが設けられていたといいます。この体制も後に問題視されました。

MERYの記事は取材を全くせず作られたものが多かったとされています。事実かどうかわからない情報が溢れていましたね。

雑誌編集者は、教育を徹底的に受けています。著作権はもちろん、差別用語など言葉ひとつ一つの扱い方、取材者に対してのリスペクトもそうですし、「校閲」「校正」というものにしっかり重きを置いている。

正確なものを世の中に出すための訓練を長く受けた上で、下調べや取材をして、時間をかけて記事にする。

ひとつの正しいメディアをつくるための努力や経験、歴史のようなものが、MERYが出てきたことで、薄く軽くなってしまったと思いました。

——「ファッションメディア」としてという観点でMERYを振り返ったとき、軍地さんが問題に感じた点はありますか?

根拠なく「〇〇が流行り」だと伝えていた点でしょうか。私たちファッション雑誌は、「流行を読むこと」が大切な仕事です。

例えば「このシーズンは赤が流行る」と提案するのも、そこに行き着くまでの理由や背景があるんです。デザイナーやメーカーなどにも取材して、きちんとした根拠をもって読者に提示する。

MERYはその文脈を全く知らない状態で「黄色が流行る」と伝えてしまう。プロじゃない人が、単に「黄色が着たい気分だから」という理由でその記事を書いたとしても、その記事をたくさんの人が読んだ結果、皮肉にも、本当に赤ではなくて黄色が流行り、MERYが事後的に「正しく」なることもあるんです。ある意味「民主的だ」とも言えます。

ただ先ほど話したように、「黄色が流行る」というのは消費者のマインドなんです。メーカーの作るトレンドより消費者が発信するトレンドが強くなるのは当然の結果とも言えるのです。

——MERYが伝えることで、最初は根拠がなかったものが「正解」になってしまうんですね。みんながInstagramに黄色の服をアップし始めると、それが本当になって、逆に「赤が流行る」が嘘になってしまう。

MERYは既存のファッションメディアや業界にあった「予定調和」を壊していった。同時に、「〇〇が流行る」の奥にあるストーリーが薄くなってしまったことを考えると、情報の価値が下がってしまったとは思います。

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イメージ画像
Getty Images/iStockphoto

——MERYが閉鎖して、読めなくなったことを寂しがる「MERYロス」という言葉が生まれました。

あれだけのPV数(※)があったのだから、ユーザーのニーズに合っているコンテンツをしっかり出していたのでしょう。そこまで彼女たちの心の中にまで入れていた、ということはすごいですよね。雑誌の誌面では1カ月単位でしか読者とエンゲージメントを作れません。そこを毎日朝通勤や通学時に気軽に読めるMERYには情報の真贋よりも、読者との絆の強さがあったのだと思います。

体型別の着回しコーデだったり、インスタ映えする場所や新商品だったり。ユーザーが求めているものが軽いトーンで瞬時に掲載されるというのは、やっぱり時代に合っていた。

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新生MERYのサイトより。
「MERY」より
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イメージ画像
Getty Images/iStockphoto

雑誌編集者を含め、オールドメディア出身の作り手はどうしても重く考えがちで、リッチに作りすぎるんです。もっとユーザーのニーズを即座にキャッチして、すぐボールを返さなくてはいけない。

"ライトさ"が受け入れられる時代だからこそ、MERYのフットワークの軽さや正直さに関しては、学ばなくてはいけない部分もあると思っています。

(※)MERYを運営していた株式会社ペロリの発表によると、2016年11月当時、MERYのPV数は月間4億、ユニークユーザー数は2000万以上だった。

——ただ、スマホ時代に合わせて世の中の情報が"軽い"ものばかりになってしまうと、寂しさも感じます。

MERYは、ユーザーが興味を持ちそうなものや、すでに知っているものを味付けして情報として、カジュアルに提供していました。私が考えるメディアの役割である「知らないものに出会う場所」という考え方とは、ちょっと違ったのかなと思います。

何でもかんでもユーザーが求めるものを与えることだけがメディアの役割ではありません。私は雑誌が好きで、紙が好きです。1990年代のカルチャーブームのとき、それこそ『STUDIO VOICE』(※)など、マニアックな雑誌がたくさんありました(笑)。

登場する大人たちがレコメンドしているものに興味を持ったり、雑誌を通してそれまで知らなかった映画や本に出会えたりした。雑誌は「知」と出会う場所だったんですね。

(※)1976年創刊のカルチャー雑誌。斬新な切り口かつ誌面デザインで芸術や文化にまつわる情報を発信し、日本のカルチャーシーンを牽引した。

——かつては雑誌がカルチャーを作っていました。スマホ時代に入り、価値も多様化し、お金を使わなくても楽しめる娯楽が増えました。

消費者のニーズが多種多様化して、今までのように、「100万人にこのパンツを売ります」というのは難しくなりました。選択肢が増えたんですよね。

ファッションも、ブランドの新旧交代が起きて、ブランドの数自体が減ったりショーをやらなくなったりしていますが、全部が沈みゆくわけではない。人がファッションに費やすトータルの消費量が変わって来ているのではないでしょうか。

私はファッションのパワーを信じているし、コレクションに行った時に感じる「ものづくり」のパワーが衰えているとは全く思わないんです。

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Dior 2018年春夏コレクションのファッションショー
Gonzalo Fuentes / Reuters

——ファッション雑誌に必要なものは何だと思いますか。

死守すべきものは、クオリティー。その雑誌でしか見ることができない上質さにこだわる。それを失ったら、雑誌の影響力はウェブメディアの何百分の1くらいになってしまうと思います。クオリティーと正確さに関しては、この時代になったからこそきちんと死守したい。もちろんウェブ、SNSで読者へのコミットメントを深くして、読者をファン化して強いつながりを作ることも大事だと思います。

いま関わっているファッション誌の『Numéro TOKYO』では、Numéroの世界観を共有してくれる人たちに響くコンテンツを作るようにしています。

「Numéroってやっぱりかっこいいよね、載っていることが素晴らしいよね」と思ってもらえるように、"コミュニティ"を作っていく努力をしている。軽さが受け入れられる時代に合わせながらも、信用性を持てる情報をしっかり出していくことが必要だと思います。

——11月21日に復活する新生MERYに期待することはありますか?

MERYを作ってきた人たちは、雑誌畑ではなく、他業種からきた人たちでした。だからこそ、コンテンツから作るのではなく、"仕組み"からMERYを作っていった。けれど、やっぱりルール作りが足りていなかった。

アマチュアの力というのも、もちろんありますが、プロのフィルターがしっかり入ればよかったのにと思っていたので、コンテンツの信頼性を高めるために小学館と組んで新しいMERYを作っていくというのは、答えとしてアリじゃないかな、と思っています。リスペクトを持って、今後MERYが作っていくものを見ていきたいですね。

【軍地彩弓さんプロフィール】

大学在学中からリクルートでマーケティングやタイアップを中心とした制作の勉強をする。その傍ら講談社の『Checkmate』でライターのキャリアをスタート。卒業と同時に講談社の『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力する。2008年には、現コンデナスト・ジャパンに入社。クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。2014年には、自身の会社である、株式会社gumi-gumiを設立。現在は、雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修、情報番組「直撃LIVEグッディ!」のコメンテーターまで、幅広く活躍している。

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