史上最悪規模のエボラウイルスの感染拡大が現在西アフリカで続いている。世界保健機関 (WHO) によると、これまでで死者数は1000人を突破。シエラレオネ、リベリア、ギニア、ナイジェリアの4カ国で死者が確認された。
ロイターによると、WHOのマーガレット・チャン事務局長は「感染を制御しようとするわれわれの努力以上の速さで急速に拡大している」と会議で語った。
現状の感染流行に含まれるザイール株(1976年に最初に同ウイルスが見つかったザイール[現コンゴ民主共和国]にちなんで命名)のエボラウイルスの致死率は、かつて最大で90%にまで達した。しかし、現在拡大中のウイルスの致死率はそれよりも低い。ボストン・メディカルセンターの病院疫学医師で、ボストン大学国立新興感染症研究所 の感染管理所長のナイード・バデリア博士は、「90%の致死率は、一切の治療を受けない場合の数値だからです」と述べた。
バデリア博士はまた、ハフィントンポストUS版の取材に対し「現在は対症療法が行われており、実際の致死率は60%です」と述べた
このウイルスは、どのようにしてひどい症状を引き起こすのだろうか? エボラ出血熱は、目や耳から出血し、死に至ることで恐れられている。バデリア博士は、人体がこの死のウイルスに対して厳しい戦いを強いられているのか、以下のように説明している。
■ エボラウイルスは、どのように人体に入り込むのだろうか?
エボラ出血熱は空気感染しないことで知られている。何らかの方法でウイルスと接触しない限り感染のリスクはないとバデリア博士は言う。ウイルスに感染した動物 (コウモリや霊長類) との接触や、ウイルスに感染し症状が出ている患者の体液への接触、ウイルスに汚染された器具接触により感染する。
「家族で世話係をしている人が吐しゃ物や下痢便の始末をする際 、”ウイルス” に接触することがあり、その場合液体に含まれるウイルスにより感染します。そしてそのウイルスは鼻や口などから体内に侵入するのです」とバデリア博士は指摘した。
またエボラウイルスは宿主の体外で驚くほど長い期間生存する。室温で数日間にも及ぶこともある。
「それゆえ感染防止が非常に重要なのです。もし器具の消毒ができ、IVs (静脈内投与) や消毒剤の入手が可能で、周囲の環境を清潔に保つことができ、患者を効率的に隔離することができれば、感染が拡大することはないでしょう。感染防止対策が十分に取られ医療設備が充実している場所では、この病原体の流行のリスクは全く無いと言えます」(バデリア博士)
■ 感染すると、人体にどんなことが起こるか?
いったんエボラウイルスが体に侵入すると細胞内に入り込み、自己複製する。「その後、私たちの細胞を破壊する特定のタンパク質を作りだすのです。このたんぱく質はエボラウイルス糖タンパク質と呼ばれ、血管内で細胞に付着します。それにより血管透過性が高まり、血管から血液が流れだします。このウイルスは体内の血液を凝固する能力に異常を引き起こします」(バデリア博士)。
出血性の症状が見られない患者にも血管からの出血がおこるようになり、出血性ショックから次第に死に至る。
また、エボラウイルスは体に備わる免疫反応を巧妙に回避し、好中球と呼ばれる細胞へのシグナルを阻害する。白血球の1つである好中球は免疫細胞が警告を発し攻撃する役割を持っている。実際エボラウイルスは免疫細胞に感染し、肝臓、腎臓、脾臓、脳を含む体の各部位へと広がっていく。
エボラウイルスに細胞が感染し破裂するたびに内容物を飛沫させ、それによるダメージとウイルス粒子がサイトカインと呼ばれる分子を活発化させる。健康な体では、これらのサイトカインは炎症反応を引き起こす役割を果たし、それにより体は外部からの攻撃を知ることができる。
「しかしエボラ患者の場合、過剰なサイトカインの放出がインフルエンザに似た症状を引き起こしている。それはエボラ出血熱の初期症状です」(バデリア博士)
■ どのような症状があるか?
一般的にエボラ出血熱の初期にはインフルエンザに似た症状が見られる。エボラ出血熱は眼球からの出血など、大規模な出血を伴うことで知られているが、全ての患者にこういった症状が見られるわけではない。
「実際、こういったひどい症状が見られるのは20%の患者のみです。その段階に達するまでに死亡する患者や、微量の出血がある患者、歯茎やあざからのみ出血する患者もいます」(バデリア博士)
インフルエンザに似た症状がこの病気の典型的な初期症状で、それ以降は嘔吐や下痢、低血圧といったより深刻な症状が見られる。激しい出血は病気の終末期におこり、エボラウイルス感染による死者は通常多臓器不全とショック症状により最終的に死亡する。
「ショックは出血によるものです。いったん体の各部位から出血が始まると、血管からも血液が漏れ出します。仮に”出血性の特徴が無くとも”、血液は漏出しているのです」(バデリア博士)
■ 致死率の高い感染症からどのように回復するのか?
バデリア博士は、大きく分けて2つの理由が考えられると述べた。1つ目は患者の日頃の健康状態であり、自身が持つ免疫力や、ウイルス感染から立ち直る能力だ。2つ目は感染時の接触タイプである。濃厚な接触ではなかった場合はより回復が望める。つまり病気の初期段階にある患者と接触した場合、体液中のウイルス数がそこまで多くないためだろう。
「加えてエボラウイルスは、細胞の表面から内部へとウイルスを運び込む手助けをするマーカーを必要とすることで知られています。数人の研究者達は研究所内において、細胞株にこのマーカーを持たない人々がいることを突き止めました。もしくは何らかの形で突然変異がおこり、エボラウイルスが細胞内に侵入できなかった可能性があります。エボラ出血熱の研究は未だ初期段階であり、ウイルスがいかに働くかについての知識は不十分です」(バデリア博士)
「とはいえ、こういった発見は、今後の治療の可能性を探る重要な手がかりであり、現在も複数の方法からなる治療法の開発に力を尽くしています。そのうち1つが、細胞内に侵入したウイルスの自己複製を抑止する方法です。この方法では、ウイルスが新しいウイルスを作りだすための遺伝子物質の複製を完全に抑止します。もう1つは、免疫システムにウイルスの弱毒ワクチンをさらすことで、免疫システムがエボラウイルスに対する有効な反応を生み出すのを手助けする方法です。それにより有効な反応を生み出し、実際のウイルスに攻撃されても免疫システムは通常のように回避されることはないのです。さらにもう1つの方法はウイルスに対抗する抗体を実際に作ることです。つまり外部からも免疫システムを強化するということです」(バデリア博士)
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