「ハーフタレント」として活躍したウエンツ瑛士さんが、芸能活動休止とイギリス留学で見つけたこと

「僕は日本にいた時、すごく『楽』な立場にいた。日本語を話しても、珍しがられることは少なかったから。でも、現実はそうじゃない人がいっぱいいる」
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ウエンツ瑛士さん
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

タレントで俳優のウエンツ瑛士さんが、1年半のイギリス・ロンドン留学から帰国し、新たなスタートを切った。多様な人が共存するロンドンでの生活は、「ハーフタレント」として活躍してきた自分のアイデンティティーや考え方と向き合うきっかけにもなったという。

「僕は日本にいた時、すごく『楽』な立場にいた。日本語を話しても、珍しがられることは少なかったから。でも、現実はそうじゃない人がいっぱいいる、ということは忘れてはいけないと思います」。そう話すウエンツさん。 

芸能界休止と留学という挑戦を経て得たもの、感じたことについて、本音で語ってくれた。

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いろんな人の思いを掬いあげられる感覚がほしかった 

《2018年10月から今年4月までの約1年半、ロンドンで過ごしたウエンツさん。現地では演劇を学び、語学学校で英語学習にも勤しんだ。

 

俳優としてもバラエティタレントとしてもマルチに活動し、レギュラー番組も抱えていたが、留学に伴い芸能活動も長期間休止することを決めた。》

留学を決めた時は、もちろん演劇の勉強をしたいという思いも強かったんですが、『これだ』という大きい理由はありませんでした。

世界の色々なものを見たかったし、バラエティに出るにしても、コミュニケーションの取り方としっかり向き合いたいと思っていたんです。

留学前、テレビに出た時、一つの番組として完成させて面白く”パッケージする”ということはある程度できていたのではないかと思います。ただ、パッケージとして出荷していくような作業を続けていると、一つひとつのことに丁寧に取り組めないな、とは感じていました。 

テレビの世界で自分が培った技術だけではなくて、もっとたくさんの人の思いを掬いあげられる感覚がほしかったんです。抽象的な表現になってしまうんですけど、色々な思いに気づいて、掬いあげる。それが自分はできていないなと思っていました。

留学がそれを解決できるかはわからないけど、色々な価値観に触れることでコミュニケーションの能力を手に入れたかったんだと思います。行く前は外に出たら何か変わるだろう、みたいな子どものような感覚でしたけど...。

実際に行ったらやっぱり大変でしたし、孤独を味わう瞬間もたくさんありました。友達ができても、言葉が上手じゃなければうまくコミュニケーションもとれない。ただ、留学を終えてみて、その前半のしんどかったことを忘れるくらいに楽しかったという気持ちが大きいです。

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Jun Tsuboike / HuffPost Japan

 

僕は日本にいた時、すごく「楽」な立場にいた。『ハーフタレント』としての思い

 《4歳の頃に芸能界入りしたウエンツさんは、NHK教育番組『天才てれびくん』などの出演で注目を浴び、小池徹平さんとユニット「WaT」を組み音楽シーンでも人気を集めた。

 

そして、ドイツ系米国人の父と日本人の母を持つウエンツさんは、バラエティ番組では「ハーフタレント」としてお茶の間から愛された。

 

「典型的な”日本人”の顔立ちではないけれど、日本語がペラペラ」「欧米系の顔立ちだけれど英語は喋れない」――。

 

バラエティ番組はそういった言葉が”笑い”になる空間だ。人種や民族など、多様なルーツを持つ人が共存するイギリスで暮らすことは、自分のアイデンティティーを「自覚」するきっかけにもなったという。》

テレビに出る時、僕は自分の顔立ちをむしろ「ネタ」にしていたし、「ハーフタレント」として扱われることに僕の場合は嫌な気持ちはなかったです。

自分みたいに我が強い人間は、「だって日本で育ってみんなと同じ日本語教育を受けてきたんだから、英語なんて喋れるわけないじゃん、何言ってんの」っていう感覚ですよ。(笑)英語喋れないのはあなたもそうでしょう、同じ教育受けてるんだから。そういう感じでしたね。

でも、「ネタ」になっていることに嫌な気持ちはなかったけど、それがウケるということは、やっぱりこの顔で日本語を喋るのは「おかしい」という認識が全体にあるんだな、とは子どもながらに思っていました。不思議だな、という感覚かもしれないですね。 

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Jun Tsuboike / HuffPost Japan

僕は自分のことを「日本人」だと思っているんですけど、僕はテレビに出てたから、自分の感覚と世間の僕への見方が「一致」していたんだと思います。日本ではたくさんの人が僕を日本人として見ていたから。

そういう意味では、僕は日本にいた時、すごく「楽」な立場にいたんです。けれど、日本に住んでいるミックスルーツの人が、「自分は何人だろう」と考えるのは当たり前のことだと思います。まわりが「あなた何人ですか」という目で見ているから。 

僕はそういう経験をしてきたことがなかったので、すごく恵まれていたし、「楽」をしていた。日本語を話しても、珍しがられることは少なかったので。でも、現実はそうじゃない人がいっぱいいる、ということは忘れてはいけないと思います。

自分のルーツについては、海外に行った後の方が「自覚」をしました。

僕は見た目では日本人に見られないけれど、日本で生まれ育っている。英語を喋ったとしても、言葉のチョイスや立ち振る舞いは誰が見ても「日本人っぽい」。とはいえ、見た目は日本人ではないから、現地で日本人が受けるような差別を僕は受けない。自分って「何人」に属しているんだろうな、と思いました。

ただ、よく考えたら何人であろうが関係ない。向こうではいろんなルーツを持つ人がたくさんいたし、自分は何人なのか、カテゴリー分けする必要はないはずだ、と思いました。これはイギリスにいたからこそ気づけたことで、環境が違う日本ではまた感じ方は異なるかもしれないですね。

 

相手を「否定しない」。思いやりながら「本音」を話すということ

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Jun Tsuboike / HuffPost Japan

《いろんな人の思いを「掬いあげられる」ようになりたかった。 

 

渡英の理由の一つとして、そんな思いを語ったウエンツさんだが、多様な文化や価値観、意見が『入り混じる』環境に大きく刺激を受けたという。》 

本当に様々な人が住んでるので、相手のことをいかに考えられるか、ということが重要で。日本でも「思いやり」が大事だと言うけれど、海外にいる時の方が、もっともっと思いやらないと、と感じていました。

相手がどんなルーツを持っているかわからないし、宗教もわからない。日本にいる時よりも、もっと「わからない」んです。イギリス人だけじゃなくて、中東、アジア、ヨーロッパ、色々なルーツを持った人がいる。

だから人と話すとき、毎回ある種「緊張」するというか...。たとえば、向こうでは「彼氏・彼女はいるの?」という聞き方は絶対にせず、「パートナーはいるの?」と聞く。

言葉の選び方もそうだし、相手の言葉から得た少ない情報から想像する力も必要でした。喋ることにフォーカスしてしまいがちですけど、相手の言葉を「聞く」という行為もすごく大事だったと思います。

その状況で人と仲良くなったり、深いコミュニケーションをとったりすることに難しさを感じるかもしれないけど、僕は「本音」をちゃんと言うようにしました。

「思ったことを全部言う」とは全然違いますよ。本音を言う中にも、思いやりというものは持てるはずだと思います。言いたいことを全部言うんじゃなくて、相手を思いやりながら丁寧に本音や自分の意見を伝える。その作業をするようにしました。

イギリスで現地の演出家とお仕事をした時も、本当に会話が上手だな、と思ったんです。自分の意見を言うことって日本社会にいると結構大変だけど、その文化をわかってくれて、「言ってくれて本当にありがとう」ってリスペクトをした上で、会話を続けてくれるんです。

相手のことを「否定」しないんです。その人が生きてきた人生をすごくリスペクトしてくれるし、70代のベテラン演出家だったんですが、厳しい「上下関係」もなく対等に接してくれた。

だから、会話をすることが怖くなくなって、リラックスしてどんどん話せるようになるんです。軽い会話で始まったはずなのに、気づいたら自分の本音をどんどん話して、ディスカッションとして発展していく楽しさを得ていく。役者同士の信頼関係にもつながりました。 

本当にすごいなと思いましたし、最上級のコミュニケーションだと感じました。

それと、みんな人から「どう見られたいか」という基準で自分の意見を決めていない。意見が違っても、それをふまえてどうすればいいか話し合おうとする文化が土台にあるからだと思います。この文化は素晴らしいし、うらやましいですよね。

 

仕事がなくなる=自分の価値がなくなっていく。その考えに変化も

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Jun Tsuboike / HuffPost Japan

《留学中は、現地で知り合った俳優とともに一から企画を練り上げ、小劇場で全編英語の二人芝居も公演した。 

 

4月に帰国後はバラエティ番組にも復帰し、9月には帰国後初の舞台作となる「わたしの耳」の公演を控えている。

 

「みんなで楽しみながら、良い演劇を作っていく。そのためには全員で胸襟を開いて話し合うことをやらなくてはいけないので、自ら進んでやっていきたいと思います」。そう意気込みを語る。》

ずっと芸能界の仕事をしていたので、留学前は「芸能の仕事をしている自分」に価値がある、という考え方にもなっていたと思います。仕事が少なくなった時もあったんですが、そうすると離れていく人もいた。

仕事がなくなるということは、自分の価値がなくなっていく。そんな感覚もあったと思います。

これが一般の社会がそうなのか、芸能界だからそうなのかわからないんですが、「途中の評価」というものがあまりないんです。たとえばレギュラー番組を持ったら、それ自体が本当はすごく評価されるべきことなんだけど、早く終了してしまうと逆に評価が下がってしまう。「続けられない」というレッテルを貼られてしまうんです。10年、20年続いたとしても、やっぱり番組が終わる方が注目されてしまう。

演劇やドラマ、映画だったら作品ごとに評価されるのかもしれないし、「今日1回のオンエアをうまくやれるようにしよう」「うまくやれた」と思えるといいんですけど、僕はいつの間にかそうじゃない流れの中に飲み込まれてしまって。

これまでの芸能活動を振り返って、自分をしっかり見てあげられる時間がなかったと思います。

でも、イギリスに行って「何者でもない自分」が出会った人たちは、僕が長い間芸能界の仕事をやってきたということそのものを評価してくれました。

留学という道を選んだことで日本の仕事がなくなる可能性もあったけど、「なくなって何が悪いの?」「あなたは30年近く芸能活動を続けてきたんでしょう。ゴールデンだって10年続けて、充分じゃないか」と言ってくれた。

本当に嬉しかったですし、自分の中で「できた」という達成感があったり、「やめたい」と思ったりしたら、本当はやめてもいいはずなんだと思えました

そういった側面があるんだと気づいたことは、自分の中に起きた変化の一つでした。ロンドンでの生活を通して、本当にたくさんのことを学べたと思います。 

 ◇

ウエンツ瑛士さんが出演する『わたしの耳』(シス・カンパニー上演)は、2020年9月9日(水)から9月18日(金)まで、新国立劇場小劇場で公演予定。8月23日(日)からチケットの一般発売が始まる。

趣里さん、かもめんたるの岩崎う大さんと共演し、イギリスの劇作家ピーター・シェーファー氏による男女三人芝居を届ける。上演台本・演出はマギー氏。

劇場では新型コロナウイルスの感染対策に万全を努め、また、ライブ配信も実施するという。

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(取材・執筆:生田綾、編集:湊彬子、写真:坪池順