人的資本経営や健康経営とともに、昨今注目を集めるウェルビーイング経営。
そうしたなか、人生100年時代の生活者を見つめ、生涯を通じてウェルビーイングであり続けられる社会の実現を目指すHakuhodo DY Matrixが「ザ・ウェルビーイングレポート Vol.2」を公開した。
同レポートによると、ウェルビーイングの実現を目指しマーケティング活動を継続することは、ビジネスの持続的な成長につながるという。
企業と社会を強くするウェルビーイングとは? 未来を変えていく健康増進型保険“住友生命「Vitality」”を手がける住友生命執行役常務・香山真さんとHakuhodo DY Matrix100年生活者研究所所長・大高香世さんが語り合った。
「お客様を幸せにしたい」熱意から生まれた異色の保険
大高香世さん(以下、大高):「ザ・ウェルビーイングレポート」によると、ウェルビーイングのビジネスへの導入状況は、3割にとどまっています。その背景として、5割が成果に懐疑的だという調査結果があります。
住友生命では2018年から健康増進型保険“住友生命「Vitality」”(※)を提供されていますが、昨今注目されるウェルビーイングに、いち早く舵を切ったきっかけは何だったのでしょう?
※スポーツイベントへの参加やフィットネスジムでの運動など、保険加入者の健康増進に向けた活動をポイント化。その活動に応じて獲得した累計ポイントによって、保険料の割引をはじめとした、さまざまな「特典(リワード)」を受け取ることができるプログラム
香山真さん(以下、香山):「Vitality」が先か、ウェルビーイングが先か、どちらの側面もあると思います。今はその両方が相まって進んでいますが――。
少し遡ると2011年、「我々が何のために保険事業をやっていくのか」を改めて考え、ブランドビジョンとして「お客様や社会の未来を強くする」ことを掲げました。
当時、我々が扱っていた商品は生命保険や損害保険。要するに「万一のときにマイナスを0にできる保障」だけだった。それで「本当に未来を強くすると言えるのか」「経済的な保障だけではなく、貢献できる領域を拡大できないか」と議論になったんです。そして導き出したのが、健康増進型保険「Vitality」を通して、お客様の未来を強くすることでした。
その後、貢献領域をさらに広げていった。身体的な健康だけではなく、精神的な健康や社会全体まで含めて、2021年にビジョンをアップデート。「人とデジタルでウェルビーイングに貢献する」ことを掲げました。
大高:なるほど。御社ではウェルビーイングがむしろ後に続くかたちで、「お客様を幸せにしよう」という熱い思いが先行していたんですね。
香山:はい。我々がもっとも大切にしている企業理念として、「経営の要旨」という3箇条があります。その第1条がまさにパーパスで、「社会公共の福祉に貢献する」ことを企業の根幹に置いているんです。ウェルビーイングは、主観的で多義的な言葉ではありますが、まさに我々の会社の存在意義と合致すると考えています。
前向きな連鎖が広がる「ウェルビーイング・バリューチェーン」
大高:「ザ・ウェルビーイングレポート」では、ウェルビーイングによって会社がどのように変化したかも調査しています。たとえば、お客様のウェルビーイング実現を目指してマーケティング活動をおこなった場合、仕事の満足度や創造性が高まるといった結果が出ています。
御社では、どのような変化が起こりましたか?
香山:お客様と社員、会社、それぞれに起きている変化があります。そして、それらは相互に関係しているんですね。
まずお客様の変化として、「Vitality」を通じて運動が続くようになった。そして、健康を意識した生活を送るようになり、結果として健康診断の結果も良くなったという声を多くいただきました。
我々として何よりも嬉しいのは、「『Vitality』に加入することによって生活の質が高まったように感じる」お客様が約8割いらっしゃるということ。そして、この変化は社員の自信にも影響を与えました。
社員としては、健康になったお客様から感謝の声をもらえる機会が増えたことで、自社の商品・サービスに誇りが持てるようになった。実際に「『Vitality』をお客様に勧めたいと思うか」と問うアンケートでは、毎年着実に結果が上がっています。
最後に会社の変化としては、外部のパートナーと協業してウェルビーイングの取り組みを加速させることができた。会社に誇りを持って主体的に行動するようになった社員が、さまざまなビジネスパートナーと信頼関係を築き、共に力を発揮する。それによって、ビジネスとしてのウェルビーイングをさらに推し進めることができています。
大高:お客様、社員、会社の変化がぐるぐると巡って、ウェルビーイングの好循環をつくっている。つまり、お客様の幸せの実現を起点にビジネスを設計、継続することでステークホルダーを巻き込みながら、前向きな連鎖をつないでいく。まさに「ウェルビーイング・バリューチェーン」ですね。
「ニーズ」から「幸せ」へ。ビジネスとウェルビーイングは両立する
大高:ビジネスを継続するうえで、収益を確保することは欠かせません。その観点から見ると、「ビジネスと社会のウェルビーイングは両立するのか」という問いは、重要なアジェンダです。「Vitality」は住友生命のビジネスに、どう貢献しているのでしょう?
香山:まず「Vitality」によって保険の支払いが改善しています。なぜかというと、「Vitality」をつけているお客様とつけていないお客様の死亡率を比べると、前者は後者の約4割低いんです。つまり、保険料を割り引いても、それ以上に、我々としては支払いが減る。当然ビジネスとしても成り立つというわけです。
「Vitality」が広がるほど、お客様の健康増進につながりますし、我々のビジネスとしても収益性が高まる。そうして究極的には、日本の健康寿命を延ばしたいと考えています。
大高:なるほど。持続的に「ウェルビーイング・バリューチェーン」を広げていくには、そもそものビジネス設計も大切ということですね。
一方で、この循環のスタート地点はお客様の多様な幸せを知ることにあると思います。Hakuhodo DY Matrixには、「仕事」などの7つの幸福要素と、「夢」などの7つの幸福価値観を掛け合わせた、49のマトリクスを用いて顧客のウェルビーイングを分析する「七福神の眼」というメソッドがあります。
この手法を使って1万人の生活者データから、「Vitality」のお客様の幸せについて調べてみました。すると「やり甲斐」や「成長」への意欲を、とくに強くお持ちでした。この調査結果を踏まえると、保険会社の「生活の安定を保証する」視点に新たな価値観を加え、成長や発見も提供できる商品やサービスが求められると言える。これって、まさに「Vitality」と近いですよね。
このように視点を少し変えて、お客様のニーズだけを見るのではなく、お客様の多様な幸せのあり方を深掘りすることで、新たなビジネスの開発につながると考えています。
香山:まさに、その通りです。我々としては、保険に加入して「万が一のときは、これで困りませんね」とニーズを埋めるだけではなく、保険を通じてお客様と我々が相互に幸せになることを追求し続けたいと考えています。
結局、ニーズに応える商品やサービスの提供は、突き詰めるとギブアンドテイクみたいなところがあるじゃないですか。お腹が空いた人に500円の弁当を売ることは、「お腹を満たしたいニーズ」と「500円の売り上げ」との対価交換なわけです。
だけど、食を通して幸せになりたい人に、食べもの以上の何かを提供して、その幸せを実現できれば、500円を儲ける以上の幸せを感じられる。そこには対価交換では決して得られない幸せがある。このようにウェルビーイングを追求し続けることで、双方がより幸せになれる世界をつくることもできる。そう信じています。
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写真:tomohiro takeshita