スーパーマーケットの列に並んでいる時、ある感じのいい女性とお喋りをした。
私が大きなおむつの袋をレジの台に載せているのを見て、その女性は微笑みこう尋ねた。
「お子さんがいらっしゃるの?」
「ええ、男の子がいます」と、私は答えた。
「今は、誰がその子の面倒をみているの?」
「夫が家でみています」
それを聞くと、彼女は「まあ」と言い、意味ありげな微笑みを浮かべて目配せした。
こんな風に。
私がやると、こうなってしまうけれど……。
それから彼女は、
「帰ったら、何も問題が起きていなければいいですね!」
と言って笑い、ウインクをした。
私は、ズッキーニで彼女を殴りたくなるのを、必死にこらえなければいけなかった。
代わりに、歯を食いしばらせながらも、さわやかに微笑み、頷いた。
そして、こう思った。
私たちは、「父親は子育てがヘタクソで、お飾り程度にしかならない」という考えをやめなければいけない。
それは、私や夫がいつも耳にしていることだ。
例えば、公園で息子が釣り左右で違う靴を履き、スナックで汚れた古いTシャツを着ていた時、こう言われた。
「今日はお父さんが服を着せたようですね!」
事実:私が着せました。ひどい格好だったかもしれないけれど、私にとってはそれが普通。ちなみに夫が着せると、 洋服のカタログに載っている子供のようになる。
「父親は子育てがヘタクソで、お飾り程度にしかならない」という考えをやめよう
こんな言葉をかけられたこともある。
「今日はお父さんがベビーシッター?」
彼はベビーシッターではない。親だ。
彼は、庭で息子と一緒に遊ぶ。すりむいた膝小僧にキスし、「日焼け止めクリームなんていらない」と騒ぐ息子の小さい鼻に、日焼け止めクリームを塗る。
息子にのぞかれながら、トイレで用を足す。
息子のために、砦や駅やレーストラックを作る。
その後に、固まったチーズを床からはがしたり、小さなシャツを干したり、ソファのクッションのおしっこの臭いをファブリーズで消したり、浴槽からうんちをすくい上げたりする仕事も待っている。
息子の耳の後ろに赤い発疹を見つけると「耳の後ろの赤い発疹は、命に危険か」をGoogle検索し、これは「壊死性筋膜炎」ではないかと疑う。
彼は息子のことをいつも考え、心配している。
失敗し、成功し、失敗し、成功する。
どちらがオムツを買う番だったかを私と言い争い、2人して、なんでこんなことをしなきゃいけないんだろうと落ち込む。だけどそうしているうちに、また素晴らしいことが起こる。
それは、心が温まるようなこんな瞬間だ。
ピーターラビットの本を続けて6回読んであげた後、じたばたする息子に、洗ったばかりのパジャマを着せる。
そしてベッドの横に座って、息子が眠くなる魔法の言葉を言う。
「パパはここにいるよ」
その後、おもちゃを片づけるために一階に降りる。ビールを手にしてソファにバッタリ倒れ込んだと思ったら、二分後には息子が目を覚まして泣きだす。だからまた起きなければいけない。
それを何度も何度もくり返す。結局、ビールを飲むのは諦めなきゃいけない。
そして最後に戸締まりを確認し、息子の部屋に向かう。静かに部屋に入って、小声で最後のお休みを言い、今夜は4時間は眠ってくれるかな、とほっとした気持ちで考える。
部屋を出ていく時、子供用ベッドをのぞき込みながら、彼はこう思う。
「なんてかわいい子なんだろう」
これを、彼も私も毎日やっている。
確かに、世の中には怠け者の父親が大勢いる。実際、私もそういう人も知っている。同様に、怠け者の母親だってたくさんいる。
だけど、「子育て上手のお父さん」という言葉が、もっと使われるべきだと思う。
マスメディアが、子育てをどう考えているかを知るためには、雑誌や映画、広告、インターネットを見てみるといい。そこで目にするのは、ほとんどが子供と母親の笑顔だ。
子育てがどういうものだと考えられているのか、使われている言葉からわかる。たとえば、私が使っている、息子用のソープボトルには「お母さんのお気に入り」という言葉が書かれている。
お母さんたちには、母親の方が子供の世話に向いているというプレッシャーがかかっているのだ。母親には子育ての本能があり、どうやればいいかをわかっている、と考えられている。
じゃあ、お父さんはどうだろう?
父親の子育ては「託児所」扱いされている。
出産前のマタニティクラスでは、父親のことはほとんど触れられなかった。
子供が大好きで、世話好きで、勇気があって、有能で、誠実で、子育ての才能がある父親が「ドジで失敗ばかりするお父さん」に描かれる。
#dumbstuffdadsdo(お父さんがやるバカなこと)というインスタグラムの人気ハッシュタグがある。母親バージョンはないけれど。母親は決してバカなことをしないから(まさか)?
男性が抱っこ紐で赤ちゃんを抱いていると、まるで救世主か何かのように、大げさに褒められる。
子供が生まれると、ほとんどの父親がとるのは約5日間の育児休暇(もし育児休暇を取れれば、だけど)。
「働くお父さん」という言葉は、ほとんど耳にしない。
Facebookは、世界中の女性たちに「母親であることに幸福を感じる5つの理由」をシェアしてほしいと求めている。
そう、子育て上手のお父さんは、なんの称賛も受けていない。
彼らが、お尻をかきながらフットボールの試合を見ているから?
違う、それは勘違いだ。
彼らがお尻をかきながら見ているのは、子供向けテレビ番組だ。
ハフポストUS版に掲載された記事を翻訳しました。
▼画像集が開きます▼
*****
【お知らせ】
ハフィントンポストでは、2016年12月18日に、働きかたをテーマにしたイベント「Work and Life これからのダイバーシティ――子育て・介護・働きかた」を開催します。
■イベントの詳細はこちらからご覧いただけます。
■基調講演:国谷裕子様(元NHKクローズアップ現代キャスター)
「私は、ダイバーシティに気づいていなかった――20年間の「クローズアップ現代」の現場で学んだこと」
<国谷裕子 プロフィール> 79年に米ブラウン大を卒業。外資系生活用品メーカーに就職するが1年足らずで退社。81年からNHKで英語放送のアナウンサーなどを務める。その後、NHKのBS でニューヨーク駐在キャスターとなり88年に帰国。BS「ワールドニュース」のキャスターを経て、93年より『クローズアップ現代』のスタートからキャスターとなり、2016年3月まで23年間、複雑化する現代の出来事に迫る様々なテーマを取り上げた。長く報道の一線で活躍し、放送ウーマン賞、菊池寛賞、日本記者クラブ賞など受賞。
■参加をご希望の方は、以下よりお申し込みをお願いします。