現時点で共和党の大統領指名候補争いの首位に立っている候補者が「イスラム教徒のアメリカ入国を完全に禁止する」よう主張した。それはもちろん、それはドナルド・トランプ氏だ。アトランティック誌の記者ジェフリー・ゴールドバーグ氏は「ドナルド・トランプ氏は、今や国家安全保障への脅威だ。アメリカを悪者にし、攻撃する材料を聖戦主義者たちに与えている」とツイートしているが、その通りだ。
トランプ氏の発言を受け、私たちハフィントンポストも彼についての報道の仕方を変えたいと思う。私たちは7月に、トランプ氏に関する記事を政治欄ではなくエンタメ欄に載せると発表した。ワシントン支局長のライアン・グリムと編集ディレクターのダニー・シーによれば、その理由は簡単だ。「トランプ氏の選挙キャンペーンは見せ物だから」
予想した通り、トランプ氏はエンタメ欄を賑わしてくれた。しかし、今回の発言で私たちははっきりと知った。彼の発言はもはや面白くない。それは不快でアメリカの政治にとって危険となる。だから私たちは、エンタメ欄で彼の政治キャンペーンを報道するのを止める。だからといって、普通の政治キャンペーンと同じ様に報道するわけではない。
私たちが彼の政治キャンペーンをエンタメ欄に掲載すると決めた理由。それは世論調査で高い支持率を保っているからと言って、トランプ氏が真剣かつ誠実にこの国を率いたいと思っていると考えなかったからだ。今でも同様に考えている。しかし多くのことが変わった。
キャンペーンを開始した当初から、トランプ氏は不快なコメントに事欠かなかった。6月の出馬表明の際には、メキシコ人を「強姦犯」と呼んで物議を醸した。しかし最初の頃、彼の激しい外国人嫌いは人を小馬鹿にするような皮肉漫画のジョークに過ぎなかった。しかし、メディアの追い風を受け、トランプ氏の残酷さと無知は倍増している。「彼の言った事、信じられる?」最初は目新しく、私たちを面白がらせたトランプ氏の発言は、今や不快極まりなく、脅威を与えるものに形を変えた。そしてアメリカ政治のよくない面をさらけ出している。
この変化を踏まえて、彼の政治キャンペーンを報道しなければいけないと私たちは強く感じている。トランプ氏がどんな人物なのか、彼のキャンペーンが何を目指しているのかを読者に伝えなければいけない。
ニューヨーク大学教授ジェイ・ローゼン氏は、トランプ氏について次のように述べている。
「2015年前までは、大統領選を報じるメディアは、報道に関するルールやそれに違反した時のペナルティについて、政界のエリートや選挙関連産業と共有してきました。このルールはこれまでほとんど破られることはありませんでした。ルール違反には大きなリスクが伴うと思われていましたし、選挙キャンペーンを取り仕切っていたのはリスクを嫌う戦略家だったからです」
つまり、とっぴで不快で危険な発言をすれば罰せられるとほとんどの政治家たちは知っていたので、それを避けてきた。ローゼン氏はさらにこう述べている。「そういった考えは今や崩壊してしまいました。トランプ氏はそういったルールをテストし、違反しました。それでいて、世論調査で首位に立っているのです」
しかしメディアである私たちは、トランプ氏や彼のやり方に続こうとする人たちを好きなようにさせてはいけない。今後彼の政治キャンペーンを報道する時、私たちは彼の発言を紹介し、出典を明らかにして彼が一体何を目指しているのか伝えていく。
例えば下記のような伝え方だ。
1) トランプ氏はアメリカ国内に住むイスラム教徒のデータベースを熱心に作ろうとしている。
2) トランプ氏はニュージャージー州のイスラム教徒が9/11を祝っているという嘘をついている。
3) オバマ大統領はアメリカで生まれていないから大統領として不適格だ、とトランプ氏は主張し続けている。
4) トランプ氏は女性を蔑視している。女性についての彼の発言をまとめたハフポストの記事がある。もちろん、他にも多くの女性蔑視発言をしている。
5) トランプ氏は外国人嫌いで移民に対する憎悪を掻き立てようとしている。彼はメキシコ系移民について嘘を発信し続けており、不法滞在の移民を国外追放しようとしている。
6) トランプ氏は弱いものいじめが大好きだ。具体例はつきない。たとえば自分の集会で抗議していた人を、支持者の一人手荒く扱った時、トランプ氏はその支持者を擁護した。また、身体に障害を持つニューヨーク・タイムズ紙の記者を馬鹿にしたこともある。
喜ばしいことに、ありのままのトランプ氏を伝えようと考えているのは私たちだけではない。ワシントン・ポスト紙のダナ・ミルバンク氏は「率直に言おう。トランプ氏は偏見にまみれた人種差別主義者だ」というコラムを12月1日に掲載している。そしてその後もトランプ氏を非難する記事を発信している。それは難しいことではない。そして真実を伝えたいリポーターは誰でもそうすべきだ。
トランプ氏が人種差別的な発言や行動をすれば、私たちは彼を人種差別主義者と呼ぶ。性差別的な発言をすれば、性差別主義者と呼ぶ。真実に尻込みすることも、彼のエンターテイメント性に惑わされることもない。
もちろんトランプ氏だけが極端で無責任な発言をしているわけではない。しかし彼は他のどの候補者より注目を集め「ミート・ザ・プレス」から「サタデー・ナイト・ライブ」まで、多くのメディアに露出している。その点で、彼は特別な立場にいる。これまで彼が提供する話題に病み付きになり、その中身を非難しなかったメディアが、彼の不快で間違った意見を正当化してきたのだ。
これまで共和党選挙戦からわかるように、トランプ氏の最悪の発言は必ず世の中に影響を与える。主流派の人々や、過激で受け入れ難い思想を持つ人たちの考え方を左右している。
だからトランプ氏が現在のアメリカ政治に与える破壊的な影響だけでなく、他の候補者や国全体に耐える影響をも私たちは伝えていく。
この記事はハフポストUS版に掲載されたものを翻訳しました。
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