性的少数者(LGBT)のカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」が6月、札幌市で始まる。全国各地の自治体でも同様の仕組みがつくられ、LGBTへの理解や支援が広がっている。「13人に1人」とされるLGBT。制度開始を前に、私たちのすぐそばにいる「隣人」たちの素顔を紹介する。
●高校教諭・日野由美さん(61)=札幌市東区
自宅のソファに座る日野由美さん=札幌市東区
私は男として生まれてきましたが、幼稚園のお遊戯会でかわいい天使の役をやりたがったり、バレエのプリマにあこがれたりしていました。「女の子もの」が好きなんだという明確な意識はありませんでしたが、親や周りの人たちは「おかしい、おかしい」と言っていました。
強烈な記憶があります。小学1年のとき、授業で使うスケート靴を買ってもらいました。フィギュアスケート用の白い靴が欲しかったのですが、母はアイスホッケー用の黒い靴を持ってきて、目の前にドスンと置いたんです。「フィギュア用が欲しい」とのどまで出かかったんですが、母の険しい表情を見た時、悟ったんです。ああ、こういうことは言ってはいけないんだなと。
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苫小牧の実家を離れて東京の大学に進学しました。女装する人たちの集まりがあることを知ったり、新宿ゴールデン街のゲイバーで少しアルバイトしたり。それまで知らなかった世界に出会いました。東京の広告会社で数年間働いた後、北海道に戻って道立高校の社会科教諭になりました。でも夏休みや冬休みには上京し、女装してゴールデン街に繰り出しました。ほんの一瞬でも自分らしさを出せる。そんな心境でした。
性同一性障害で札幌の病院に通っていた20年ほど前、異動の時期が近づいてきたので、思い切って校長に打ち明けたんです。治療の都合から札幌を離れたくなかったので。そしたら校長は「仕事やめるのか」。冷たかったです。
職場では生きづらさを感じることがいろいろありました。例えば一緒に出張した教頭が、列車の座席も昼食も私と完全に別々でした。同僚教諭から生徒たちに暴露されたこともあります。次の授業で行った時、生徒たちの表情は硬かった。「秘密にしなくていいよ」と言ったら、重苦しい表情でうつむいていた女子生徒がぱっと顔を上げました。生徒にとってみれば「秘密」の共有を強いられ、しんどかったと思います。
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性別を変えようとは思っていません。SRS(性別適合手術)を受けて男女の枠に収まれば、今の社会では生きやすくなるかもしれません。公共のトイレで男女どっちに入るかなど、やっかいなことが多いですからね。でもSRSで体を変えても、過去の記憶は変えられないと思うんです。私はありのままの自分で生きたいし、そうした人を許容する社会になってほしいと思います。
恋愛の対象は女性ですが、結婚はあきらめています。2、3年前、10歳ぐらい年下の女性を好きになったのですが、「恋愛対象としては難しい」と言われました。でも、つらいことばかりでもないです。支援してくれる人もたくさんいて、温かい心にいっぱい触れることができました。性的少数者だったからこそ出会えた人もいます。そんな立場をメリットととらえて、生きていきたいです。
(2017年5月12日「朝日新聞デジタル」より転載)