半沢直樹vsあまちゃん

「半沢直樹」と「あまちゃん」。人気の共通点は何か。新聞社からそんな無茶振りをされまして、ううむ。巡らせております。あまちゃんには、がっつりハマりました。半沢直樹は驚異的な視聴率というのを聞いてから後半やおら注目しながら見ました。という重大な差がありつつ、振られたら倍返しだ!なので、お題に答えるため、半沢のコトを少しだけ考えてみました。
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拝啓

「半沢直樹」と「あまちゃん」。人気の共通点は何か。新聞社からそんな無茶振りをされまして、ううむ。巡らせております。あまちゃんには、がっつりハマりました。半沢直樹は驚異的な視聴率というのを聞いてから後半やおら注目してながら見しました。という重大な差がありつつ、振られたら倍返しだ!なので、お題に答えるため、半沢のコトを少しだけ考えてみました。

半沢直樹、人気のヒミツは2つあると思います。

1 ヒーロー願望

スポーツや政治などの頭抜けたヒーローではなく、身近な等身大の、サラリーマンのヒーローへの喝采。銀行の実態という面では全くリアリティーがありませんが、リアリティーではなく、あってほしいギリギリの程度のリアル。それにバブル前の世代の島耕作は成功して年を取って会長になり、身近ではない。

ビジネスのヒーローといえば、企業を脱して、ベンチャーを成功させるといった、ジョブスやザッカバーグら天才はいるけど、そうじゃなくて、がまんしてがまんして、組織で務めあげて勝つという、NHKプロジェクトX的な、大多数のサラリーマンの願望を半沢は体現しているんだと思います。

上司にタテついてひっくり返す、フツーありえない、だけどやってみたいことをやってのけてくれる快感。

そこにはバブル世代の長い間の鬱屈があります。バブルを起こした世代(大和田常務)の退場を促して、もう40代の時代なんじゃね、という自己主張もあるんだと思います。そうなると、いいよね。

2 わかりやすさ

銀行や金融庁などという、本来はウラ側のわかりにくいテーマなので、ことさらにわかりやすく、単純な型で押し切りました。

これは時代劇です。ワンテーマ「勧善懲悪」の型をハッキリと押し出しています。

殿(中野頭取)はいいけど、老中(大和田)が悪で、代官(黒崎)もイヤらしく、それをひっくり返す。この設定は、自らが殿で正義である水戸黄門や暴れん坊将軍とは違う。おカミを奉り、ダメな幕府を倒す坂本龍馬に近い。

(ただし半沢直樹では実は頭取がいちばんのワルって思いましたがね。いちばんうまく保身を遂げましたから。)

半沢は、親の仇を胸に近い、献身的な同僚や手下とともに、巨悪に対してどんでん返しを挑む。判官びいきの日本人をくすぐります。

時代劇なので、大きい芝居のできる役者が並びます。片岡愛之助、香川照之、北大路欣也という歌舞伎界の出が脇を固めているのも当然であります。

半沢が紋切り型のミエ(倍返しだ!)を切り、三白眼でニラミを効かせるのも、歌舞伎ですよね。

あえて主題歌をなくしました。妻や娘との確執といった、よくある副旋律を削り、ストレートな仕事人の話に押さえた。このチャレンジも「わかりやすさ」に荷担して、成功材料になったんだと思います。

これに対し、「あまちゃん」です。

こちらは女の物語。主人公アキと、母春子、祖母夏、その友人たち(ユイ、海女たち、GMT)の人間模様。

周囲の男たちはみな征服されており、頼りなく女たちをもり立てる。まるで、フェリーニの映画。

主役たちの生き方はさまざまです。

・アキは、東京からいなかに逃げ、東京に再チャレンジし、成功し、自らの意志でいなかに戻る。

・春子は、上昇志向が強く、東京で挫折し、長く雌伏していたが、再び東京で上昇しようとする。

・夏は、ずっといなかで強く生き続ける。

 これら全てを肯定します。どの女性の生きざまも圧倒的に美しいとする女性賛歌です。

半沢直樹とあまちゃんは、だから、全く逆です。

1. 半沢は、一人のヒーロー。あまちゃんは、みんなが素敵なお話。

2. 半沢は、男。あまちゃんは、女。

3. 半沢は、勧善懲悪という単一テーマ。あまちゃんは、それぞれの人物の持つ複合テーマ。

4. 半沢は、シリアス。あまちゃんは、ギャグ。

5. 半沢は、紋切り型の大芝居。あまちゃんは、アドリブありありの自然体。

6. 半沢は、週イチ、晩に見る。あまちゃんは、毎日、朝に見る。

 時代も、バブルを背負った半沢と、バブル前の春子+バブル後のアキ。

あえて共通性を探すとすると、

・キムタクや綾瀬はるからタレント人気じゃなくて、ドラマそのものの力。

・脇役をガッチリ芝居のできる人たちで固める。

・毎週、きちんと成功と挫折、浮き沈みを織り込む。

・流行語を狙えるキャッチフレーズ(倍返しだ!、じぇじぇじぇ!)を持つ。

ぐらいでしょうか。

ああ、せっかくの新聞社の求めではありますが、がんばってもそんなとこだろうと思います。思いついたらまた追記します。 取り急ぎコメントまで。    敬具

(この記事は9月30日の「中村伊知哉Blog」から転載しました)