「犠牲者が200人を超えました。私たちにできることは何かないだろうか?」
7月12日、私は「Uonuma Network Group」というフェイスブックのグループに投稿した。私が暮らす新潟県南魚沼市は人口5万人と小さな自治体だが、50か国からの留学生が通う国際大学があるため、世界有数の国際都市だ。地域に暮らす外国人と日本人が自由に情報共有できるスペースを作ろうと、私は今年5月にこのフェイスブックグループを立ち上げ、現在メンバーは300人を超えた。
私のメッセージに、ベトナム、フィリピン、ナイジェリア、南アフリカ出身の学生が「何かできることがあるならやらせてほしい」とメッセージをくれ、7月17日、5人でミーティングをした。
私から選択肢を三つ提示した。
1.物資を集めて送る。
2.お金を集めて送る。
3.お金を集めてボランティアを送る。
フィリピンの男性が物資を送るのが一番お金がかからないと言ったが、南アフリカの女性が現地のニーズとミスマッチが出る可能性があると指摘した。南アフリカの女性が、お金に関しても、送り先がたくさんある中、どこに送るべきか選定が難しいと言った。ナイジェリアの男性は、「日本語ができなくてもできる作業があるのなら、ボランティアを派遣するのがいいと思う。成果が目に見えるし、私たちは丁度夏休みで時間がある。私で良ければ、是非、現地に行って支援活動をしたい」と言った。彼の名前はエゼ、オケチュクウ。37歳。8月初旬なら1週間ほど行けるという。
それで他の参加者も賛同し「それなら、エゼさんを派遣する旅費をカンパしよう」ということになった。
私は広島県に住んでいたことがあり、当時の友人たちに連絡し、日本語ができない外国人ボランティアを受け入れてくれるところを探した。そしたら、「坂町災害たすけあいセンター」が受け入れてくれるという。
しかし、改めてその募金計画について考えてみると、少し不安がつきまとった。旅費が無料で日本語ができなくてもいいのなら、他の外国人もボランティアに行きたいと言う人がいるかもしれない。その場合、どうやってエゼさんを派遣することを説得すればいいのか?エゼさんが一番最初に手を挙げたからと言って納得してくれるだろうか?とりあえず、私はエゼさんをカフェに誘い2人で話してみることにした。
エゼさんは、「ナイジェリアは長年紛争がありました。突然、家も家族もすべて亡くす人たちをたくさん見てきました。私も幼いころに両親を病気で亡くし、兄たちが学校を中退して働いたお金で、大学に行かせてもらいました。だから困っている人の役に立ちたいと昔から思っています。ナイジェリアではホンダの契約社員でしたが、定職に就けない若者にバイクの修理技術を教える施設を作ったりしました。それで、日本政府がアフリカの若者対象の奨学金制度を実施することを知り、日本人上司の推薦状をもらい、応募し合格しました。今回の豪雨で突然すべてを失う人たちの状況を見て、これまで日本の方たちのお金で勉強させてもらっている分、少しでも恩返しができたらと思うようになりました」と言う。
私は、「旅費をカンパするには、エゼさんが自分では出せないという客観的な情報が必要になります。毎月、日本政府から生活費はいくら支給されるのですか?」と尋ねた。
エゼさんが答えた額は、生活保護費とそんなに変わらない額だった。そして、エゼさんは続けた。「ヨウコウさん。この前はみんなの前では言いにくかったのですが、被災地までの旅費は私が自分で出します。私がもらっているお金は日本の方たちから頂いているお金です。その一部をお返しするだけです」
私は涙が出そうになった。新潟から広島までの往復高速バス代、現地での食費などもろもろ含めたら、彼の一ヶ月支給される生活費の半分ほどになるだろう。ナイジェリアのお金で換算すれば、数ヶ月分の給料に相当する。
私は「エゼさん、あなたには小さい子が3人もいる。奨学金だってそんなにたくさんもらっているわけじゃない。本当にいいのですか?例えば、半分をエゼさんが出して、半分をカンパという方法もありえます」と聞いた。
エゼさんは、「これまで日本の方に助けて来てもらったことを考えたら、大した額じゃありません。大丈夫です」と決心は固いようだった。
私がバスの手配をし、決済を済ませ、エゼさんにチケットを渡し、エゼさんはそこに書かれた額を現金で渡した。そして、私に「本当にありがとう」と感謝をした。感謝しなければいけないのはこっちの方だと思った。
私はエゼさんの簡単なプロフィールと日程を「坂町災害たすけあいセンター」の方に送ったら、「地域の皆さんが喜ばれる姿が目に浮かびます」と返信を頂いた。
東日本大震災の時に私もボランティアとして1週間岩手県の宮古市に入らせてもらったが、仕事の大半は肉体労働で、日本語ができない外国人でもできそうだった。そして、ボランティアに来ている日本人の多くは国際協力や国際問題に関心がある人で、英語ができる方たちだったため、あそこに外国人が入ってきても全く問題はなかっただろう。
「日本語ができないからボランティアは難しい」と思う方がいたら、是非、連絡してほしい。私は、0歳児と1歳児2人を抱えているため、今回はボランティアに行くのは難しそうだが、遠方から外国人ボランティアのコーディネートならできるかもしれない。