大盛り上がりで終わったバレーボール、リオ五輪世界最終予選。日本チームを応援してはいた。けれど、おそろいの赤いTシャツを着たアイドルやアナウンサーの熱狂的な姿がテレビに映るたびにモヤモヤしてしまった私。この感じ、何だろう。日本戦の直後、タイ女子チームのコーチはこう言ったそうだ。「これはスポーツではない。日本のショーだ」(朝日新聞スポーツ部記者・渡辺芳枝)
DJが絶叫「Are you ready?」
向かったのは5月31日の男子第3戦、ポーランド戦。試合開始2時間前、すでに半分ほどの座席が埋まっている。場内の大型ビジョンにアイドルグループ「SexyZone」の映像が流れ、大会イメージソング「勝利の日まで」に合わせた応援練習が始まった。
1時間前になると場内が暗転し、場内DJの絶叫が響く。「Are you ready?」。チアリーダーによるダンスショーの後、「SexyZone」が歌って踊り、いよいよ選手の登場だ。
外国人記者「アンビリーバブル」
「この演出、どう思う?」。近くに座った外国人記者に聞いてみた。「日本ではいつものことだよね。初めて見たときはアンビリーバブルだった」。試合の最中、この記者が苦い表情で何度かこちらを向いた。
日本が得点すると、場内DJが選手名を叫ぶ。ポーランドが得点したときに、場内ビジョンで日本の好プレーだけがリプレーされることもあった。「日本びいき」と揶揄(やゆ)されても仕方がない。
試合中の一糸乱れぬ応援は、3階席の一角の私設応援団が率いている。「ニッポン」「もう一本」などと書かれたプラカードが掲げられ、観客はこれに合わせて声を上げ、金色のスティックバルーン(2本組300円)を打ち鳴らす。
五輪かけた国際大会、なのに...
例えばプロ野球でも、ホームチームの本塁打なら音楽が流れ、花火が上がることだってある。観客を盛り上げる演出は、どの球場でも行われていることだ。でも、これは五輪出場権をかけた国際大会。わけが違う。
海外スポーツを多く取材する同僚記者は「応援とは自然発生的なもの、という欧州の観戦文化では想像もできないだろうね」と言う。
そもそも今大会に限らず、バレーボールの国際大会は日本開催がかなり多い。ワールドカップは1977年から11大会連続。ワールドグランドチャンピオンズカップ(通称グラチャン)は93年の第1回からずっと日本開催だ。
日本のテレビ局が独占中継することで、国際バレーボール連盟(FIVB)は放映権料を手にする。この放映権料が高額すぎて、他の国は手を出せないのだという。
大人の事情、競技にも影響
いわゆる大人の事情が、競技自体にも影響している。テレビ中継に合わせて、日本戦はいつも午後7時開始。試合が朝だったり夜だったりする他チームに比べ、日本選手はコンディション管理がしやすくなる。
しかも今大会は、いつどの相手と対戦するかを2試合まで選べる「開催地特権」までついた。タイのコーチの怒りは、この背景とも無縁ではないだろう。
アイドルが応援団になる中継スタイルは、もう20年も定着している。賛否両論はずっとあった。15年前の朝日新聞の投稿欄「声」にもこんな意見が載っていた。投稿主は30代の女性だ。
「有名なアイドルを起用してイベントを盛り上げるのは大いに結構ですが」「会場一丸となって『日本しか応援しない』という過剰な現状は、ちょっと寒い気すら感じます。テレビで観戦する私が対抗できる手段は、音量を絞る以外にないのでしょうか」
負けても「やばい超最高」
実際に会場にいると、あまりに一方的な雰囲気に押しつぶされそうになる。だが、外国人記者はこうも言っていた。「日本のファンは静かに相手の国歌を聞くし、リスペクトフルだ」
ポーランド戦は0―3で日本の完敗だったが、試合後は観客からポーランドチームに大きな拍手がおくられた。敗戦の怒りに任せ、スティックバルーンを投げ捨てるような客は見られなかった。息苦しさの中で、唯一の救いだった。
会場を出ると、100人ほどのファンが日本選手を乗せたバスを見送っていた。夜空に響くのはブーイングではなく、黄色い歓声。「楽しかったね」「やばい超最高」と、はしゃぐ彼女たちはとても満足げだ。あれ? 日本はストレート負けだったのに。やはり私のモヤモヤは消えない。
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