VWがディーゼルエンジンで不正プログラムを使用して環境規制をクリアしていた問題、旭化成の子会社、旭化成建材の杭打ちデータの不正流用問題は、直接の損失だけでなく、今後はさらにブランド・イメージや企業の信頼失墜の影響がボディブローのように響いてきます。そいういえば東洋ゴムの免震ゴムのデータ改ざん、続いて10月には防振ゴムでも不正の発覚がありました。
VWは別として、日本の企業は5sやカイゼンなどをつ見重ねてきた現場の力が品質を支え、それが信頼の源泉となり、競争力を支えてきただけに事態は深刻です。
もっとも敏感だったのは当然株式市場で、VWは不正発覚直後に最大で時価総額の4兆円を失い、また旭化成もあっと言う間に時価総額で約2700億円が吹っ飛び、1兆円割れとなってしましました。東洋ゴムも二度目の不正発覚で10%を超える株価の下落がありました。
今年3月に発覚した免震ゴム偽装問題での対策費は、2015年1~3月期に交換費用などとして特別損失140億円を計上したが、15年6月中間決算では計304億円に積み増した。不正が発覚した154棟について段階的に免震ゴムの交換を進めていき、年内に10棟ほどで工事を始めることが決まっている。
VWの場合、2015年7~9月期連結決算が、リコール費用などを計上したため、約2300億円の赤字となりましたが、対策費用はまだまだ膨らんできます。2兆円を超えるかもしれない米当局からの制裁金や、車の購入者や投資家らによる損害賠償訴訟の費用が残っています。
旭化成もどれだけ損害賠償がどれか膨らむのかはまだ未知数だとしても、子会社の不正が本体の経営を揺るがすことになります。東洋ゴムの15年6月中間決算も、売上高は前年同期比3・8%増の1944億円でしたが、免震ゴムの特損が響き純損益は41億円の赤字に陥ってしまっています。売上で言えば、1%にもならない事業での不正発覚で本体の経営をも危うくしてしまったのです。
そればかりでなく、ブランドイメージの悪化の影響がボディブローのように長期に響いてきます。
VWは、欧州や米国では販売台数そのものは伸びたとはいえ、他社に遅れをとってシェアは落としてしまいました。世界一の座をトヨタから奪った勢いはもはやありません。
皮肉なことに、まだVWのディーゼル車が売られていない日本で、10月の販売台数が半減してしまったようです。欧米ではVWは、実用的な大衆車ですが、日本では輸入ブランドとしてのプレミアム価値があったからでしょう
中国市場はVWの命綱ですが、不正発覚前から勢いはすでに止まっていたことや、当局が問題を抑えたこともあってとくに影響はみられないようです。
またディーゼル車だけでなくガソリン車でも不正が発覚したようで、病はかなり根深いところにありそうです。
VWが成長路線の見直しを余儀なくされ、また杭打ちデータ問題で旭化成と三井不動産は長期にわたってさまざまな対策費を負担するなかりでなく、今後の業績への影響もでてくるのでしょう。また東洋ゴムが信頼を回復するのに必要な年月を考えると、あまりにも代償が大きかったといわざるを得ません。
隠れたところまで品質を追求すること。愚直なまでに正直なことは日本の強みだったはずです。日本的経営は、新たな目的を創造していく「目的志向」というよりは、現場力を高める「手段志向」が得意だったのが、その現場での倫理が崩れると、もはや日本の強みはなくなります。
大森 信
日経BP社
2015-08-05
コンプライアンス強化と言う前に、もっと経営のあり方、現場の力の再構築にも踏み込んだ議論を期待したいものです。「そうじ資本主義」はそのあたりを考察したタイムリーに出版された一冊で、参考になるのではないかと思います。