大暴落した仮想通貨のリスクと将来性 「未来の金融」を制するのはビットコインか、それとも…

仮想通貨相場は終わりを告げたのだろうか?
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ビットコインの急騰と急落には日本人が多くかかわっているようだ
Dado Ruvic / Reuters
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本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

今月半ば、大学で講義をした際、20歳前後の女子学生から「ビットコイン投資を考えているのですが、今後も値上がりは続くんでしょうか」と尋ねられた。投資経験はほとんどないとのことだ。"B"の刻印付きの金貨を売りつけるビットコイン詐欺も横行していると聞く。至る所で仮想通貨ブームが猛威を振るっていることを実感させられる。

しかし、一時期の急騰から一転、先週来、ビットコインの価格は下落している。その一因となっているのが円による投資の激減だ。11月はビットコイン取引額に占める円の割合が世界一だったが、この1週間で円の取引の全体に占める比率は30%を割り込み、ドルに水をあけられている。仮想通貨相場は終わりを告げたのだろうか。

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この1、2カ月、ビットコインの価格変動が話題にならない日はないくらいだ。しかし、ビットコイン以外の仮想通貨、いわゆる「オルトコイン」の変動幅の前にはビットコインもかすんで見える。ビットコインを2017年1月に1万円分購入し、ピークで売り抜けていたら20万円になったが、たとえば日本発の仮想通貨「モナコイン」であれば600万円以上になった計算だ。

12月25日現在、世界には約1380種類の仮想通貨があり、価格が下落し始めてからも、毎日1~3種類ずつじわじわと増え続けている。

これらの仮想通貨全体の時価総額は、5300億ドル、58兆円 に上る(Coinmarketcapによる、12月25日時点)。たとえば日本円の流通額は107兆円であるから 、すでにその半分は超えている計算だ。内訳は、ビットコインが25兆円と断トツで、仮想通貨市場全体の4割強のシェアを占める。そのほか、イーサリアム、リップルなど、7位のイオタまでで市場の8割を占める一方、小規模コインが1300以上存在する。

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これだけ種類があると、中には非常に特殊な通貨も存在する。

たとえば、時価総額第158位の「ポットコイン」は、マリファナ・大麻業者のやりとりに使える通貨である。米国の一部の州や国によってはマリファナや大麻の取引は合法である。しかし、大半の銀行はこうした取引の資金仲介をを拒否する。そのため、安全性の低い現金で取引せざるをえなかった。その代替として生まれたのがポットコインである。ポットコインのウェブサイトにはオンライン・ショップコーナーもある。ちなみに、ほかの仮想通貨と異なり、この通貨には年率5~7%の利息が付くとされている。しかし、その原資が何なのかは記されていない。

前述の「モナコイン」も異彩を放つ。匿名掲示板2ちゃんねるのネコキャラクター「モナー」をモチーフに、面白いツイッターやブログへの投げ銭ができる。加えて、秋葉原のPCショップやメイドカフェ、果ては有志が作った「モナコイン神社(長野県)」でもさい銭として使える。時価総額は世界第40位という健闘ぶりだ。あまりの人気に、海外版モナコインといわれる匿名掲示板のコイン「ぺぺキャッシュ」という仮想通貨も登場した。

仮想通貨の増加の裏にあるのが、企業が仮想通貨を発行して資金調達を行う「ICO(Initial Coin Offering)」である。

コインは原則として有価証券でないため、比較的簡易な手続きで発行できる。数億円程度の小額の発行も可能だ。株式でも借り入れでもないので、既存の株主や債権者の地位を侵すこともない。

このためICOは急拡大を続けており、11月時点で、世界のICOによる資金調達の累計額は4000億円を超えた 。日本でも、今年9月、非上場フィンテック・ベンチャーのテックビューロがICOで100億円超を調達して話題になった。金融関連以外でも、今月12日には、マンション建設のシノケンが、「シノケンコイン(SKC)」を発行すると発表した。将来は同社の建設するマンションの家賃等の決済手段として利用できるようにするという。

ただし、ICOには税金問題が重くのしかかる。通常、企業が株式を発行して資金を調達すれば、そのほぼ全額が資本として使える。ところがICOは、有価証券の発行には当たらないので、「コインの販売」として売り上げに計上することになる。このため、法人税が課される可能性が高い。税金が引かれれば、使える金額は7割程度になってしまう計算だ。

さらに、仮想通貨の取引についても、制度的にはまだ未成熟である。

さまざまな課題の中で、当面最大の問題は、取引所の経営破綻リスクである。12月19日にも韓国の小規模取引所であるYoubitがハッキング被害に遭い、総資産の17%を失って倒産した。顧客から預かった資産は25%カットされると説明している。ほかにも小規模のハッキングは世界中で発生しているとみられる。

日本では、こうした取引所リスクを軽減するため、9月から金融庁が仮想通貨交換事業者の登録を開始している。資本金が1000万円以上であることのほか、「サイバーセキュリティ対策」「マネーロンダリング対策」「顧客の預かり資産の分別管理」「利用者保護」などがチェックされている 。現在15社が登録済みだが、国内最大級のコインチェックなど十数社は継続審査中とみられている。

また、仮想通貨の中には、リップルのように、コインではなく取引所からの「借用書(IOU)」を取引する特殊なものもある。この場合、取引所が倒産した場合、倒産手続きに巻き込まれる可能性がある。

国による規制もリスク要因だ。

欧州の小国では、今月に入って仮想通貨を支援する動きが活発化している。その筆頭格は、北欧のエストニアである。8月に独自の仮想通貨の発行を宣言し、12月19日にその概要を公開した。12月にはトルコもこれに続いた 。英国領のジブラルタルは2016年7月に仮想通貨のETI (Exchange- Traded Instrument)を上場しており、EU における仮想通貨のハブを目指すとしている。東欧のベラルーシは、12月22日に仮想通貨業務への税制優遇措置を発表した。

一方、大国では取引に対して厳しい対応が目立つ。主に、マネーロンダリングやテロ対策が目的である。すでに、9月に中国がICOや仮想通貨取引所に対する厳しく規制を導入した。離脱交渉でEUともめている英国も、この点についてはEU各国と協調し、統一的な仮想通貨規制を模索している。ロシアも今月末までに規制案を発表するとしている。自前の通貨を発行する可能性もある反面、取引所規制は厳しい内容になるとの見方もある。

微妙なのは日・韓・豪州である。日本に次いで豪州も、取引所の登録制度を導入した。一方で韓国は、先週、検討していた仮想通貨規制の見送りを決定した。日本の先例を見て、規制導入による取引増加を警戒したもようだ。米国は態度を明確にしていないが、今月、ビットコイン先物の上場を容認している。

このように各国のスタンスの違いが大きいことから、来年のG20先進国首脳会議では、仮想通貨への対応が議題となる可能性が高い。もし主要国が取引を完全に禁止すれば市場への影響は不可避だろう。

しかし、より本質的な問題は技術の進化である。仮想通貨は解読が困難な暗号技術を使っている。もし、計算速度がケタ違いで暗号解読を容易に行う「量子ゲート型」のコンピュータが開発されれば、インターネットの情報も仮想通貨もあっけなく解読されてしまう。量子コンピュータの実用化にはまだ懐疑的な科学者も多いが、11月にIBMがこのタイプのコンピュータの試作機を発表し、実用化の可能性が高まったとされる。

そもそも、現在の貨幣システムは極めて非効率だ。たとえば、世界に300万台あるATMの維持管理費は年間数兆円に上るとみられる 。その他、現金移送費、盗難対策費などが日々のコストとしてのしかかり、間接的に利用者が負担させられている。

海外取引の利用者負担はさらに重い。たとえば、30万円を銀行から海外送金するには、送金銀行分、為替、受け取り銀行分という3種類の手数料が、合計で1回1万円近くかかる。そのうえ、1回当たりの送金はおよそ100万円が上限となっている。技術者たちは、仮想通貨相場とは無関係な世界で、こうした金融の非効率さを改善しようと開発に死力を尽くしている。ここまで来たからには、何らかの改革が起こる可能性は高いと思われる。

しかし、インターネットのウェブ・ブラウザの世界でも20年前に始まった時点で覇者を予測するのは不可能だった。先駆者は覇権を握れず、利便性や技術に優れたものがさまざまな経緯を経て選別されてきた。仮想通貨の世界でも、その覇者は世界中の信任を得て金融の仕組みを一変させ、大きな価値を生むだろう。ただ、それがどのような技術が主体になるのかが見えるにはまだ時間がかかりそうだ。

オランダのチューリップかヤップ島の石貨フェイか――。現段階の仮想通貨の価値を疑えば切りがない。しかし、将来の覇者を見極めるためには、仮想通貨をフォローすることは必要不可欠な一歩である。

(大槻 奈那 : マネックス証券 執行役員)

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