『viewers:1』とは? 約140秒の動画が呼ぶ感動。主演俳優は語る「僕自身も誰かと出会う事を諦めかけていた」

主演の橋口勇輝さんは「コロナ禍で僕自身も人と出会う機会が極端に減りました」と振り返った。
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『viewers:1』の映像より
YouTube/GEMSTONE

文明が崩壊した世界で、たった1人で配信を続ける男性の姿が静かな感動を呼んでいる。それが『viewers:1』だ。YouTubeで配信されているSF作品だが、「140秒でこんなに世界観が表現できるのか」「想像力かきたてられる」などとSNSで話題になっている。

主演の橋口勇輝さんはハフポスト日本版の取材に対して、「コロナ禍で僕自身も人と出会う機会が極端に減りました」として、作中の主人公のように「誰かと出会う事を諦めかけていた」と振り返った。その上で「『viewers:1』を通して、こんなにも沢山の方と出会えるなんて、想像しませんでした」と驚いた様子だった。

■『viewers:1』とは?

 

主人公は「ぐっちゃん」と名乗る男性。スマホの自撮りで映像配信をしながら、野外を移動している。男性は「どもども、誰かいませんか?」と明るい声で廃墟を探索するが、人の気配は見当たらない。崩壊した高層マンションの周囲を巨大な歩行ロボットが歩いており、文明が破壊された跡のように見える。どこかで配信を見ているはずの人に向けて、元気そうに振る舞っていた男性だが、徐々に精神的に追い詰められていく……。

この作品は、東宝とALPHABOATによるオーディション「GEMSTONE」第6弾企画「リモートフィルムコンテスト」の応募作品だった。YouTubeで2020年12月24日に公開されたが、当初の再生数は数百回程度に過ぎなかった。しかし、1月29日にグランプリ大賞を受賞して以降はSNS上で話題が沸騰。2月10日現在で53万回以上も再生されている。

人物のシーンはほとんど全てを主演の橋口勇輝さんが、スマホで自撮りした。そこに、日本各地から寄せられた映像をミックスして合成を加えて、荒廃した世界を表現したのだという。審査員の広屋佑規さんは「リモートでありながら、あえて一人撮影、ロケに挑戦する試みも面白かったですし、そこにVFXを加えてその世界を表現するアイデアも力強かった」とコメントしている。

 

■映画サークルのメンバーが再結集して生まれた映像だった。

 

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左から小林洋介監督、針谷大吾監督、香川県で素材撮影をした宮川鉄平さん
提供写真

ハフポスト日本版では、監督を務めた針谷大吾さんと小林洋介さんの両名と、主演・撮影をした橋口勇輝さんにメールで取材した。3人はもともと早稲田大学映画研究会のメンバー。監督2人が映像業界で仕事するようになった今も、年1回のペースで3人は短編映像を制作しているのだという。

まず、監督2人(針谷さんと小林さん)に作品のコンセプトが生まれたきっかけを聞いた。

リモートをテーマにした映像コンテストを応募することになった際に「応募作の多くがZoom的なツールでの会話劇になるだろう」から、あえてそこは避けることにして、「香川県の友人に素材を撮って送ってもらおう」と思いついたのだという。

2019年夏、監督2人は香川県に住む友人を訪ねて「SFっぽい風景」を見て回る3人旅をしたことがあった。そのとき瀬戸大橋などの「香川で見たような日常風景の中のSF感を基にした映像を作りたい!」という欲求が芽生えた。今回のコンテストは念願をかなえるチャンスだった。

早稲田大学の映画サークル時代の友人に、香川、埼玉、東京から。千葉在住の仕事仲間が1人、それぞれ撮影素材を送ってもらった。

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『viewers:1』の映像より。海岸を歩行する謎の機械
YouTube/GEMSTONE

画像編集を主導した針谷監督は、スマホの映像を編集する苦労を振り返った。

「やはり苦労したのは全体の構成です。140秒でどれだけ見た人に伝わるように要素を組んでいくか。 また技術的な面の話で、今回リモートというテーマや、取り回しの良さ等々を考え撮影のほとんどをiPhoneで行っているのですが、iPhone撮影の素材に後から色々と合成するのは予想以上に大変でした」

企画を主導した小林監督はSNS上で、今回の作品が注目を集めたことについて次のように語った。

「まったく予想外で驚いていますが、なんにせよ沢山の方々に見ていただけるというのは喜ばしいことだと思っています。コメントなどを見ていても結構な方が“ぐっちゃん”を好いてくれているように思え、それがまた嬉しいです」

■「ラストシーンのぐっちゃんのような心境です」(主演の橋口さん) 

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『viewers:1』で主演・撮影をした橋口勇輝さん
提供写真

『viewers:1』に主演した橋口さんは、劇団「ブルドッキングヘッドロック」に所属し、舞台をメインに活動。芸能事務所には所属せず、個人的な付き合いで声をかけてもらった際にテレビや映画にも出演している。意外なことに、個人的に動画配信をした経験はないという。

「ずっと、この作品を見てほしい!と願い続けてきましたが、いざこんなにも沢山の方に出会えると、驚きを隠せない状態です」と話す橋口さん。演じる際の苦労や動画の反響について聞いた。

ーー孤独な配信者を演じる上で特に注意したことはなんでしょうか?

ひとりであるという現実は常に突きつけられていますが、それに抗い続けること。配信中の場面では気持ちが落ち込んでしまう事を何があっても阻止しようとしました。

ーー監督2人を含めて他のスタッフとは、基本的にリモートで連絡を取り合ったのでしょうか?

基本的にリハから現場までやり取りは全部リモートです。演技パート撮影時は、安全性を考えて監督2人は付近に待機し、リモートで演出をつけていました。

ーーコロナ禍での撮影ということで苦労はありましたか?

やはり対面せず演出を受けるもどかしさはありましたが、リモートリハーサルでお二人が熱量を持って言葉を尽くしてくれた事、何度もリハーサルを重ねてくれた事、そして何より画面越しにもかかわらず僕のお芝居を面白がってくれて喜んでくれたことで、不安なく撮影に望めました。

ーーTwitterで話題を呼び、すでに約50万回以上も再生されています。こうした反響をどう感じますか?

ラストシーンのぐっちゃんのような心境です。ずっと、この作品を見てほしい!と願い続けてきましたが、いざこんなにも沢山の方に出会えると、驚きを隠せない状態です。この作品を通して、こんなにも沢山の方に出会えた事、見て頂けたこと、たくさんのコメントをお寄せ頂いたり、作品に対して考察したり想像を膨らませて頂いていることにただただ感謝しています。

ーー作品中の荒廃した無人の世界は、コロナ禍で人々のコミュニケーションが難しくなっている現実とリンクしているように感じました。

ぐっちゃんは、誰かと出会うことなんか本当は出来ないと何度も考えたと思うのです。でも、抗って出会う事を求め続けました。コロナ禍で、人と出会う事自体にリスクが生じる世の中になり、僕自身、人と出会う機会が極端に減りました。でも会う事を(新しい出会いはもっと減ってしまうかもしれないと考えてしまうけれど)、それでもやっぱり望んでいました。誰かと出会う事を諦めかけていたのに、『viewers:1』を通して、こんなにも沢山の方と出会えるなんて、想像しませんでした。