(ニューヨーク)— ベトナム政府は学生ブロガーのファン・キム・カン氏への起訴をすべて取り下げ、即時釈放すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。ベトナムのドナーとASEAN各国の指導者は、2017年11月6日~11日までダナンで行われる、APEC首脳会議開催前に政治囚全員の釈放を求めるとの態度を明確に示すべきだ。
ファン・キム・カン(Phan Kim Khanh)氏の公判は、2017年10月25日にタイグエン省の人民裁判所で開かれる予定。氏は2017年3月にインターネットに政府批判の書き込みをしたとして逮捕され、「反国家プロパガンダ実行罪」(刑法第88条)で起訴された。ベトナムには様々な国家安全保障関連条項があり、刑法第88条もその一つ。政府を批判する者を恣意的に処罰し、反政府勢力を沈黙させるために絶えず用いられている。
「反国家プロパガンダ罪は、ベトナム政府を暴力によらずに批判する人びとを沈黙させるツールだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのブラッド・アダムズ アジア局長は述べた。「ベトナムはこうした法律を廃止するとともに、インターネット上で社会問題を話題にしたことだけを理由として、学生や一般市民を訴追するのを止めるべきだ。」
ファン・キム・カン氏(24)はタイグエン大学国際関係学部に在籍中。1年生で学生ボランティア・サークルの設立と運営にかかわった。その後、学生会書記局メンバーとなる。またタイグエン大学学生会とタイグエン省ホーチミン共産主義青年同盟からいくつもの賞を受賞してきた。2015年には米国大使館の奨学金を得て、青年東南アジア・リーダー・イニシアチブ(YSEALI)が提供する研修コースに参加した。
ファン氏はこう書いている。「私はフートー省の村の出身です。私の村では皆とても早起きで、日々暮らしていくために精一杯働いていました。畑で新鮮な野菜を収穫し、市場まで運んで売っていた人たちもいました。起きてすぐに練炭に火をつけ、お米と昨晩の残り物を温めると、レンガ工場での早朝勤務に出かける人もいました。毎日朝から晩まで一生懸命に働いていても、それでも生活は貧しいままでした(...)。大学2年から3年にかけて、私はベトナムが先進国入りできない理由について調べました(...)。私は近い将来、本物のマスコミで働きたい。ベトナムの民主主義と報道の自由を求める闘いに加わりたいのです。」
警察はファン氏を2017年3月21日に逮捕した。理由は「[反]汚職新聞」(Bao Tham Nhung)と「週刊ベトナム」(Tuan Viet Nam)という2つのブログを立ち上げ、運営したことだ。さらに、Facebookで3つ、YouTubeで2つのアカウントを開設したとされた。当局は氏を「ベトナム社会主義共和国に反対する目的をもつ、虚偽で歪曲された内容を含む情報を継続的に公開した。またそのコンテンツの大半の出典は反動的なウェブサイトである」とした。
ファン氏の逮捕は、ブロガーや活動家に対する現在進行中の弾圧の一環だと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。最近1年間で警察は、国家安全保障関連法令の曖昧な解釈を根拠に、少なくとも28人を逮捕・起訴している。直近では10月17日、警察はハティン省の環境運動家チャン・ティ・スアン(Tran Thi Xuan)氏を逮捕し、政府転覆を目的とした活動なるものに関与したとして起訴している。
ブロガーのグエン・ヴァン・ダイ(Nguyen Van Dai)氏、同じ活動に関わっていたレ・トゥー・ハ(Le Thu Ha)氏は、2015年12月から裁判のないまま警察に身柄を拘束されている。当初の容疑は反国家プロパガンダ罪だったが、2017年7月には国家転覆罪に変更された。
現時点で活動家100人以上が、表現・集会・結社・信教の自由など基本的権利の行使を理由に投獄されている。ベトナム政府はこうした人びとを無条件釈放するとともに、平和的な表現を犯罪化する法律を全廃すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「ファン・キム・カン氏による唯一の犯罪は、当局の気に入らない政治的見解を表明したことだけだ」と、前出のアダムズ局長は指摘した。「学生は社会問題や政治問題についての意見表明を奨励されるべきだ。処罰などありえない。ドナー国と貿易相手国は、ベトナム政府指導部への圧力を強め、深刻な人権状況の改善を促すべきだ。APEC首脳会議はその第一歩にふさわしい機会である。」
(2017年10月24日「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」より転載)