ベトナムのエネルギー政策、作ったのは東電だった?...日本の原発がベトナムに必要なワケ【争点:アベノミクス】

ベトナムのファム・ビン・ミン外相は、時事通信からの質問に日本から輸入することで合意している原発について「計画通り建設する」と書面で回答した。ベトナムへは韓国なども原発を売り込んでいるというが、ベトナムには何故、原発が必要なのか。
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時事通信社

ベトナムのファム・ビン・ミン外相は、日本から輸入することで合意している原発について「計画通り建設する」と時事通信からの質問に書面で回答した。時事ドットコムは回答内容を次のように報じている。

ミン外相はTPPに関して、「全ての交渉国と協力する用意があり、特に日本の参加を歓迎する」と強調。日本などの受注が決まっている南部ニントゥアン省の原発建設計画では「日本の経験を高く評価し、引き続き日本と協力する」と答えた。

(「TPP交渉、日本に協力=原発輸入は不変-ベトナム外相」より。2013/09/21 15:05)

安倍首相は就任後の初めての外国訪問先にベトナムを選び、原発建設に関する協力などを話し合っている。また、日本だけでなく韓国などもベトナムへ原発を売り込んでいるという。ベトナムには何故、原発が必要なのだろうか。

■ベトナムに資金援助を続けてきた日本

ベトナムは1986年に「ドイモイ政策」を打ち出し、社会主義的計画経済から市場経済へと転じた。2000年代には平均7%を超える高成長を達成し、GDPに占める製造業の構成比は2012年には32.9%になっている。

高度経済成長を迎えたベトナムでは、運輸交通・エネルギー等の経済インフラを整備する必要がでてきている。そのインフラ整備に対し、多くの援助を行っているのが、日本だ。ベトナムにとって日本は最大の援助国であり、2010年の日本の対ベトナム経済協力実績(ODA)では、2位フランスの3倍以上となっている。

日本からベトナムに対するODAのうち、低金利で円を貸す「円借款」は、2012年度で約2千億円となっている。このお金でベトナムは、エネルギー設備や、運輸、農業、郵便、通信、上水道などのインフラを整備する。各プロジェクトには1%程度の金利がつき、25年以上の長期にわたって返済を行うとされている。

■ベトナムに進出してきた日本企業

ベトナムへの円借款で、インフラ整備の事業を請け負ってきたのは日本企業だ。円借款でお金を出す各プロジェクトの条件として、日本企業しか事業を請け負えない「タイド」と呼ばれる縛りを作ってきたためだ。

近年ではOECDの勧告もあって、二国間タイド(ベトナムと日本企業のみ)、そして一般アンタイド(縛り無し)に変更するようになった。それでも、発電や橋梁、空港などの整備には、タイドを行うことが認められている

そしてもちろんODA以外でも、日本の民間企業がベトナムに進出している。ベトナムの豊富な労働力や、親日性、人件費の安さなども、ベトナム進出を後押ししており、2012年における日本からベトナムへの直接投資額は約40億ドル(4000億円)となった。

日本企業は、商社を中心にベトナムにおける工業ビジネスを展開。日本政府のインフラ整備ODAも後押ししている。しかし、工業団地付近には、まだ住宅等が十分に整備されているとはいえず、100kmも離れたところから、工業団地に通う労働者も少なくないという。

■ベトナムの電力事情

工業化の動きに合わせ、ベトナム国内の電力需要は増加。ベトナム政府は電力マスタープランにおいても、全発電所による総出力を、2020年に約75,000MW、2030年には約146,800MWを見込む。

そのため、ベトナム政府は原子力発電を開発するとし、2030年には電力生産総量の10.1%を原発の稼働でまかなうことを目指すとしている。具体的には2030年までに、8原発・14基建設・稼働する。

なお、このベトナムの電力マスタープラン策定にあたり、JICA(独立行政法人国際協力機構)から受託して技術協力をした日本企業が、東京電力であった。

ベトナムはすでに、南部ニントゥアン省に建設する第1原発をロシアに、第2原発を日本に発注することに合意しており、2014年には第1原発に着工する。

■ベトナムの法整備と言論の自由

このようなベトナムの動きに対して、懸念する声が日本国内にもある。というのは、ベトナム政府は経済は市場主義に転じたといえども、政治は共産党1党独裁であるためだ。MSN産経ニュースは、ベトナム政府が9月から、SNSで新聞や政府に関する情報を提供、交換することを禁じると報じている。

新たな規制はブログやフェイスブック、ツイッターなどで一般的な情報や、新聞、通信社、政府のウェブサイトなどから情報を転載、引用することを禁じ、「私的な情報の提供と交換」に限定する。

同時に、インターネット・プロバイダーに「反ベトナム的で、安全保障や社会秩序、国の団結を脅かす情報」などの提供を禁じる。

(MSN産経ニュース「ベトナムがSNS規制 強まる言論、人権抑圧 対米関係の障害拡大か」より。 2013/8/5 21:34)

京都大学の伊藤正子准教授は、ベトナムにおける原発報道について次のように述べている。

しかし原発用地がどのように確保されたかベトナム国内では報道されず,外国人記者への警戒的な規制があるなかで,日本人記者がそのような問題を追うのは不可能である。

他の国家なら環境NGOが登場するところだが,ベトナム人が独自にNGOを設立することは基本的に認められず,外国人が設立する場合は必ず政府傘下にある機関と組む必要があるため,NGOが政府の方針に反する活動をすることはできない。そのため原発の可否など最初から問題にもならない。

言論の自由に制限のあるベトナムでは,弱い立場の人々が声をあげるのは容易ではない。

(京大広報「ベトナム・原発・新幹線」より。 2011/03)

ベトナム政府の動きについては、ウォール・ストリート・ジャーナルも、海外からのベトナムに対する牽制を、下記のように報じている。

しかし、海外での自国のイメージに対する自意識が高まるにつれ、ベトナム政府がネット上の反体制者に対する厳しい締め付けを進んで緩和するかもしれない兆候も出ている。米国など諸外国はベトナムのネット規制を強く批判してきた。一方、グーグルやフェイスブックといった大手は当局による規制手段の拡大がネットを拠点とする企業の成長を損ないかねないと懸念している。

(ウォール・ストリート・ジャーナル「ベトナム、モバイル利用で高まる人々の「言論の自由」の要求」より。 2013/09/19 15:36)

日本はODAの一環として、ベトナムへの法整備支援を行っている。日本のODAは、イデオロギーを伴う政治的な介入は行わないともいわれている。しかし、これまでベトナムに対しては、原子力法の策定で協力を行っている。ぜひ今後も、「原子力規制委員会設置法」などでも、協力をすすめるべきではないか。それが、ベトナムとの更なる信頼性の構築に寄与するのではないだろうか。

ベトナムへの原発輸出に関してあなたはどう考えますか。ご意見をお寄せ下さい。