「明日YouTubeがなくなったらどうするの?」 HIKAKIN、フィッシャーズらを擁するUUUM社長に聞いた。

「ユーチューバー版の芸能事務所」というイメージも根強いUUUMだが、実際どんな風にクリエイターのサポートをしているのだろうか?社長の鎌田和樹さんに話を聞きました。

今や、小学生の「将来なりたい職業ランキング」常連のYouTuber。

HIKAKIN、はじめしゃちょー、フィッシャーズ、東海オンエアなど、YouTubeの登録者数総合ランキング国内TOP10のうち、「avexチャンネル」「せんももあいしーch」を除く8チャンネルがUUUM所属のYouTuberだ。

「UUUM」という名前はよく聞くけれど、実際何をしているのか。そして、現在のYouTuberブームの向こう側には、一体どんな世界が広がっているのか。UUUM代表取締役・鎌田和樹さんに話を聞いた。【文:石川香苗子/ 編集:南 麻理江】

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UUUM社長・鎌田和樹さん

――UUUMには7500名以上のYouTuberが在籍しています。正直にいうと、「YouTuber版芸能事務所」というイメージなのですが実際のところどうなんでしょうか。

よく言われるんですが、事務所の社長って言われることには実は違和感があります。誰かにそう言われたら「どうも~」って返すだけですけど(笑)。僕たちの役割は、芸能事務所の“エージェント”とひと言でくくってしまうには多岐に渡りすぎていると自負しています。

よく、「YouTuberなんて個人でもできるじゃん。なんで事務所に所属するの?」って聞かれます。確かにある程度のところまではできますけど、いまの社会は、個人が活躍するうえでまだまだ整備されていない部分が数多くあります。

才能ある個人と、YouTubeの向こう側にある社会やマーケットまでの「ラストワンマイル」。そこを、サポートしているのがUUUMです。個人と、社会やマーケットとのハブ役を担っていると思っています。

——「ラストワンマイル」というのは、具体的にどういうことでしょう。

例えば、最近では、いわゆる“社会人経験”が一度もないまま、YouTuberとして活動を続けるクリエイターも増えてきています。そうすると、コンプライアンスも、世の中の基本的なビジネスマナーも知らずに社会へ飛び立つ可能性が出てくるんですよね。

それをサポートするのが僕たちです。先日も、東日本の専属クリエイターを200人くらい集めて、コンプライアンス研修を行いました。著作権や肖像権について、あるいは反社会的勢力についてなど一から十までレクチャーしますよ。

あるいは、HIKAKINさんが『ミュージックステーション』に出るということになれば、音楽レーベルの役割をするし、水溜りボンドがグッズを販売したりリアルイベントをやることになれば制作会社のように間に入って、どんなグッズがいいか企画・デザインしたり販売サイトを整えたりします。

それ以外にも、税金対策のために法人化のサポートをしたり、確定申告や、資産運用の相談まで絡んでいく。かと思えば、クリエイターが風邪を引いたらドラッグストアに風邪薬を買いに走ったりもしています。

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時事通信社

――今はYouTuberを抱えるマネジメント組織として、正直「一人勝ち」です。しかし、収益の観点で見ると、YouTubeというプラットフォームへの依存度は大きい。極端な話、明日YouTubeがなくなったらどうしますか?

確かに、今はYouTubeの再生回数に連動した広告収益に依存していますね。でも究極的には、明日YouTubeがなくなったとしても、次に何をやるか長いスパンで一緒に考えようという気持ちを共有できる人じゃないと、うちには所属してもらっていません。

じゃあ次はみんなでnoteを書こうよとか、イチナナライブをやろうよとかSHOWROOMに出ようとか。僕たちは、そういう風に次のステージを考え続けていきます。

YouTuberの場合、トップを走っているHIKAKINさんだって30歳になったばかりです。彼らが、10年後に何をしているのか僕たちだって分からない。ただ、彼らが「一過性」のブームで終わるようなことはしたくなくて、いかにライフタイムを伸ばすかは常に考えています。

YouTube動画はある意味で、ファン作りの「入り口」のようなもの。その先に色々なコンテンツを出していくことが重要だと考えています。

2013年6月27日に会社を設立して今ちょうど6年なんですけど、その間僕たちは、「個人がメディアになる時代」を絶対成功させるんだと思ってやってきたんです。「HIKAKINさんというクリエイターがやることが、どんなことでもコンテンツになる時代が来る」と。

個人がものすごい数のファンをつくり、囲い込めるようになったら、今度はグッズを買えるサイトやインフルエンサー本人と会えるリアルイベントを設計する。ファンの熱量を発散する場が絶対に必要になってくるんです。実際、人気のあるインフルエンサーが、Tシャツや変顔マスクみたいなグッズをつくるとそれが売れるし、曲をつくればダウンロードされ、Mステに出られるようになった。

「個人がメディア」になる時代から、その先にビジネスが生まれてモノや音楽が売れて、個人だけでビジネスが完結してしまうようになったんです。発信力や影響力がある人にどんどん消費行動が”支配”される「インフルエンサー経済圏」ができあがってきていると感じます。

UUUMを設立した当初は、まずはYouTuberとして広告収入やアドセンスで生計が立てられるようにしましょう、と考えていましたが、今は次のフェーズに来ています。僕たちもクリエイターには常に、「YouTuberとしての影響力を使って、何をしたいですか?」と問いかけるようになっています。

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――今後のコンテンツ市場は、すべて「インフルエンサー経済圏」に取って代わられるのでしょうか。

全てが取って代わられる、とは思いませんが、広告やEC、小売などの既存市場の一部分は確実に置き換わるでしょうね。そこをなるべく大きくしていくのが僕たちの目指すところです。

例えば佐賀を拠点に「釣り」や「料理」の動画を上げているクリエイター『釣りよかでしょう。』(以下、「釣りよか」)は、2000年代に入って右肩下がりに減り続ける釣り業界の人口減少を止めたと言われているくらい大きなマーケットをつくりました。

いまや、嵐の大野(智)くんとか、大リーグの田中(将大)投手とかが彼らのファンだって公言するレベルになっている。『ジャパンフィッシングショー』っていう釣具イベントに「釣りよか」が来ればお客さんが押し寄せるし、釣具メーカーとコラボしてルアーをつくれば、ものすごく売れる。

個人が作れる経済圏の可能性は、僕自身も体感する部分があります。実は、今年のHIKAKINさんの誕生日に17000字に及ぶ記事をnoteで書いたんです。そうしたら、無料の記事なのに、2000円とか3000円とか、投げ銭してくれる人がいるんです。それを見て、なんだこれと思って(笑)。手前味噌かもしれないけれど、ちゃんとつくったコンテンツにはちゃんと評価がつくんだ、と実体験しました。 

(稼ぐことだけを考えると)今はミリオンヒットはいらない。1000人のファンをつくって、毎月500円何かを買ってくれたら充分に生計が成り立ちます。そういうことが、これからはYouTuberだけでなく、アーティストやデザイナー、作家など、あらゆるジャンルにおいてできるようになるはずなんです。

 ――みんなが知っている「スター」みたいな人はいなくなるのでしょうか。

そこの価値観すら変えていきたいんですよね。今の世の中ではまだ、漫画家ならトラディショナルな出版社でデビューして単行本を出すことが承認欲求を満たすことに繋がっていると思うんです。実際には、コミックマーケットで手売りをしたり、自分のサイトを作って販売したりと、個人がファンに直接アプローチした方が、効率よく稼げるのに、やっぱり『ジャンプ』に載ることの方が名誉、という空気感がありますよね。

その意識を変える、というのが僕たちが一番やらなきゃいけないことだと思っています。使い古された言い方だけど、ナンバーワンよりオンリーワンですよ。自分の漫画が『ジャンプ』に載るとか、みんなと同じタイミングで「就活」するとかということが、もっとダサい感じになってしかるべきだと思うんですよね。

——個人にファンがついて新しい経済圏ができていくのは、新しくて希望があります。一方で、これまでのメディアやコンテンツメーカーが担保してきた、「確からしさ」や「公共性」は失われるかもしれませんよね。

確かに、個人が発信するものって、究極のところ「わかる奴だけわかればいい」世界なんですよね。でもHIKAKINさんみたいにひとつのチャンネルの登録者数だけで750万人いたり、Twitterのフォロワー数だけで300万人いたりすると、視聴者は小さな子どもからお年寄りまで広くなってくる。すると当然、言っていいことと悪いことが出てくる、というのは僕たちも認識としてもっているところです。

その時、どうすべきなのか。

愚直ではありますが、視聴者との対話を続けて、みんなでネットならではの文脈を理解し、リテラシーをあげていくしかないと思うんです。コメント欄なりTwitterなりで見ている視聴者とのコミュニケーションを増やしていかなきゃいけない。一方通行で発信だけし続けるのは、一番避けなくてはなりません。

ハフポストさんみたいなメディアもきっと同じですよね。これだけ、みんなの持つ考え方や物の見方がバラバラになってきちゃっている時代なので、一方的に記事を出して、読者が知らない間にしれっと編集方針を変えたり、内容を変えたりしていては、読者がついてこないのではないでしょうか。

更に言えば、個人のクリエイターや、メディアに限った話ではありませんよね。一方通行の発信では絶対にダメで、対話してコミュニケーションを増やさなければいけないと感じます。 

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UUUM社長・鎌田和樹さん
ERIKO KAJI

 ――企業や組織で頑張っている人もたくさんいる中で、なぜ鎌田さんは、そんなに「個人」として活躍するクリエイターにこだわるんですか? 

 当然、企業で働く人を否定しているわけではありません。ただ、シンプルに、自分は輝いている個人が好きだし、正しく報われて欲しい。

 極端かもしれませんが、突き詰めれば、どんなクリエイティビティだって、一人の個人に行き着くと思います。けれど、旧来のやり方だと、大きな組織とか、既存の枠組みの方が強くて、本当に良いコンテンツをつくっている人がなかなか正当に評価されません。

 個人が活躍する時代になれば、本当に良いものが正しく評価されるし、良いコンテンツが埋もれることなくちゃんと日の目を見る。しかも、「インフルエンサー経済圏」がつくれるようになって、ビジネスとしても広がっていく。僕は素晴らしい世界だなと思っているんです。

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オフィスからの景色
ERIKO KAJI

 ――好きなことがない人にとって、しんどい世の中に“しちゃった”のではないですか?

 うーん……でも、嫌いなことをやり続けるより、好きなことをしていた方が絶対いい、と僕は思う。確かに好きなことを仕事にしたら、好きなことを嫌いになる瞬間があるかもしれないけれど、人生ずっと嫌いなことをし続けるよりはたぶん、明るい人生が待っている。

 僕はこの「好きなことを仕事にしよう」っていう世の中は、結構いいことだなと思ってるんです。「幻想だろ」っていうドライな人も中にはいるかも知れないけど。

 今まで、「好きなことで食べていく」という“けもの道”に生えていた雑草を薙ぎ払って、どこへ続くのかわからないジャングルを、HIKAKINさんたちと切り拓いてきたつもりです。そして今、もう道ができて、そこをたどれば生計は立てられるという状態になりました。そして、僕たちがそういう個人を応援していく。

 好きなことで生きていかなきゃ、と重圧を感じるのではなく、「好きなことで生きていける可能性が、前よりずっと広がった」と捉えるといいのかもしれません。

 ――個人が活躍する時代を目指しながら、鎌田さん自身は350人の社員からなる大企業の経営者ですよね。一見、相反するように見えるのですが…

 僕にとっては、どんな遊びより一番楽しいのが仕事だし、経営なんですよ。自分が決断した方法がうまくいけば、売り上げが上がるし、ファンがつく。これほど楽しいことはないです。

 僕にとっては、ゲームの「シムシティ」をやってるみたいなワクワク感です(笑)。ここに線路を敷いたらこうやって人口が増えました、というのと同じような感覚で、会社にこういうルールをつくったら、こうやって売り上げが上がった、やった! と嬉しくなる。いつも次のビジネスを考えているし、喜んでくれる人が増えれば嬉しいし、売り上げも上がる。もちろん僕も楽しい。こんな楽しい遊びないよなって思っています。誰も不幸にならないじゃないですか。

 最高の「遊び」として経営をさせてもらっているので、自分がやってきたことが自分以外の誰かの喜びになっていると気づくと、驚くし、予想外の喜びがありますね。

 例えば、2017年に東証マザーズに上場したときのこと。僕自身は上場とか、そんなに重きを置いていなくて、誰かから「おめでとう」と言われても「あざーす」くらいの気持ちだったんですけど(笑)、YouTuberやその家族がすごく喜んでくれたんですよね。

「UUUMさんのおかげで、ここまでこれて良かったです」とか、「UUUMさんが上場して、お父さんが喜んで……」とか言われると、グッときちゃう。

「なんてことを言ってくれるんだ! 泣いちゃうよ、僕は」みたいな気持ちになっちゃって。経営者としての責任感や実感も増しますよね。

 楽しくてワクワクすることばっかりだから、会社経営は止められません。個人が社会で幸せに活躍していくために必要な「ラストワンマイル」を、これからも全力でサポートし続けたいし、誰よりも僕自身が、「好きなことで生きていく」を体現し続けたい、と思っています。

 (文:石川香苗子@KANAKOISHIKAWA / 撮影:加治枝里子 / 企画・編集:南 麻理江 @scmariesc