「笑点」だけじゃない。落語家・桂歌丸が遺した偉大すぎる業績

圓朝の傑作怪談噺「真景累ケ淵」を全編演じる。「古典」を伝えることへのこだわり
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「笑点」で知られる人気落語家の桂歌丸さんが7月2日、死去した

「笑点」の開始時からのレギュラーとして人気を誇ったことから、テレビの業績がクローズアップされがちだが、落語家としても偉大な業績がある。

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Jiji

特に有名なのが、近代落語の開祖として名高い伝説の落語家、三遊亭圓朝が手がけた長い噺を多く手がけたことだ。圓朝は明治期に活躍し、日本語の言文一致体にも大きな影響を与えた伝説の落語家である。

海外文学もや童話も落語に取り入れ、グリム童話を翻案した「死神」は今でも幅広く演じられる「古典落語」になっている。

歌丸さんは、圓朝の傑作怪談噺「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」を全編通しで演じたことで知られる。長さにしてCD5枚、計約260分にも及ぶ。横浜にぎわい座で月に1度ずつ5カ月連続で演じた。それを会場側が録音したのがCDになった。

「真景累ケ淵」はあまりに長すぎるため、一部分を抜き出して高座にかけられることはよくある。しかし、全編を通しで演じ切ったのは「たぶん私のが圓朝師匠以来じゃないでしょうか」(2006年、朝日新聞のインタビューより)。

インタビューによると、大名人として知られる三遊亭圓生や、先代林家正蔵の録音をもとにしながら、圓朝全集を書き写しながら覚えたのだという。大作に挑んだ覚悟をこう語っている。

「落語家になったからには何かは残さなくちゃさびしい。よく言うんですが、落語を残すのも、落語のお客さんを残すのも、落語家の責任だと思うんですよ」

落語家・桂歌丸の実績を「笑点」ばかり語られるのはもったいない。古典落語に果敢に挑み、大きな責任を果たしたその姿もしっかりと記憶しておきたい。