米国核態勢見直しなど

日本においても感情論とは別の、もっと深い議論が必要です。
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Bloomberg via Getty Images

石破 茂 です。

 米国核態勢見直しについて、あまり国会でも議論がありませんが、実は我が国にとっても根本的かつ重要な政策変更だと思っております。

 「戦略核」は、いったん使用して互いが撃ち合いになれば世界が終わってしまう「使えない兵器」としての位置づけが固定化されてしまい、抑止力の低下が懸念されるため、「戦術核」という位置づけの存在を復活させることで抑止力を高める、というのが基本的な考え方のようです。

 現状を「過去のいかなる時よりも多様で高度な核の脅威に直面している」と認識しており、核に対して基本的に「米国には核廃絶に向けた同義的な責任がある」としたオバマ政権とは相当に異なっています。

 核の使用を「米国や同盟国の利益を守るための極限的な状況に限って使用する」としている点ではオバマ前大統領と同じであるものの、根底には今や戦術核をアメリカの四倍も持つに至ったロシアへの危機感があるようです。

 今回の見直しには、①爆発力の小さい小型核の導入、②艦船搭載型の再開発への着手、③核運搬手段の三本柱の強化、④核使用は核以外の戦略的目標に対するものを排除しない、という四つのポイントがあります。

 長期的には艦船搭載型巡航核ミサイルを新たに開発するということと、米国の核の傘(拡大抑止)の信頼性向上との関係も、日本国自身の問題としてよく考えておかなくてはなりません。

 個人としてのトランプ氏は、核について過去様々な発言をしています。

 「私はソ連との核軍縮交渉の担当者になりたい。ミサイルのことをすべて学ぶのに一時間半あればよい」(38歳の時)

 「核戦争のことをいつも考えている。私の思考プロセスにおいて極めて重要な要素だ。人々は核戦争が起きないと思っているが、それは最も愚かなことだ」(90年の雑誌インタビュー)

 大統領就任後も「私が持つ核のボタンの方が金正恩のものより遥かに大きい。私は賢いというより精神的に安定した天才なのだ」と述べ、「いずれ世界の国々が一緒に核を廃絶する魔法のような瞬間が訪れるかもしれない」との発言にはシニカルな姿勢が窺われるように思います。

 これに対してハイテン米戦略軍司令官は「トランプが核攻撃を命じても違法ならば従わない」と述べ、核戦略に携わった17人の元将官は「核使用にあたっては議会や国防長官の承認があるべき」とする意見書を提出しており、米国内の専門家の意見も多岐に分かれているようです。

 日本においても感情論とは別の、もっと深い議論が必要です。

 小型核には、偶発的な核戦争の危険を高める恐れがある、との指摘があります。

 オバマ政権が艦船配備型の巡航核ミサイルを撤廃したのは、通常の巡航ミサイルによる攻撃を核攻撃と誤認または曲解して核反撃を受けることを避けるためだったのであり、核と通常兵器の区別がつきにくくなれば、偶発的な核戦争の恐れも高まると考えたことによるものでした。

 冷戦期、戦略核の「使えない」ことそれ自体が抑止力となって、「恐怖の均衡」のもとに大きな紛争がなかったことは厳然たる事実です。

 トランプ氏の言う「魔法の瞬間」の到来が当面期待できない以上、核廃絶を心から希求しつつ、パリティ(均衡)を常に保つことと、ミサイル防衛や国民保護をはじめとする「核を用いたとしても効果はない」という拒否的抑止力を向上させることが肝要であり、それを忘れてはなりません。

 今週の週刊新潮と週刊文春のグラビアには、さる10日土曜日に私が御殿場で旧日本陸海軍の軍用乗用車「くろがね四起」に乗った際の写真が、極めてよく似たアングルから撮られて掲載されています。

 ライバル誌同士にしてはとても珍しいことのように思われますが、文春の「石破が四起(ヨンキ)でやってくる」というタイトルには思わず笑ってしまいました。山田洋二監督、ハナ肇主演の往年の名作映画「馬鹿が戦車(タンク)でやってくる」(1964年・松竹)に引っ掛けたものですが、まあ本当によく考えるものですね。この映画は題名のイメージとは異なり、山田監督らしい深い味わいのあるもので、お勧めの一本です。

 週末は、17日土曜日が公明党鳥取県本部新春の集い(11時鳥取市白兎会館・18時倉吉シティホテル)、鳥取城北高校相撲部後援会総会・諸大会好成績祝賀会(19時・ホテルニューオータニ鳥取)。

 18日日曜日は自民党鳥取県国会議員新春懇談会(10時・ホテルニューオータニ鳥取、13時半・倉吉シティホテル、16時半米子ワシントンホテル)という日程です。

 多くの皆様に誕生日ならびに2月14日のお気遣いを賜りましたことに厚くお礼申し上げます。

 皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

(2018年2月16日石破茂ブログより転載)