浦和レッズのサポーターが出した横断幕に差別的表現があった問題で、Jリーグは無観客試合という処分を下した。この制裁はJリーグが規約を変更していたことで実現したもの。差別撤廃へ、期待したいのはサッカーを超えて良い影響を日本全体にもたらすものだ。
■注目すべきJリーグ規約の変更
Jリーグは13日、浦和レッズのサポーターが8日のサガン鳥栖戦で「JAPANESE ONLY」という差別的な横断幕を掲出した問題に対して、23日のホーム・埼玉スタジアムで行われる清水エスパルス戦の「無観客試合」という処分を下した。
この「無観客試合」は、Jリーグ史上初の厳罰となったが、その背景には今シーズンから「Jリーグ規約の変更」がある。
変更された規約の一部に第11章・制裁/第1節・総則の第142条[制裁の種類]がある。
【変更前】
[1] けん責 始末書をとり、将来を戒める
[2] 制裁金 1件につき1億円以下の制裁金を科す
[3] 勝点減 リーグ戦の勝点を1件につき15点を限度として減ずる
[4] 出場権剥奪 リーグカップ戦における違反行為に対する制裁として次年度のリーグカップ戦への出場権を剥奪する
[5] 除名 Jリーグから除名する(ただし、総会において正会員現在数の4分の3以上の多数による議決を要する)
【変更後】
[1] けん責 始末書をとり、将来を戒める
[2] 制裁金 1件につき1億円以下の制裁金を科す
[3] 中立地での試合の開催 試合を中立地で開催させる
[4] 無観客試合の開催 入場者のいない試合を開催させる
[5] 試合の没収 得点を 3対0 として試合を没収する
[6] 勝点減 リーグ戦の勝点を1件につき15点を限度として減ずる
[7] 出場権剥奪 リーグカップ戦における違反行為に対する制裁として次年度のリーグカップ戦への出場権を剥奪する
[8] 下位ディビジョンへの降格 所属するディビジョンより1つ以上下位のディビジョンに降格させる
[9] 除名 Jリーグから除名する(ただし、総会において正会員現在数の4分の3以上の多数による議決を要する)
■昨季までであれば「けん責と制裁金」で済んでいた可能性も
昨シーズンまでの規約を見てみると、今季の[4]に追加された「無観客試合の開催」がない。つまり、昨シーズンまでは「制裁金」以上の罰則は「勝点減」ということになっていた。
この勝ち点をはく奪するという制裁は、有名なところで言えばセリエAの「カルチョーポリ」がある。組織的な審判買収によって試合結果を操作した大規模な八百長事件で、主犯格のルチアーノ・モッジがGMを務めていた名門ユベントスがセリエBに降格し、フィオレンティーナ、レッジーナ、ACミラン、ラツィオが勝ち点をはく奪された事件だ。
世界的に見れば、その他にもクラブの破産や選手の不正起用、逮捕者の続出した暴動による勝ち点はく奪の前例はあった。しかし、Jリーグで起こった事件に関しては、勝ち点はく奪というほどの決断は出来なかった(差別の度合いは数字では測れない難しさもある)。そのため、制裁金以上の処分はこれまでに無かったのだ。
しかし、Jリーグは今シーズンから人種差別などの問題に対して、より厳しい処分を下すために制裁の項目を増やしていたのだ。
昨シーズンまでであれば今回の事件も「けん責と制裁金」のみの処分となっていただろう。わずか開幕2節でこの規約変更が意味をなしてしまったことは残念極まりないことだが、今後のJリーグのためにも「無観客試合」の処分を下せるようになったことは大きな前進のように感じる。
■期待したい日本全体への影響
日本では、島国という国土柄か人種差別をすることにもされることにも頓着が無いように感じる。かつてプロ野球では「外国人選手に記録を塗り替えられたくない」ということを選手やコーチ、監督までもが公に口にしていたほどだ。
しかし昨年、東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティンが本塁打記録を更新したことは、風向きが変わり始めていることの証だ。
さらに、最近では「レイシスト」や「ヘイトスピーチ」という以前は聞き慣れていなかった言葉が蔓延している。
そして、今回の一件によって人種差別がいかに罪の重いものかが広く認知されることを期待したい。そうなれば、Jリーグが下した判断がサッカー界のみならず、日本全体に影響を与えるきっかけとなるはずだ。
少なくとも、サッカーファンは今回の件を「浦和レッズの問題」とせず「日本サッカー界への警鐘」として受け取るべきではないだろうか。悲しき前例をつくってしまったが、これが最初で最後、Jリーグにとって唯一の事例となることを切に願う。
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(2014年3月14日「フットボールチャンネル」より転載)