日本を代表するクリエイティブディレクターの一人、佐藤可士和さん。2月3日から東京・六本木の国立新美術館で開催されている「佐藤可士和展」は、連日大盛況だ。
目に触れる全てをメディアととらえ、デザインをコミニュケーションツールと表現する可士和さんの技法は、国内外に新たなアイデアを提供している。そんな可士和さん、実は現在、隈研吾さんと共に「団地」におけるプロジェクトを手がけている。
デザインにより、「集まって住む」ことで生まれるパワーを生み出す──。
暮らしのあり方が大きく変化する今、可士和さんが感じる、団地の新たな価値とは?
キーワードは「ゆるさ」と「集まって住むパワー」
3月初旬、「佐藤可士和展」にて、「団地の未来プロジェクト」によるトークセッションが開催された。
UR都市機構による同プロジェクトは、1970年に誕生した「洋光台団地(横浜市磯子区)」を舞台に始まった“団地再生”の取り組みだ。可士和さんによると、キーワードは『ゆるさ』と『集まって住むパワー』。
建物や施設の老朽化、少子高齢化など、さまざまなな課題に直面している団地。そこに「ハード」と「ソフト」の融合により新たな価値を得て活気を取り戻し、継続的に社会課題を解決していくことを目指している。
その前身である「ルネッサンスin洋光台」(2011年12年〜)から数えて、10年目を迎えた同プロジェクト。進捗を伝えるトークセッション終了後、ハフポスト日本版は可士和さんの単独インタビューをおこなった。
ディレクターを務める可士和さんが思い描く、「団地」「暮らし」のこれからとは。
「『団地は団地である』。それこそが特徴」
── 隈さんから、「団地、やらない?」と誘われて、このプロジェクトに参加されたと伺いました。
本当にライトな感じで誘われたので、その言葉が忘れられなくて。「世界の隈が、なぜ団地を?」と思って、一緒に洋光台団地の見学に行きました。
悠然と建物が立っていて、インパクト、ポテンシャルがすごいなと感じましたね。その時に、隈さんと「ゆるさ」と「集まって住むパワー」が良いよね、という話をしたのが、今でもプロジェクトのキーワードになっています。
こんなに贅沢でゆったりとした空間は、集まって住むからこそ生まれるもの。その強み、パワーを、最大限生かせたら良いなと思いました。
それから、洋光台規模の団地って世界的に見ても珍しくて。自分の中ですごく「驚き」もあり、純粋に興味が沸きました。トークセッションで隈さんが仰っていた、「団地は、世界遺産になれる」という言葉、その通りだなと。
── 実際に団地へ見学に行き、団地に対するイメージは変わりましたか?
団地は課題だらけというか、日本の社会課題そのものだと思いました。
僕自身、小学生の頃によく団地で遊んでいたんです。自分の家とは全く違うデザイン、規模感、眺望で、ワクワクする存在。しかも、遊ぶこともできる。自転車で走り回ったり、かくれんぼをしたり、缶蹴りをしたり。団地が大きな遊具そのものでしたね。
団地の敷地内にある公園も、その周りにある道路も、周辺が一体になって「遊び場」でした。僕にとって、団地にはハッピーな思い出がたくさんあるんです。
だから、洋光台へ見学に行って感じたのは、「人がいないな」「寂しいな」という印象。それは団地に限ったことではなく、日本中の景色が変わったんだということ、日本社会の課題を改めて感じました。
── 今、「集まって住む」場所はアパートやマンションなどさまざまありますが、団地の特徴は?
団地はパブリックな存在。誰のもの、というのではなく、「団地は団地である」。未来の街をどう変えていくのか、そのプラットフォームの一つが団地なのだと思います。
これだけ広い空間に、これだけの人数が「集まって住んでいる」。それを、どれだけ価値化することができるだろうということを考えて、「集まって住むパワー」をプロジェクトのコンセプトにしよう、と思ったんです。「一つの街」というスケールで暮らしを変えていくこと、その場所を作ることができますよね。だからこそ、もちろんプレッシャーもありました。
そこからオープンイノベーション型にして「アドバイザー会議」を開催し、さまざまな分野の、たくさんの方の力と知恵をお借りしながら、それこそ「集まって作った」と思っています。
つまり、「集まって住まないとできないこと」を考えていけば良いんじゃないかな、と。
コロナ禍の変化は、住まいのデザインにも
── コロナ禍で物理的に「集まる」ことが難しくなっている今だからこそ、「集まって住む」ことの価値とは?
「集まって住む」=ご近所付き合いを必ずする、とか、ダイレクトにみんなが集まって密になる、ということではありません。「密」を避けなければならないこのご時世だからこそ、広大な空間を最大限生かした取り組みをしていきたいですね。
例えば、団地でキャンプを開催するとか、キッチンカーが集まるとか...。屋外空間どこでもWi-Fiを使えるようにしたら、そこはもうオフィスになる。そういう使い方、可能性は、すごくあるなと思っています。
Wi-Fiを求めて、人が来るのも大歓迎だと思うんです。とにかく(団地の)外から多様な人が集まって、団地から、そのエリア、街が活性化させていくことが大切なんです。
── コロナ禍による暮らしの変化は、住まいのデザインにも変化を及ぼすと思いますか?
もちろんです。
団地って、現行の法律上は「オフィス」として使えない。URさんと一緒に、そこを変えていければ良いな、とも思っています。
住む場所、暮らす場所、働く場所... 空間の境目が、非常に曖昧になっていますよね。家の中でリモートワークをしていたら「それはもうオフィスなんじゃない?」という話になるし、住宅かオフィスなのか「そんなことどうでも良いじゃん!」ってなっていくのでは。
そうした、空間の使い方や感覚の変化は、デザインそのものにも大きな変化を及ぼします。団地でも、壁をぶち抜いて大型物件に変えるとか。そうした使い方ができるようになると、団地のあり方も大きく変わるんじゃないかなと思います。
こうした変化を追い風にできるような取り組みを、様々な分野の方と「集まって作って」いきたいですね。
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これからも続く、「団地の未来プロジェクト」。UR都市機構の中島正弘理事長によると、今後、建替えを予定している住棟もあるそうだ。
10年の節目を迎えた今、住まいと暮らしの大きな変化に直面している同プロジェクト。今後、日本各地の団地に、そして世界に向けてどのようなモデルケースを示していくのか、ぜひ注目してほしい。