長野県内の東部、千曲川の流域である「東信地域」に位置する小諸市。江戸時代、幕府によって整備された「北国街道」最初の宿場町として栄え、現在も古くからの商屋や古民家などの歴史的な街並み、小諸城址「懐古園」に代表される、自然と文化あふれる地域です。
多くの地方都市同様、小諸も人口減に悩む地域のひとつでした。若い世代の人口流出による、空き家や耕作放棄地の問題にも直面していたそうです。
そんな小諸で今、新たな歴史が始まろうとしています。その担い手は、古くからの地元住民と、県外からの移住者。市内の中心地から興る動きをさらに広げ、盛り上げる仕組みをつくり、小諸市をサポートしているのがUR都市機構です。
その秘訣となっている両者の「つながり」は、どのように生まれているのでしょうか?
小諸は「ファーストペンギンになれる場所」
新たな歴史の“担い手”の一人、武藤千春さん。ダンス&ボーカルグループ「E-girls/Flower」の元メンバーで、現在はアパレルブランドのプロデューサー、ラジオパーソナリティーとしても活動しています。2019年12月から小諸に居を構え、東京との「二拠点生活」を始めました。
「祖母のルーツが佐久市にあり、よく東京から小諸まで蒸気機関車で帰っていたそうです。老後は小諸で暮らしたいと長年話しており、祖母の家探しに同行して、私も初めて小諸に来たのが2019年。
半年ほど内見を続ける中で、東京からのアクセスも良く、気候も想像以上に穏やかで『田舎の豪雪地帯』というイメージが180度変わりました。祖母は高齢ですが、小諸は車がなくても不便なく生活できる、というのもポイント。徒歩15分圏内に駅、病院、スーパーが揃うコンパクトシティなんです。
小諸の魅力を知り、生活の中に自然を取り入れるのも良いな...と、二拠点生活を決心しました」
引っ越しを機に、武藤さんが新たに挑戦したのが「農ライフ」です。
「親戚が持っていた畑が耕作放棄地になっていたので、整備して種でも植えてみようと始めたら、まんまとハマってしまって(笑)。すぐに品種も量も増え、自分で食べきれない量になったのでネットで販売するまでになりました」
農作物だけでなく、農を暮らしの中心に置くライフスタイルや小諸の魅力を発信したいと、2021年に農ライフブランド『ASAMAYA』を設立。今年からは、小諸市農業ライフアンバサダーとしても活動しています。農作物だけでなく、農を暮らしの中心に置くライフスタイルや小諸の魅力を発信したいと、2021年に農ライフブランド『ASAMAYA』を設立。今年からは、小諸市農業ライフアンバサダーとしても活動しています。
「移住した直後は、コロナ禍もあり全然友達ができなくて...。でもある日、鍬で畑を耕していると、通りすがりの地元の人が『こうした方がいいよ!』と教えてくれて。同じ頃、小諸で農ライフを始めたことをラジオで話したら、たまたま市役所の方が聞いていて、連絡をくれたんです。
こうしたきっかけからどんどん出会いが生まれ、みんなとマルシェや農にまつわるイベントを開催するようになりました。今では、仲間たちと浅間山麓の耕作放棄地を活用したワイン用ぶどうの栽培に取り組み、来年からは南高梅の生産にも挑戦します」
小諸では、人と人とのつながりが新しい歴史を生み出す原動力になっているようです。
「市長がよく『ファーストペンギン』とおっしゃっていますが、地元のみなさんも移住者もその言葉通り、挑戦や変化を恐れない人たちだなと感じます。
私が今やっていることも、『なんか面白そう』『私もやってみたい』と、心ときめくままに動いてきた結果。みなさんにもそう思ってもらえるように、自分が先陣を切ってチャレンジする姿を見せていきたいです」
小諸で生まれる「新しさ」を、全国へ
続いて訪ねたのは、サイフォンコーヒーと盆栽のペアリングを楽しむカフェ「彩本堂(さいほんどう)」。オーナーの梅谷匡尚(まさなお)さんは2021年、“脱サラ”して店をオープンしました。
開店から約1年。“香りの劇場”彩本堂には、県内外から多くのお客さんが集まります。
「コーヒーが好きで、いずれ自分の店を持ちたいと思っていました。飲食業界は流行り廃りが激しく、長時間労働・低賃金という過酷な労働環境も当たり前になっています。そんな“当たり前”を変えたくてオープンしたのが『彩本堂』です」
梅谷さんは山梨県出身ですが、幼少期から歴史好きで、家族でよく「懐古園」に遊びに来ていたそう。「いろんな城跡を訪れましたが、懐古園が一番。時代の変遷が目に見える、歴史の重みを感じる場所」と話します。
社会人になってからも、市内のコーヒー会社に勤務するなど小諸に深い縁があったことが開店の一つの理由。もう一つの理由は、ビジネスでの将来性を感じたからだそう。
「小諸は比較的大きな都市や観光地に囲まれていて、地理的に交通量も多いんです。立ち寄る理由がないだけ。そういう点で、ビジネス的な可能性は大いにあると感じています。豊かな自然に囲まれて、歴史や文化を感じられる場所でやりたかったので、それはまさに小諸だなと」
梅谷さんのように移住し、空き家を活用して開業する人が増えている小諸。そのポイントは市役所にあると言います。
「出店を決めて市役所に相談すると、部署の垣根を超えて横断的に、とても親身に対応してくれました。今でも『こんなことをしたい』と相談すると、地元の方や企業を紹介してくれたり、移住者と会わせてくれたり。そうしたつながりから、地域を盛り上げる新たなアイデアやイベントが生まれています。
小諸で生まれた新しい流れが、日本全国へと広がっていくと面白いと思っています。そのためにも、この盛り上がりがブームで終わって欲しくない。そういった意味で、今後も行政の役割、市役所の活動は大きなポイントになると思います」
小諸に移住者が増え、新たな歴史が生まれる鍵とも言える、市役所の存在。一体、どのような取り組みをしているのでしょうか?
「つながり」が自走するために
小諸市役所には、空き家や耕作放棄地など市内の資産活用を促進したり、移住者をサポートしたりするさまざまな有志活動が存在します。その一つが「おしゃれ田舎プロジェクト」。
発起人の一人、小諸市役所の高野慎吾さんに話を聞きました。
「移住担当になった2020年頃、東京や大阪でセミナーを開催しても『小諸ってどこ?』という反応が大半でした(苦笑)。いくら営業活動をしても、地域に魅力がないと何も始まらないんだと実感して始まったのが、『おしゃれ田舎プロジェクト』です。
発足当時は市役所職員2人と地元の企業のみなさんで、まずは市内にある価値を活用すべく、駅前商店街の空き店舗への誘致を進め、成功事例を市内に広げていこうという方針でスタートしました」
移住者を起点に口コミが広がり、移住・開業が増え続けているというここ1、2年。プロジェクトにも多くの移住者が参画するようになり、空き家のリノベーションを通して、まちづくりの主体となっています。
高野さんは「将来的には、プロジェクトがなくても地域の魅力が向上され続けることが目標。だからこそ、活動のほとんどを地域のみなさんに委ねています」と話します。
そんな目標を実現するためにも、市民が愛着と当事者意識を持って暮らせるまちづくりを小諸市とともに進めるのが、UR都市機構です。
2017年、URは小諸市とまちづくり協定を締結し、市が目指すコンパクトシティ構想実現に向けて、ハード面に加えソフト施策による中心市街地活性化の支援もおこなっています。小諸市を担当する河地薫子さんは、「魅力が増えた今、次はそれを知ってもらうことが必要」と言います。
「ソフト面での取り組みのひとつに、“情報”と“移動”をつなげて発信する社会実験があります。これは、URとしても初の試み。市内には魅力的なお店やイベントが増えているので、それらの情報を市民や観光客のみなさんに届け、場所にアクセスできる手段を整えています」
“情報”面では、デジタルサイネージやスマートフォンのアプリを活用し、街の取り組みを発信。“移動”では、EV循環バスや小型モビリティ(現在は試験運行終了)をアプリと連携させ、誰もが気軽に市内を回遊できる仕組みづくりに向け、さまざまな実験をおこなってきました。
「URは全国で地方都市再生に取り組んでいますが、まだまだ手探りの部分も多いです。その中で、小諸が先進事例の一つになればと思っています。
空き家バンクなどサポート体制は多くの自治体にありますが、小諸にはそうした制度だけでなく、移住前に短期滞在を体験できたり、イベントを通して地元の方々と交流できたり、新しく来る人を受け入れる空気と場所が充実しています。そして移住後も、人との出会いや新たなビジネスが“つながる”風土ができているからこそ、新しい動きがさらに広がり、面白い街になっていく。小諸は、そんな場所だと思います」
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歴史的な街で、新たな動きが生まれ、人と人のつながりでそのうねりが広がっていく──。
これからもますます人が集まり、面白い街になっていくであろう小諸。みなさんも一度訪れてみることで、新たな歴史の担い手になるかもしれません。
▼ 小諸の新たな歴史、動画でもぜひご視聴ください。