ユナイテッド航空で浮かび上がったもう一つの問題、それは「警察による暴力」だ

事実からは目を背けないようにしよう。
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4月9日、アメリカのSNSは大炎上した。警官が叫び声をあげる男性を飛行機の座席から無理矢理引き離し、ぬいぐるみのように通路を引きずっていく様子を捉えた動画が流れたからだ。男性の口の端からは血が流れていた。

世界中の人々がユナイテッド航空に怒りを向けた。ユナイテッド航空は会社として取り繕った声明を出し、69歳のデイビッド・ダオ医師と他の3人の乗客を「再誘導」せざるを得なくなったことについて謝罪した。従業員が乗る必要があったとの理由だ。ユナイテッド航空は適切な手順に沿った処置との主張を変えなかった。しかし、料金を払って確保した席を譲るのを拒否したというだけの理由で、ダオさんがボコボコにされ、公衆の面前で恥をかかされた動画を見ると、何かが間違っている。

事実からは目を背けないようにしよう。今回は大企業の依頼によるものだが、シカゴ航空警察の警察官が常軌を逸し、乗客に対して暴力的だったのは疑いの余地がない。国家権力の不快極まりない暴走が、全米の注目を集めている。

そしてこの警察官の行動は、アメリカの警察が暴力に訴えるという懸念すべき傾向に沿ったものだ。傍から見れば、絶対やめた方がよいと思われる場合でも、警察官は暴力に訴える傾向がある。

力の行使が適切かどうかについては意見が分かれる、ほとんどの事例と同様に、当局は今後警察官がこの状況で法に従った行動をしたか検証することになる。伝えられるところによると、シカゴ航空警察はこの警察官を捜査するため休職処分にしたという。さらに声明で「本人の行動は看過できない」と述べた。しかし合法であろうとなかろうと、今回の衝突劇が原因でさらに大きな影響が出る可能性がある。

引きずり出されてから機内に戻った後の動画で、ダオさんは口論の末「帰らなければいけないんだ」と語っている。ある動画では、取り乱している様子で、何かをボソボソとつぶやいている。

「背筋が寒くなる光景です。ダオさんがけがの手当てを受けていないから、というのもあるのでしょう」と、臨床心理学者を務めるコネチカット大学のモニカ・T・ウィリアムズ心理学科准教授は語った。ウィリアムズ准教授は、警察官による暴力の影響を研究している。

「白人の女性がこういった扱いを受けるのを目にするなんて想像できませんね。血が流れているのを放置して、おそらく頭にも怪我をしているのでしょう」と、ウィリアムズ氏は指摘した。

言葉も出ない。この人かわいそうすぎる!!

AP通信によると、ダオさんはその後担架に乗せられて飛行機を降ろされたという。

ユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEOは当初、警察官が乱暴な対応をしたのはダオさんの態度が原因だとし、「凶暴で喧嘩腰」な人物だと説明した。そしてユナイテッド航空のスタッフと警察官は、無理矢理飛行機から連れ出す以外に方法はなかったと示唆した。

しかし警察官の行動が、飛行機が定刻通りに離陸するために必要だったとしても、出発が遅れてしまったのは事実だ。騒動の後、飛行機は何時間も離陸できなかった。スタッフが客室に流れたダオさんの血液を拭き取るためだ。そして結局、ユナイテッド航空の今回の対応は、スタッフが乗客に自発的に降りてもらうため余分にお金を払っていたよりも、はるかに高い代償がつくことになりそうだ。

ムニョスCEOの声明を読むと、地位の高い人々が、暴力を行使した法執行の言い訳に、法の順守を利用する傾向があることも反映されている。権力者は常に、警官が力を行使しないよう行動する義務が市民の側にあると主張し、警察官側に事態を穏便に済ませ力の行使を回避する方法を考える義務などないと主張する。

今回明らかになったことがもう一つある。アメリカの法執行文化について広く懸念が広がっているということだ。多くの人が、警察は「守る」ことよりも「闘う」役割を大事に思っていると批判し続けている。近年、事件現場のすぐ近くにいた人たちが撮影した動画を見ると、微妙な状況と思われる場合でも、警察官たちがためらう様子もなく暴力を振るっている姿が見られる。こうして警察官が力を行使した結果、その大半のケースで事態は悪化している。

結果として、法執行機関に対する信頼が揺らいできている。2015年の調査では、警察に対する信頼は22年間で最低レベルまで落ちた。翌年の世論調査では持ち直してはいるものの依然として低い。

警察権力の行使に関する意見は、人種によって常にはっきりと分かれている。アメリカ国民でも白人と黒人で、この問題に対する見方は大幅に異なる。2016年の調査では、白人の回答者の75%が警察の力の行使は適切だと答えたのに対し、黒人で同意見だったのは33%しかいなかった。

暴力被害を受けた人は、体の怪我が治ってもトラウマで苦しむことが多い。多くの人が不安感や心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような心理的症状を訴えている。さらにウィリアムズ氏によると、暴力を振るったのが警察官の場合は、こういった症状がひどくなることもあるという。

「PTSDの症状のひとつとして、『世界は安全でない』と感じることがあります。そのためいつも緊張して、警戒するようになるのです」と、ウィリアムズ氏は指摘した。「そして本来なら自分を守ってくれるはずの人に危害を加えられたり、暴力を振るわれたりして、身の安全を守ろうと何もしてくれなかったら、それこそ世界が安全でないと刷り込むには一番の方法なのです」

コミュニテイでの法執行をめぐり、いつも警察のあり方に関する議論は進むものだ。とりわけ有色人種のコミュニティでは、警察の活動に対する感じ方は白人コミュニティと異なる場合が多い。「しかし今回起こった出来事を見て、人々は目を覚ますはずです」と、ウィリアムズ氏は指摘した。

「飛行機に乗っている時でさえ、警察は市民にやりたい放題なんだと、みんなの頭から離れなくなります」とウィリアムズ氏は語った。「命令に逆らうと、警察は市民に危害を加える恐れがあるのです」

ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。

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